「音のない世界で、言葉を使わない『対話』を楽しむ」

今月1日から20日まで東京都内で行われたイベント「ダイアログ・イン・サイレンス」では、参加者は約90分の間、音を遮断するヘッドセットを装着し、聴覚障がい者にアテンドされながら、音や声を出さずに『対話』を楽しむ。

この「ダイアログ・イン・サイレンス」は、1998年にドイツで開催されて以来、フランス、中国などで開催され、世界で100万人以上が体験している。

日本でこのイベントを主催した「ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ」の志村真介代表に、このイベントの狙いについて伺った。

――約3週間にわたる「ダイアログ・イン・サイレンス」開催、お疲れ様でした。『サイレンス』は、NHKやJ-WAVE、もちろんフジテレビでも紹介され、ずいぶん話題になりましたね。


志村:イベントは20日間でしたが、先だって7月20日からイスラエルのチームが訪日し、アテンドのトレーニングをしていました。おかげさまで『サイレンス』は、約4千人に参加して頂きました(※)。

(※)「ダイアログ・イン・サイレンス」は、1グループ12人までの参加者を、聴覚障がい者1名がアテンドする。会場は7つの部屋に分かれ(「手のダンス」、「顔のギャラリー」、「サインで遊ぶ」など)、参加者は手、顔の表情や全身を使った表現など音声に頼らない対話の方法を楽しむ。 
顔のギャラリー


――今回の『サイレンス』開催には、どのような狙いがあったのですか?


志村:
このイベントは、『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』(※)と基本的に同じものを伝えたいと思いました。いま私たちは、SNSなどでいつも人とつながっている感じがあります。
しかしつながっているのは、同質の人、同じ考え方の人が多く、それはそれで楽しいことですが、人が成長するのに必要なのは、日常とは違うところに身を置いたり、経験したりすることです。同質な人とコミュニケーションを続けていると、自分との対話の時間が少なくなり、結局自分が分からなくなるのですね。



(※)「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」:視覚障がい者にアテンドされ、暗闇の中でのコミュニケーションを楽しむイベントで、80年代にドイツで生まれた。これまで約40か国で行われ、日本では2009年から約20万人が体験している。「2020教育改革のキモ」(扶桑社)をご参照。
サインで遊ぶ


――『ダーク』や『サイレンス』では、どのような異文化との出会いがあると?

志村:
一般社会で障がい者と健常者は、健常者のほうが助けるべき存在として、障がい者は助けられるという存在として出会います。この関係性は対等ではないですね。
『ダーク』では暗闇を作って、私たちのように普段目を使っている人が、視覚を使えない状態で、普段から目を使っていない視覚障がい者と出会います。そこではお互いに目を使わない対等な出会いがあります。
『サイレンス』では、参加者は何も聞こえませんし、アテンドする聴覚障がい者も当然何も聞こえません。お互いに持っている文化を対等にすることで、影響し合う、成長し合うイベントです。

――『サイレンス』を日本に導入する際、ドイツの発案者は当初「日本人の国民性にはあわないから無理ではないか」と懸念を示したと聞いています。

志村:
実は20年前からずっと発案者と話してきましたが、当初は、日本人は無表情だし、話すときに感情を出さないし、照れくさがるから無理だよと。
しかし、やり取りする中で、こちらから『2020年に東京オリパラが決まり、これから3年間は魔法がかかるときだから、日本人は外国語が話せなくても、訪日客に対して歓迎していますという表情が出来ないといけないと思うだろうから大丈夫です』と言いました。

――東京五輪に向けて日本人が変わると。

志村:
はい。また、彼らも日本文化を研究しに訪れ、能を観に行って、イタリア人のようにパフォーマンスをしなくても、日本人は少しの感情を察知してコミュニケーションしているのだからひょっとしていけるかもしれないと。

――なるほど。ところで、『ダーク』も『サイレンス』も、女性の参加者が男性に比べて多いですね。

志村:
女性は、自分がそこに行くとどうなるのだろうという好奇心が、男性よりも高いと思います。また、自分が成長したい、新しい体験をしたいということに、時間とお金を投資する能力にたけています。
男性の場合は会社のためになる、仕事のためになるという風に頭が動かないと行動がともなわない。また、男性がこのイベントに参加すると、ストレスに耐えられなくて、やめてしまうこともありますが、女性はどんな状況であってもその中で楽しむという力が、男性に比べて高いですね。

――私は『ダーク』『サイレンス』とも取材で体験しましたが、正直言って暗闇の中では相当ストレスを感じました(笑)。


志村:
普段生活をしていて、暗闇に入りたいとか、聞こえないところに入りたいとか思う人は1人もいません。でも、20日間で4千人が参加するということは、『こういうことをやってみたい』という潜在的なwant、「欲求」があるということですね。

暗闇に入りたいとは思わなくても、自分の立場を少し自由にしたいとか、助ける・助けられるという立場を逆にしたいとか、違う環境の中で自分はどうなるのか知りたいとか、そういうwant はあると思います。

手のダンス

――『ダイアローグ』は、今後しばらくは企業研修を中心に行っていくと伺いました。

志村:
『サイレンス』では、特別協賛の清水建設が、会長以下、社長、副社長をはじめ、百数十人の社員がイベントに参加しました。
清水建設は、ダイバーシティの中、今後ユニバーサルデザインだけではなく、どうあるべきなのかと本気で取り組んでいらっしゃいます。また、『サイレンス』では、企業の障がい者雇用枠で雇われている人たちが、アテンドしています。
普段は障がい者手帳を持っているから企業に雇われている存在が、ここでは自分がいないと物事が進まないという経験をして企業に戻っていく。そうすると彼らは自己肯定感を持って企業の中で働き始め、これまでの関係性も変わっていくと思います。

――では最後に『ダイアローグ』の今後のビジョンについて教えてください。

志村:
企業研修だけでなく、彼らの違う感覚を活かして、企業と商品やサービスを共同開発していこうと考えています。
東京ではしばらく常設の会場が無くなりますが、大阪では積水ハウスとのコラボで『対話のある家』があります。また、佐賀県では学校教育で、今年も千人くらい子どもたちが参加してくれています。

これまで私たち日本人は、分けることや整理することにたけていました。が、東京オリパラに向けて、社会の変化を加速化させる触媒として、イベントを社会に提供していきたいと思います。

志村真介代表