近年、小中学校で不登校の子どもが増加傾向にある。
東京都では、不登校の児童・生徒数が2024年度までの10年間で約3倍になり、教育現場の大きな課題となっている。
子どもに向き合う人たちの取り組みから見えてきたのは、「人と人とのコミュニケーション」の大切さだった。
「学び」を支えるボランティア塾
東京・江戸川区の住宅街の一角にある、ボランティアで営まれる「えどがわ夜間ぬくもり塾」。
教員は約10人と小さな所帯で、子どもを支える活動を10年間続けてきた。
不登校をはじめ、学習についていけないなど、支援を必要とする子どもを約2400人にわたって指導してきた。
塾長の白井正三郎さんは、学校の現場では難しいマンツーマンの指導が重要だと考えている。
講師は教員経験者も多いが、白井塾長は、「先生方は、学校現場の苦労を知っているからこそ、子どもたちを支えたいという思いがあるのかもしれない」と話す。
白井塾長自身、江戸川区の元教育長で、学校現場との人脈も豊富だ。
現場の先生から、「この子をお願いしたい」と打診があることもあり、学校とこうした「第3の場所」が連携していくことが重要だと考えている。
「無償」にこだわる運営
白井塾長は、「無償だからこそ、ノルマに追われず、じっくりと生徒に向き合うことができる」と話す。
しかし、無償での塾運営には苦労も多い。
「ぬくもり塾」がある江戸川区は、ボランティア活動への助成金として、ボランティアセンターから年間4万円が支給されるが、使用用途は物品の購入などに限られる。
この助成金は先生への交通費に充てることはできないため、近年は、地元の商工会などにかけあい、賛助金を集めているという。
一方で、ほかのボランティア団体に比べて恵まれていた面もあるという。
「ぬくもり塾」は江戸川区が平日に開設している不登校支援事業「みらいサポート教室ふなぼり」の施設を借りることで、光熱費、場所代が節約でき、施設が普段使っている教材も借りることができている。
「ぬくもり塾」では、土曜日の夕方5時から授業が始まるが、開始1時間が過ぎたころから、小学生たちのワイワイと楽しそうな声が聞こえてくる。
ここでは勉強だけではなく、一緒に遊んだり、会話をしたりする時間を大切にしているという。
白井塾長は、「ぬくもり塾は学習の場だけではなく、学校や家庭では話せないことを話せる場」だと話す。
居場所がうまれ、目に輝き
高校1年生の萬斗真さんは、小学1年生のころ、いじめがきっかけで不登校になり、勉強の遅れを取り戻すために塾に通い始めた。
絵を描くことが好きだった萬さんは、授業終わりに先生に見てもらいながら絵を描くのが習慣で、その時間が楽しみだったという。
中学生のころ不登校になり、今もぬくもり塾に通っている高校1年生の宮崎裕都さんは「かけがえのない居場所」だと話す。
また、高校1年生の小出駿太さんは中学2年生の頃、人間関係や勉強の問題が重なって不登校になり、この塾に通い始めた
ボランティアで支えてくれた先生の姿や言葉に刺激され、「人のためになる仕事がしたい」という夢ができ、いまは警察官を目指して勉強している。
白井塾長は「寄り添いながら勉強を教えていくことで、子どもの居場所が生まれている」「勉強をきっかけに、自信を失っている子どもが自信を取り戻し、喋るようになり、目の輝きが変わってくる」と話す。
駄菓子店でテーブル囲み談笑
東京・小金井市には、子どもたちが友達や店員との時間を楽しみ、悩みを持つ子どもの居場所にもなっている駄菓子店がある。
店長と店員、パートの3人で営まれる「駄菓子屋こまち」だ。
4畳半ほどの狭い店内の中央には大きなテーブルが設置され、子どもたちが購入した駄菓子などを食べながら店員らと談笑している。
子どもたちに話を聞くと、ここに来るのは「安くてみんなと話せるから」だと話す。
店長の中山董二郎さんは約20年前、自身が営んでいた菓子工場の廃業をきっかけに、「子どもの喜ぶことをはじめたい」と駄菓子店を開業し、子どもの居場所を育んできた。
背景には、今の子どもを取り巻く環境への問題意識がある。
「子どもも大人も、いまは余裕がなくなってしまっている。私、お母さんや先生に言うんですよ『勉強も大事だけど、遊びなさい』って」「我々の時代は遊びの中からアイデアが出ていた」と話す中山さん。
不登校の児童・生徒が増える背景として、「子どもが弱くなった」という声もあるが、以前より子どもが窮屈な時代を生きているという側面もあるかもしれない。
放課後の「遊び」として、気軽に立ち寄れる駄菓子店は、そんな時代へのアンチテーゼだろうか。
「遊び」を通して、こころにゆとりをもつこと、何気ない話や、相談ができる「居場所」に出会うことが、子どもが活力をもつきっかけになるかもしれない。
不登校でも引きこもらないで
この駄菓子店を訪れる子どものなかには、不登校などの悩みを持つ子もいるという。
店員の佐藤拓海さんは、中学生の頃の不登校経験を生かして、子どもたちに向き合っている。
学校以外の「居場所」が不登校を乗り越えるきっかけになったと話す。
「この駄菓子店があったからこそ、私も不登校になっても頑張ってこられたし、環境にすごく恵まれていた。学校や家庭だけではなく外の力を借りながら徐々に復帰することが出来た」と話す。
佐藤さんは、不登校の子どもに対して、「不登校が悪いとは言わないが、引きこもらないでほしい」「SNSに逃げ場を求めるのではなく、人と人とのコミュニケーションを大切にしてほしい」と伝えているという。
記事の最後に、この駄菓子店が参加している「街のとまり木」という取り組みを紹介しておきたい。
NPO法人「多様な学びプロジェクト」が展開する「街のとまり木」は、全国の児童館やカフェ、商店などに呼びかけ、気軽に立ち寄れる場所を広げて子どもたちをサポートしている。
協力している施設は600施設近くに及び(2026年7月時点)、「街のとまり木」のホームページに紹介されている。
こうしたネットワークを通して「居場所」を見つけることが出来るのも、この時代ならではではないだろうか。
「人と人とのコミュニケーション」に触れる場所が、多くの子どもに届いてほしい。

