鹿児島県は花の作付面積が全国3位を誇る、有数の花の産地だ。しかし県内1世帯あたりの花の消費額はコロナ禍後に減少が続き、10年前の6割ほどにまで落ち込んでいる。そんな厳しい状況の中、「葬儀の印象を変えたい」と語る菊農家や、「カフェに来たら花が欲しくなるかも」と工夫を凝らす生花店が、それぞれ独自の取り組みで業界を盛り上げようとしている。
午前6時、朝焼けの中で始まる収穫作業
枕崎市にあるマルヨシ花園では、毎朝6時から収穫作業が始まる。約2ha、40カ所ほどの農業用ハウスで菊を栽培し、日照時間や温度を調整することで1年を通じて収穫できる体制を整えている。従業員が一輪一輪手作業で摘み取るのが基本だ。
摘み取られた花は一見まだ咲き切っていないように見えるが、それには理由がある。副代表の楠千春さん(39)はこう説明する。「お客さまの手元に届くときにちょうどいい咲き方になるように、このくらいで収穫する」。
70年以上にわたって菊の栽培を続けてきたマルヨシ花園。楠さんはここ数年での需要の変化を肌で感じている。「体感としてコロナ禍から色々変わったと感じる。菊は葬儀がメインだったが、葬儀の縮小やお花を飾る余裕もないというか、なかなか手が出せない方も増えているように思う」。

「仏花」から「普段使い」へ——人気急上昇の「フルブルームマム」
需要の変化に応えようと、夫の楠拓志代表(41)が力を入れているのが「フルブルームマム」と呼ばれる菊だ。通常の収穫用とは異なり、ハウスの中で満開まで育て切ることでボリュームのある花に仕上がる。きれいに育つ株を厳選して栽培するのがポイントだという。

さらに、菊が染料を吸いやすいという特長を生かし、カラフルに染め上げた商品も展開している。拓志代表はその狙いをこう語る。「菊は仏花として扱われていたがブライダルとか普段使いもできる。今までは作りやすい生産性の高いものをバンバン作ってたくさん出せば儲かるという感じだったが、『欲しい』というニーズに合わせたものを農家が変わって作っていくのが今後必要になると感じている」。
こうした取り組みを支えているのが、枕崎の若手農家を中心とした「枕崎市大塚周年菊研究会」だ。月1回会合を開き、高温対策や肥料の改良などについて情報交換を行っている。会長の天達力斗さんは「子供たちに花の魅力を知ってもらって、将来の消費につなげる取り組みもしている。菊を盛り上げていけたらと思う」と話す。
カフェで花に出会う——指宿の生花店が仕掛ける「敷居を下げる」戦略
一方、指宿市にある「指宿ボタニカルハブ花源」は、生花店の隣にカフェを併設するという異色のスタイルで注目を集めている。代表の源川祐策さんが2年前にオープンしたこの店のコンセプトは、「初めて花を触る人が敷居を低くするという花屋」だ。
源川代表がカフェを併設した理由は明快だ。「若い子たちは花屋さんにはなかなか足を運ばないけど、カフェには来る。カフェに来て花屋の中で過ごすと花が欲しくならないかなと思って始めた」。
店頭には枕崎産のフルブルームマムをはじめ、色とりどりの花が並ぶ。午後3時を過ぎると続々と若い客が訪れ、「お花を楽しめるすてきなカフェ」「お花を買いたいなと思って、そこの花も見てみようかなと思っている」と話す声が聞かれた。
会計を終えた客には、源川代表から一輪の花がプレゼントされる。包み紙には花の飾り方が漫画で描かれており、初めて花を飾る人にも親しみやすい工夫が施されている。さらにカフェ利用客は自宅用に購入する花が1割引になるサービスも用意されている。

こうした取り組みが実を結び始めていると、源川代表は手応えを感じている。「『初めて花をもらって飾りました』『会社で落ち込むことがあっても花が家の中にあるのを見て気持ちが軽くなった』『今度は自分で買いに来ました』というお客が結構いる。こういう仕事をやっていてすごくうれしい瞬間です」。
花の消費を日常へ——現場の模索は続く
全国有数の産地でありながら、消費の低迷という現実に直面している鹿児島の花産業。農家は「欲しい」ニーズに寄り添った花作りへと転換を図り、生花店は若い世代が花と出会う場を生み出している。「葬儀の印象を変えるような取り組みができないか」と語る楠千春さんの言葉は、業界全体の変革への意志を象徴している。

生産者と販売者がそれぞれの現場で知恵を絞り、花を日常に根付かせようとする取り組みは続く。努力の花が咲く日を目指して、枕崎と指宿の現場は今日も動いている。
【動画で見る▶鹿児島は全国有数の花の産地!でも減少する消費額 魅力広げようと農家や生花店が奮闘中 】

