右半身にまひが残るなか、障がいの有無にかかわらず料理を作り、味わってもらおうと活動する男性シェフを取材しました。
今月2日、広島市内で開かれた料理教室。
【玉澤良樹さん・参加者】
玉澤さん「4本くぎに、ジャガイモを刺します。それで、むいてく」
使用するまな板には食材を固定するくぎがついています。
参加者「(くぎは)たしかに絶対4本の方がいい、そういうことか」
参加者の中には体の一部がまひし、思うように動かせない人もいます。
この日、開かれたのは障がいの有無に関わらず、すべての参加者が一緒に料理を作る場、「インクルーシブキッチン」。
【イタリアンシェフ 玉澤良樹さん】
「(刃が)入ったらもう動かないでしょ。このまま落とすんです。そしたら切れるので。こんなになっても、何とでもなるので、切って接地面を大きくするのが目的です」
主催したのはイタリアンシェフの玉澤良樹さん。
自身も右半身にまひを抱えています。
ディープで粋な飲食店が集まる広島駅西側のエキニシエリア。
玉澤さんはその一角で、イタリアンレストランを営んでいます。
――お店で料理を出すイタリアンシェフ 玉澤良樹さん
「右側がニンジンのムース、カップに入っているのが温かいジャガイモのスープです」
2014年のオープン以降、確かな味が多くの人に愛されてきましたが、玉澤さんは2023年、脳梗塞を発症。
それまで包丁を握っていた右手は思うようには動かなくなりました。
【イタリアンシェフ 玉澤良樹さん】
「(入院)初日に『店に復帰したい』と、『車の運転がしたい』という、2点だけを言ったんです。『相当ハードル高いです』って言われましたけど、『高い』って言われても、やってみなきゃわからないじゃないですか」
「店に戻りたい」その一心でリハビリに取り組み、脳梗塞の発症から半年余りで店に復帰。それ以降は、利き手ではない左手で店を切り盛りしています。
【常連客は】
「(再開したときは)ビックリしてうれしかった。(自分は)こんなことできないって思った。この人すごい。そう思いながら、いつもここで食事するんです」
【玉澤さんの妻 聖子さん】
「ありがたいことに、お客さんも来てもらえるし、働くことがリハビリになっているのでいいのかな」
復帰への過程で玉澤さんの頭に浮かんだのは、同じ障がいに苦しむ人たちにも、自信をもって一歩踏み出してもらいたいという思い。
それこそが、インクルーシブキッチンの出発点でした。
【イタリアンシェフ 玉澤良樹さん】
「誰かできるという事例があれば、そこを目指してやるっていう方向性が出るじゃないですか。家庭で諦めていた人が、できるようになることも可能ですよね。それを伝えたかった」
そうして始まったインクルーシブキッチンは今回で3回目。
玉澤さんが大事にしているのは、参加者のチャレンジする姿勢です。
1つ1つの作業に時間はかかりますが、技術的なアドバイスをしながら、まずは自分の手で取り組んでもらいます。
【イタリアンシェフ 玉澤良樹さん・参加者】
参加者「あまり、素材としては良くない」
玉澤「やったことが大事なので何でも。あんまり細かく考えない。カットできたらOKくらいの気持ち。イタリア人も雑ですから。実際は」
――材料をつぶす参加者
参加者「結構力要りますね」
参加者「要りますね」
一方、障がい者への理解を深めることが通常のリハビリ指導や福祉用具などの改善につながる、という考えから、リハビリの仕事に携わる人にも、あえて利き手ではない片方の手だけでの料理に挑戦してもらいます。
【作業療法士】
ーーニョッキに成形しようと・・
「難しいです」
「力が均等に入らなくて」
玉澤さんが目指すのは、障がい者と健常者の間に全く壁のないフラットな社会。
会場では全員が苦戦し、そして、楽しみながら約2時間かけてニョッキを完成させました。
完成した料理を参加者全員が囲み、歓談しながら楽しむ光景は、まさに玉澤さんが目指す社会の姿です。
障がいをもつ人たちに、自信をもって踏み出すよう、背中を押します。
【イタリアンシェフ 玉澤良樹さん】
「周りに障がい者がいたら、うまくいっていますもんね。絶対。
周りにいないから、(健常者は)対処の仕方が分からない。
こうやって社会に出る障がい者が増えたらいいなって」
実際にインクルーシブキッチンでの「成功体験」は、参加者が一歩を踏み出すきっかけとなっています。
【神経障害を抱える参加者】
「私は、いつかはパン教室をやりたいという大きな夢がありました。病気でそれができなくなったけど、話を聞いたり、ここに来させていただくことで、絶対もう一回、その夢を叶えたいということを思っています」
【大阪から3回目の参加】
「キッチンに行く回数は、増えてるというか、0から増えてます。(以前の参加後)玉澤さんにお知らせしたんです。『子どもに筑前煮を作ってやることができました』って。すごく玉澤さんが喜んでくださって、この後ろ向きな私を、前向きにしてくれたのは玉澤さん」
【イタリアンシェフ 玉澤良樹さん】
「皆さん、ありがとうって帰って行かれる表情を見たときに、良かったなって。地道に何年かかるかわからないですよ。何年かかっても、活動を賛同してもらえる人たちがやってくれれば、誰も排除しない、インクルーシブな社会ができるんじゃないのかなって」
障がいをもつ1人でも多くの人に、自信を持って社会に出てもらいたい。
誰もが自分らしく生きられる社会を目指して、玉澤さんの取り組みは続きます。
