投票箱のそばに、銃を持った兵士が立つ。米国の中間選挙で、そんな光景が現実になるのだろうか。
トランプ大統領は、TIME誌とのインタビューで、中間選挙前後に「反乱鎮圧法(Insurrection Act)」を発動する可能性を排除しなかった。
同誌が公表したインタビューの発言記録にはこうある。
TIME:
中間選挙を控えて、街頭で大規模な暴力が起きない限り非常事態宣言を発令することを排除しますか?
トランプ大統領:
何についても、排除も確約もしない。様子を見よう。反乱鎮圧法のことか?
TIME:
そうです。
トランプ大統領:
いいや、これまで一度も発動したことはないが発動することはできる。発動すべきだと考える人も大勢いる。
軍に投票所を管理させると宣言したわけではない。しかし、選挙を前に、国内に軍を出して法執行に当たらせる強力な権限を選択肢として残したわけで、これを受けて、全国紙のUSAトゥデイなど多くのマスコミが「大統領『反乱鎮圧法』発動を否定せず」と報じた。
苦戦の共和党 上下両院失う事態に?
その背景には共和党の苦戦がある。下院は民主党による多数派奪還が有力視され、上院にも逆風が及ぶ。選挙分析サイトHDR Analyticsの10月1日更新の予測では、民主党が上院を支配する確率は62%だった。共和党が上下両院を失う事態は、十分に考えられる。

中間選挙で負けても、トランプ氏が直ちに大統領の座を失うわけではない。だが、残る任期の政治風景は一変する。
民主党が下院を握れば、共和党主導の法案を阻み、予算をめぐって政権に条件を突きつけられる。上院も握れば、閣僚や最高裁判事などの指名人事にも歯止めをかけられる。議会調査では証人や資料の提出を要求し、政権運営やトランプ一族の事業を追及するだろう。
そして、トランプ氏が繰り返し警告する、3度目の弾劾も政治課題になり得る。下院の弾劾訴追は単純過半数で可能だ。ただし罷免には、上院の弾劾裁判で出席議員の3分の2の賛成が必要になる。民主党の勝利がそのまま罷免につながるわけではなく、党指導部も弾劾方針を確約していない。それでも大統領にとって、自らの政策を後押しする議会が自らを追及する議会に変わるのは大きな打撃だ。
反乱鎮圧法発動の可能性は
そうした局面で、なぜ「反乱鎮圧法」なのか。
反乱鎮圧法は、一般に1807年の法律として知られるが、実際は18世紀末以降の複数の法律を組み合わせた制度である。国内の反乱や重大な騒乱を鎮圧し、連邦法や憲法上の権利を守るため、軍の投入を認めている。学校の人種隔離撤廃を実行するためにも使われた。最後の発動は1992年、ロサンゼルス暴動のときだった。
米国では原則として、軍が国内で警察の仕事をすることは禁止されている。しかし、反乱鎮圧法はその例外を認める。条件によっては、州の要請なしに、州知事の反対を押し切って現役部隊を投入し、州兵を連邦政府の指揮下に置くこともできる。
発動されれば、軍人が法執行のための逮捕や捜索、騒乱の鎮圧に関わる可能性が出てくる。ただし、投票所への軍の配置や選挙への介入を禁じる別の連邦法は残り、発動だけで軍による投票所管理が合法になるわけではない。USAトゥデイによれば、ケイン統合参謀本部議長も、選挙で軍や連邦政府の指揮下の州兵を投票所に派遣したり、投票用紙や投票機を押収したりする計画はないと書簡で回答している。
それでも懸念が消えないのは、トランプ氏に近いスティーブ・バノン元首席戦略官が2026年2月、「11月にはICEに投票所を包囲させる」と発言しているからだ。
ICE(移民・税関捜査局)は軍ではないが、「選挙を守る」という名目で、連邦政府の実力組織が投票の現場に近づく発想は共通している。仮に政権が選挙関連の混乱を「反乱」と位置づけて軍を投入し、投票所への介入まで試みれば、州政府の反発、差し止め訴訟、軍の権限をめぐる争いが同時に起こりかねない。
「敗北を避けるための軍投入」は、現時点で確認された計画ではない。だが、大統領がその強大な権限の行使を排除しない以上、問われるのは発動の有無だけではない。
選挙を守るはずの国家権力が、選挙への信頼を壊す側に回ることはないか。米国は、その問いを抱えたまま投票日を迎えようとしている。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)

