アジアで初めて「星空保護区®」アーバン・ナイトスカイプレイス部門の認定を受けた、福井県大野市の南六呂師エリア。“星空の世界遺産”ともいわれるこの認定の裏には、産官学と地域の人たちが一体となった地道な活動があった。山に囲まれた地形が生んだ「天然の城壁」と、人々の思いが重なって守られてきた星空の魅力に、福井の身近な疑問を解き明かし驚きを見出すローカル情報バラエティ番組「なんだー?ワンダー!」で迫る。
盆地が生んだ「天然の城壁」が生み出す美しい星空
「大野は山に囲まれた盆地で、周辺の街からの光が入りにくい」
福井工業大学建築土木工学科の下川勇教授は、大野の星空の特徴をこう語る。
美しい星空の妨げとなる、街の光が夜空を明るくしてしまう現象は「光害」と呼ばれる。勝山市にある取立山の山頂付近から福井市方面を撮影した映像では、市街地の空が街の光で白く染まっているのが分かる。
一方、大野市側はというと、岐阜・愛知方面からの光の影響はあるものの、周囲の山々が光を遮る天然の城壁となり、澄んだ夜空が広がっている。
しかし、星空が美しいだけでは「星空保護区」の認定条件を満たさない。下川教授らは、南六呂師にある数百の街灯と公共施設の照明をすべてチェックし、星空に影響を与えにくい照明に交換。そのビフォーアフターまでを342ページにも及ぶ報告書にまとめた。
その3年をかけた粘り強い取り組みが実を結び、アジア初の部門認定につながったのだ。
下川教授は「人間の活動が自然に寄り添うことで自然環境が守られる、という意味では、日本に限らず全世界の参考になる場所」と話す。
かつて日本一の大きさだった反射式望遠鏡
南六呂師エリア内にある県自然保護センターには、自治体としては全国でも珍しい天文施設がある。
天文指導員の山岸登美子さんが案内してくれたのは、完成当時(1989年)は日本一の大きさを誇ったという口径80センチの反射式望遠鏡。
ニュートンが発明した反射式望遠鏡は、筒の奥に設置した鏡で光を集め、反射させることで天体を拡大して見る仕組み。筒を大きくするほど大きな鏡が使えるため、暗く遠い天体の観測に適している。
この望遠鏡は、数千光年先の別の銀河までも鮮明に映し出すため「土星の輪っかがきれいに見えるので、みんな感激されますね」と山岸さん。月のクレーターの高さまで分かるという。
毎週土曜の夜には無料の観望会を開催しているほか、星空写真講座やプラネタリウムも実施している。大野には、天候に左右されずに星の世界を楽しめる環境が整っているのだ。
「小遣いはすべて望遠鏡」45年間星を追い続ける男性
星空保護区の認定には、産官学の取り組みに加え、民間の活動も欠かせない。 大野市では月に1回、有志による星空観察イベント「星のまち鑑賞会」が開かれている。
その実行委員会の橋本恒夫会長の元を訪ねると、倉庫に大小さまざまな望遠鏡が並んでいた。
「酒、たばこ、ギャンブルはしません。お金はすべて望遠鏡に」と笑う橋本さん。アンドロメダ銀河など、 これまで数々の天体写真を撮影してきた。
星に魅了されたのは、姉に連れられて近所の川でペルセウス座流星群を見た小学3年生の頃だったという。以来約45年間、星を追い続けてきた。
橋本さんは星空の魅力を「数学的」と「文学的」という二つの視点で語る。「宇宙は数学で解くことができる」とする一方で、清少納言が「枕草子」ですばるや月の美しさを描き、宮沢賢治が「銀河鉄道の夜」で星空を詩的に表現した事に触れ「物理法則を完全に超えられるのが文学。そして宇宙はそのままで美しい、それが芸術」と語る。
「星空学校を作るのが夢」星に救われた女性教師の挑戦
大野市富田小学校の教諭・岡野円香さんは、「星のソムリエ」(星空案内人)の資格を持ち、教壇に立ちながら大野の星空の魅力を広める活動を続けている。
星好きになったきっかけは大学受験の失敗だった。「初めての挫折で、つらいなと思ってぱっと見上げた星空がほんとに美しくて、もうちょっと頑張ってみようという気持ちになった」。その傷は、星空が癒やしてくれたという。
3年前に阪谷小学校に赴任した際、校長から「星の取り組みを一緒にやりましょう」と声をかけられ、活動を本格化させた。しかし、活動を続けるうちにある違和感に気づく。「子供たちは星がきれいなのが当たり前になっていて、美しさの価値が分かっていなかった。夏の大三角も、星がありすぎてどれで三角形を作ったらいいか分からないと、ぜい沢なことも言っていた」というのだ。
それでも、岡野さんらの地道な活動が実を結び、星に興味を持つ子供たちが増えていった。
急きょ開いた星空観察イベントには30人以上が集まった。あいにくの曇り空だったため、室内での望遠鏡講座となったが、子供たちの瞳は星のように輝いていた。
そんな阪谷の子供たちが「原動力になっている」という岡野さん。「子供から大人までが集まって、みんなで大野の星が楽しめる星空学校のような場所を作るのが夢」だという。
大野市・南六呂師の星空は、産・官・学・民が一体となって守り、広め、世界に認められた唯一無二の場所。学問を超えた、人々の心を震わせる場所になっている。

