2020年は新型コロナウイルスの影響で、私たちの生活は一気に変わった。

11月は「夫婦のカタチ」を特集しているが、感染防止のために、テレワークや外出自粛など自宅で過ごす時間が増え、家庭内のコミュニケーションの機会が増えたことでより円満な関係性になった夫婦や、逆にストレスなどが溜まり“コロナ離婚”となった夫婦も…。良くも悪くも新型コロナウイルスがきっかけとなったことだろう。

仕事や育児などに追われる日々の中、互いの存在を見つめ直すいい機会だが、その一つとして「卒婚」を紹介したい。

ガーデニングなど気兼ねなく趣味を楽しむことができる(画像はイメージ)
ガーデニングなど気兼ねなく趣味を楽しむことができる(画像はイメージ)
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卒婚とは2000年代に登場した造語で、離婚をせずに婚姻関係は維持しつつも、それぞれが人生を楽しんでいくというスタイル。別居という形を選ぶことが多く、必要なときや正月などのタイミングで、年に数回会う関係だ。

しかし「卒婚」という言葉自体は浸透してきたようにも思えるが、実際はまだまだ少ない。実際はどうなのだろうか? そしてメリットや注意点は? 離婚調停や男女トラブルなどを扱うレイ法律事務所の阪口采香弁護士に話を聞いた。

双方が気兼ねなく生活ができることが魅力

――そもそも、卒婚とは何?

造語ですので、まず離婚のように法定されているものではありません。定義は定まっていませんが、共通認識としてあるのは「離婚はせずに婚姻関係を維持したまま、夫婦がそれぞれの生活を尊重しながら自由に暮らしていく」ということです。


――どのような点にメリットがあるの?

離婚とは異なり、離婚届の提出や財産分与、親権の問題などの手続きはありません。「夫として」または「妻として」の役割にとらわれず、双方が自由に気兼ねなく生活ができることが魅力ではないでしょうか?

また、例えば離婚すべきか迷っている方にとっても、いったん卒婚を通してそれぞれの生活を経てから、また元の婚姻状態にいつでも戻ることもできます。離婚届を提出していないため、戸籍上は婚姻関係が維持されているからです。いつでも元の生活に戻れる、かつ自由に暮らせるということが最大のメリットだと考えています。

元の関係にいつでも戻れるのが卒婚の魅力のひとつ(画像はイメージ)
元の関係にいつでも戻れるのが卒婚の魅力のひとつ(画像はイメージ)

――一方で、デメリットは?

ふたりの関係性がすごく曖昧な点です。婚姻関係は保っていますので、例えば「新しい恋人を作ってもいいのか?(不貞関係にならないのか?)」といった問題が生じる可能性があります。

最初に指摘しましたように、「卒婚」に決まった定義がないことから自分の都合の良いように解釈し、双方の認識にズレが生じる可能性が高い。例えば、妻側は「互いの生活を尊重するために、夫婦としての婚姻関係を維持しつつ自由に暮らしましょう」というだけの認識だったのに、夫は「これで俺は自由だ。新しい恋愛をしたい」と派手な生活を送り、それが慰謝料請求のトラブルへと発展することもあり得るのです。

また、生活費の問題も生じます。これまでは子育てに専念してきた専業主婦で、今から自分の収入だけで生活できるような職を探すのは難しい、という方もいらっしゃいます。

合意書作成が卒婚のトラブル回避に有効

――では、このようなトラブルが生じないためにはどうしたらいい?

夫婦間での合意書を作成すると良いでしょう。今後の生活費や不貞行為の扱い、「婚姻関係をただ戸籍上、形骸的に残しているだけなのか、それとも夫婦としての愛情はあるが互いを尊重するという観点から卒婚をしているのか」などといった共通認識を得るためにも合意書はあった方がいいと考えます。

ただし、卒婚には法定された手続きというものがないので、「合意書がなければ卒婚ではない」というわけではありません。


――そんな卒婚は実際、増えている?

「子育ても終わったし、これからは自分らしい生活を別々にしようか?」などと自然と卒婚のような形式を取られている方はいますが、意識して卒婚をしている方はまだ少ないという印象です。

私が過去に対応した中で、離婚はせずにそれぞれの暮らしをされている方で、後に相手に新しい恋人ができたので不貞行為の慰謝料請求をしたいとご相談がありました。お二人は「卒婚」という意識はなかったようですが、話を聞くといわゆる「卒婚」の状態でした。このように合意書も交わさず、元々は愛情はあるけど別居するという夫婦はもしかしたら増えてきているかもしれません。

自分の好きなことに集中するために卒婚を選ぶ人も(画像はイメージ)
自分の好きなことに集中するために卒婚を選ぶ人も(画像はイメージ)

――では、どんな人が卒婚をしている?

離婚となると完全に他人に戻ってしまいますので、家族に対する愛情はありつつも、子供が自立したので自分の時間がほしい…。そんな思いを叶えたい人が卒婚を選んでいると思います。なお、“卒婚=別居”を想像されるかもしれませんが、一つ屋根の下で暮らしながらも洗濯や料理などの家事も含め、自分のことは全て自分でやるという卒婚もあります。本当に千差万別です。

そして年代の傾向は、やはり仕事や子育てがひと段落した夫婦に多いですね。熟年離婚をされるような年代の方たちです。子供が独立して夫婦だけの時間がまた戻り、父母の役割をある程度終えた段階で、「それぞれが好きなことをやっていきませんか?」ということが、私が対応した中でもありました。子育てから解放され、余生を自分の時間として有意義に過ごしたいと考えるような夫婦でしょうか。
 

afterコロナで卒婚は増える?

――なお今年は、コロナ禍で夫婦が一緒にいる時間が増えた。何か影響あったと考える?

もちろん「互いの愛情を確かめ合える時間が増えた」などのプラス面もあります。一方で外出自粛などのストレスに加え、そもそもあった性格の不一致などの問題が一緒にいる時間が増えたことで一気に顕在化し、夫婦仲が悪くなったという話も聞きます。

相談者の中には、一緒に食事をする機会が増え、「こんなに食の趣味が合わなかったっけ?」と気づいた方もいらっしゃいました。「離婚する運命が、ちょっと前倒しになった」ということだと考えます。


――最後に、今後は卒婚が増えていくと考える?

卒婚というのは、その名が表すように「婚姻関係を卒業する」ことです。これまで務めてきた夫・妻としての役割というのが暗黙のうちにあると思います。これに区切りをつけて卒業し、「互いを尊重して自由を楽しんでいく」ものです。

現代において、女性の社会進出もあり「男はこうあるべき」「女はこうあるべき」という男女の垣根が消えつつある中、卒婚という概念が、離婚以外の選択肢として当然となってくるか、卒婚という言葉がいらないくらい自然に社会に馴染んでいくかだと考えています。「卒婚が現代社会には全く馴染まなかった」ということにはならないでしょう。

阪口采香弁護士
阪口采香弁護士


今後も仕事はテレワークが中心という企業もあり、地方移住する人たちも出始めた。田舎暮らしをしたい夫は地方で仕事やリタイヤ後の生活を楽しみ、妻は引き続き都会暮らし。そんな形の卒婚など新しいカタチの夫婦の関係”も、今後は増えてくるかもしれない。
 

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。