「フランスで教会が燃え、街が炎に包まれる光景を見たら思い出してほしい。米国の過激な民主党員たちが、この国でやろうとしていることなのだ」
トランプ米大統領が19日、中西部カンザス州で開いた共和党候補の応援演説でこう訴えた。
会場では大統領の登場に先立ち、フランス各地で続く暴動の映像が大型スクリーンに映し出された。焼け焦げた車、略奪された商店、炎上する公共施設。まるで米国の未来を予告するかのような演出だった。
いまフランスでは、学校の教育環境改善を求める学生たちの抗議活動が、物価高や公共サービスの縮小に反対する全国的なデモへと発展。その一部が暴徒化し、商店の略奪や公共施設への放火が相次いでいる。
トランプ氏はこの騒乱を、移民やイスラム過激派、共産主義者によるものと断定し、11月3日の中間選挙で民主党が勝利すれば米国でも同じことが起きると警告したのである。
トランプ発言に同調する有権者
この発言が、思わぬ反響を呼んでいる。
米保守系ニュースサイト「NEWSMAX」が28日に伝えたラスムセン・リポーツの最新世論調査によると、トランプ氏のフランス暴動についての見解に同意する有権者は50%に達し、反対の39%を上回った。
しかも共和党支持者の77%だけでなく、民主党支持者の29%、無党派層でも46%が同意している。
フランスの暴動に関する報道を注意深く追っている有権者も67%に上った。
大西洋の向こう側で起きている騒乱が、米国の有権者にも強い関心を呼び起こしていることがうかがえる。
「オクトーバー・サプライズ」になる?
米国では、大統領選挙や中間選挙の直前に突然発生し、選挙結果を左右しかねない事件を「オクトーバー・サプライズ(October Surprise)」と呼ぶ。
共和党の保守派の間では、フランスの暴動こそ今年の「オクトーバー・サプライズ」になるのではないかという期待が高まっている。
保守派の論客ロジャー・サイモン氏は20日付の論考で、フランスの暴動を共産主義勢力とイスラム系勢力による「赤と緑の同盟(Red-Green Alliance)」の運動と位置づけ、共和党候補はこれを積極的に選挙戦で取り上げるべきだと主張した。
保守系誌「アメリカン・スペクテーター」も19日付で「パリが燃えている。次はワシントンか?」という見出しの記事を掲載。
民主党が中間選挙で勝利すれば、米国でも左派団体による大規模な抗議運動が起き、トランプ大統領による「反乱鎮圧法(Insurrection Act)」の発動にまで発展しかねないというシナリオを紹介している。
ただし、こうした組織的な暴動計画や、フランスの騒乱が移民によって引き起こされたという主張には、十分な裏付けが示されていない。
CNNも、暴動に移民が関与したという証拠は乏しいと指摘している。
有権者の関心をそらす作戦?
それでもトランプ氏がフランスの暴動を選挙戦の中心に据えようとしているのには理由がある。
共和党が予想以上の苦戦を強いられているからだ。
トランプ氏が19日に応援に駆けつけたカンザス州は、94年間も民主党の連邦上院議員を選出していない共和党の牙城である。
ところが今回は、共和党現職のロジャー・マーシャル議員と民主党候補のアダム・ハミルトン牧師が接戦を演じている。
背景には、イラン戦争による燃料価格の高騰や関税政策への不満がある。
ロイター通信が20日に伝えた世論調査では、トランプ大統領の支持率は過去最低の31%に落ち込んでいた。
こうした逆風の中で、トランプ氏は有権者の関心を経済問題から移民や治安への不安に向けようとしているように見える。
そして今回のラスムセン調査は、その訴えが共和党支持者以外にも一定程度受け入れられていることを示した。
もっとも、この調査はトランプ氏の発言に対する賛否を尋ねたもので、共和党への投票意向を調べたものではない。
フランスの暴動を恐れる有権者が、必ずしも共和党候補に投票するとは限らないのである。
それでも、選挙戦の最終盤になってフランスの暴動が米国の政治争点として浮上し、有権者の半数がトランプ氏の見解に同意しているという事実は無視できない。
果たしてフランスの暴動は、共和党を救う「オクトーバー・サプライズ」となるのだろうか。
それとも物価高に苦しむ有権者にとっては、遠いフランスの暴動より目の前の生活の方が切実なのだろうか。
11月3日の投票日まで、あとわずかである。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)

