日銀が利上げを決めたにもかかわらず円安が進んでいたなかで、「レートチェック」観測が市場を揺るがせた。円相場は、一時1ドル=156円台まで円高方向に動き、日本の連休中に実弾介入が行われることへの警戒感が広がっている。
「タカ派」姿勢目立ったFRB
先週は、日米の中央銀行が金融政策を決める会合を相次いで開く「中銀ウィーク」だった。FRB(連邦準備制度理事会)は、投票権を持つ12人全員が賛成して0.25%の利上げを決めた。会合後の16日の会見で、ウォーシュ議長は「全会一致の決定は、より迅速に物価安定を達成する決意を示すものだ」と述べ、「インフレ率は高水準で、政策措置は目標の2%への回帰をより早期に実現する後押しをする」と強調した。
公表された経済見通しは、参加者19人のうち18人が示した見方の中央値で「年内0.25%の追加利上げがあと1回」想定される内容となり、金融引き締めに前向きな「タカ派」的姿勢が目立った。

金利の上昇基調が世界的に強まるなか、アメリカの長期金利は、10年債利回りが一時5%台に跳ね上がり、19年ぶりの高水準をつけるなどしていた。FRBがインフレ抑制に強い姿勢で取り組むとの観測が高まったことで、物価高への対応が遅れる「ビハインド・ザ・カーブ」への懸念が薄まり、足元の長期金利の上昇の勢いは和らいだ。
日銀利上げは2人が反対
一方、日本では、日銀が公表した金融政策決定会合の結果について、「ハト派」色を帯びた利上げだと受け止められた。日銀は18日まで開いた金融政策決定会合で、政策金利を0.25%引き上げ、1.25%程度にすることを決めた。原油高と円安という物価の上振れ圧力が高まるなか、6月の会合から3カ月という最も短いペースでの政策金利引き上げに動いたが、政策委員9人のうち、2人が利上げに反対した。反対票を投じたのは、浅田統一郎審議委員と佐藤綾野審議委員で、浅田氏は「経済の状況が必ずしも強いとはいえない」、佐藤氏は「経済・物価情勢が、現時点ではこれまでと比べて大きく加速している状態にあるわけではない」などと主張、高市政権下で政策委員に任命された2人がそろって反対した格好となった。
円相場は、18日午前には1ドル=156円10銭台で推移していたが、正午前に日銀が会合結果を公表すると、利上げへの反対が2票入ったことが追加利上げ観測後退を通じて円売りを勢いづかせ、一時156円90銭台まで円安が進んだ。
植田氏「政策の局面が変化」
植田総裁の発言に早期利上げをめぐる手がかりを見出せるか、市場関係者の視線が集中するなか、午後3時半に総裁の会見が始まった。

市場がまず反応したのは、開始から10分あまり経過した午後3時40分ごろの発言だ。植田総裁は「基調的物価上昇率が2%の目標を超えて上振れていくリスク」を指摘し、「政策の局面が変化した」と述べた。この先の利上げを示唆する内容だと受け止めから円買いが入り、いったんは156円台半ばまで円高に振れた。しかし、この発言からわずか数分後、植田氏はこう述べた。「今後の利上げペースがどうなるか、それについて3カ月に1回とか、何か特定のものを念頭に置いているかと言われれば、それはない」。さらに「経済物価情勢の見通しを点検し、適切に毎回の決定会合でしっかり分析して政策を決めていく」などと述べたが、この先の利上げ時期やペースについて具体的には言及せず、適切な金融政策を通じて「結果的に大幅な利上げに追い込まれる可能性を減らす」などと言及するにとどめた。
こうした発言が、利上げの先行きについて明言を避けたと受け止められたことが、円売りを誘うことになる。円相場は再び円安方向に傾いて、下値を切り下げる流れとなった。会見終了後の午後5時過ぎには、一時157円80銭台まで円安が進んだ。インフレ抑制をめぐるFRBとの姿勢の差が浮き彫りとなったとして、利上げによる対応が後手に回る「ビハインド・ザ・カーブ」リスクの可能性も意識された。
連休前に「レートチェック」か
「レートチェック」観測が広がったのはこのあとだ。円相場は18日の欧米市場でも、円売りが膨らむ展開が続き、一時158円台前半と、約2週間ぶりの安値をつけていたが、日本時間の18日深夜から19日未明にかけて、急速に円高に反転し、156円台後半まで押し戻される場面があった。円買い介入の前段階として、日銀が市場参加者に為替相場の水準を照会する「レートチェック」を行ったとの見方が強まるなか、円が急騰した。

日本はシルバーウィークに入ったが、大型連休中は市場参加者の数が減り、値動きが一方向に振れやすい傾向がある。市場関係者の間では、「レートチェックに続き、連休中に円買い介入があるのでは」と警戒する声が出ている。政府・日銀は、7月~8月に15兆円を超える円買い介入を行いアメリカも協調介入に動いたが、これに先立ち、ゴールデンウィーク期間に入った4月末から5月上旬にかけて11兆円を上回る規模で介入を実施している。大型連休中の介入は2024年にも実績があり、直前の植田総裁の会見での発言が円安を容認したと受け止められ円売りに弾みがつくなか、ゴールデンウィーク期間中に円買い介入が行われた。
シルバーウィーク期間に、政府・日銀は実弾介入に打って出るのか。国内勢の取引が少なくなる連休中、市場の警戒が続くことになりそうだ。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

