壁が落ちて傾いた建物…酒造りの要となる麹室にも隙間風

“三千櫻”(みちざくら)という日本酒を手掛ける岐阜県中津川市の老舗の酒蔵が、北海道へ移転して酒造りに乗り出す。

移転の理由は、蔵の老朽化と平均気温の上昇。移転先では「町の新たな特産品に」と期待されている。老舗の酒蔵の100年先を見据えた挑戦に密着した。

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岐阜県中津川市。清流・付知川沿いに立つ、創業148年の老舗「三千櫻酒造」。

ここで酒造りを始めた初代の山田三千助にちなんで、地酒の名前は「三千櫻(みちざくら)」。

山からの湧き水を使って仕込んだお酒。年間一升瓶2万本を造っている。

すっきりとした甘口でもキレがあり、どんな料理にも合うと評判で、東京などへも出荷。ファンを拡大してきた。

本来であれば、新酒のための準備に追われるはずのこの時期。しかし2020年は違った。杜氏も務める、6代目の山田耕司さん(60)は、北海道への移転を決めた。

理由の一つが老朽化だ。
酒造りの要となる麹室。明治時代に建てられた蔵の中は、隙間風が気になるほど傷んでいた。

山田さん:
外壁はもっとボロい。裏回ると、結構(壁が)落ちちゃってて。全体的に、建物が向こうに傾いているので

山田さん:
これでも随分、だましだましやってたんですけどね。危ない感じになってきましたね

環境の変化で思うような酒が造れない…条件良い場所でもっと良い酒を

もう一つの大きな理由が、温暖化による、平均気温の上昇だ。

お酒の味を守るには徹底した温度管理が必要。わずかな気温の変化でも、思うようなお酒を造るのは難しい。

山田さん:
ここでできる、精一杯のクオリティを目指して造っていたのですけど。杜氏として、“もっと高いところにいきたい”欲求はすごくあるから。条件がよければ、もっといいものができるので。寂しいけどね。歴史で飯は食えないので

「三千櫻」を守るための決断だった。

大雪山から湧き出るきれいな水で造った酒を名物に…北海道東川町の一大事業

移転先は、北海道の中心に位置する東川町。道内最高峰の大雪山の麓、人口約8300人の町だ。

町の自慢は、大雪山から湧き出るきれいな水。そして、その水でつくったお米。

町ではこの2つを生かせるお酒を、ふるさと納税の返礼品をはじめ、町の名物にしたいと考えていた。しかし、東川町には酒蔵がなかった。

そこで、町などが建設費を負担して酒造りができる職人を招き入れる、公設・民営の新しい酒蔵をつくることになった。

どの酒蔵を選定するのかを決めるために行われたプレゼンテーション。山田さんのプレゼンには「三千櫻」への熱い思いが込められていた。そして結果は…。

東川町の松岡市郎町長:
本日は、山田さんから熱い思いの提案書をいただきまして、全会一致で可と決定いたしました

山田さん:
三千櫻があと100年っていう大きな目標があるので、この場所で、それができたらいいなと思います

煙突から出るあの匂いがしなくなるのは寂しい…中津川の常連は寂しさ隠せず

明治から続く中津川の「三千櫻」は、この日で蔵じまい。

最後の夜、長年ひいきにしてくれている夫婦が、お別れにと一席設けてくれた。

振る舞われたのは、山田さんの「三千櫻」を使った料理。

山田さんの友人:
140年っていう歴史のある酒蔵屋さんですし、おいしいお酒も造ってもらっていましたので。もう煙突から出るあの匂いがしなくなるのも、寂しいですよね…

山田さん:
そりゃ僕も、寂しいけど。北海道でいい酒を造れば、全て解決するのかなっていう気がする

歴史ある製法はそのまま…「プロとしてどこでも酒を」新たな土地で新たなる挑戦

北海道の中心に位置する東川町。新しい酒蔵が完成し、酒造りがまもなく始まる。

温度管理の設備が整った麹室。
中津川で使っていた、愛着のある貯蔵タンクがあった。

山田さん:
(貯蔵タンクは)トラックに載せてフェリーで。大変でしたよ

原料が違えば、当然味も変わる。それでも歴史ある製法はそのまま。仕込むお酒の名前は、これまでと同じ「三千櫻」だ。

山田さん:
プロ集団なので、どこでも酒はできなきゃいけないとは思っています。僕らのできるお酒を造ることが一番なので、愛していただけるかどうかは、評価が分かれるかもしれませんけど。お世話になった方がたくさんいるので、そういう方に少しでも早く届けられたらなと思います

11月中旬に仕込みが始まり、年が明けると、新しい「三千櫻」が誕生する。

(東海テレビ)

東海テレビ
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