犯罪や非行に手を染める少年たちの中には、過去に虐待を受けた経験がある人も少なくない。少年たちの更生に向け、幼少期に得られなかった成長の機会を改めて支える「育てなおし」の必要性を説く専門家を取材した。
「育てられていない」16歳と18歳
交際していた女性の援助交際、いわゆる「パパ活」の相手だった男性を脅して現金を奪おうと企てた、当時16歳の少年。その少年に「3万円の報酬」を持ちかけられ、計画に加担した当時18歳の男。
2人は2025年4月の夜、広島県府中町の公園で男性に暴行を加えて殺害した後、金品を奪ったとして逮捕・起訴された。
2026年6月〜7月、広島地裁で開かれた2人の裁判員裁判。争点となったのは、凶悪事件を起こした10代の2人に刑事処分を科すのか、それとも少年院での保護処分とするか。
広島地裁は「刑事処分が相当」として、少年に懲役20年、男に懲役18年の実刑判決を言い渡した。
2人のうち、当時18歳の男の弁護側の証人として出廷したのが、福山大学の中島学教授だ。
犯罪学の専門家である中島教授は、少年院や刑務所のトップを務めた経歴を持つ。中島教授が法廷で男の更生のために必要だと主張したのが、「育てなおし」だった。
「対象者は『育てられていない』という前提。幼少期の試し行動や反抗だとすると、2歳児、3歳児だと思ってもう1回そういったところから成長の課題を1つずつクリアしていこうというのが、まさに“育てなおし”です」
中島教授は、男が控訴して審理が継続しているため、面会の内容や判決の受け止めなどについては話せないとしたうえで、「育てなおし」の意味と意義を多くの人に知ってほしいと、インタビューに応じてくれた。
少年院収容の男子、4割以上が虐待経験
中島教授が法廷で語った内容によると、男は幼少期、両親の殴り合いのけんかをよく目撃していた。小学校低学年からは養育者が頻繁に代わるといった環境の中で育ったという。中島教授は「負の体験によって心理的にもろくなり、自分で正しい判断ができなくなったことが犯行につながった。育てなおしによる改善が可能」だと主張した。
「罰を与えれば本人がいい子になる、刑務所に入ればまっとうな人間になって帰ってくるなんてことは、ある種の幻想。個人に責任がないとは言いませんが、環境がそうさせているものはものすごく大きい。その環境をどういうふうに変えていくのかが非常に大きな課題です」
「育てなおし」の現場の1つが、東広島市の広島少年院だ。
おおむね15~20歳の約80人が収容され、社会復帰に必要な生活態度や学力のほか、就労に必要な能力などを身につける。
広島少年院の砂田首席専門官は、少年院での“学びなおし”についてこう話す。
「例えば何らかの理由で中学に行っていなかった在院者がいるとすると、中学で学ぶべき基礎学力、対人関係のあり方などを学びなおすということは非常に大切だと思っています。学力がなければ職員とともに一から教えていくという過程が行われています」
広島少年院では、虐待経験など成育環境に問題がある少年に対して、同じような境遇の在院者同士で話し合うグループワークも行っている。
法務省の統計によると、全国の少年院の収容者は減少傾向にある一方、虐待を受けた経験がある男子収容者の割合は年々増加。2019年の33.8%から2024年には42.6%となり、4割を超えている。
砂田首席専門官は、「親との関係について悩んでいる子が、グループワークを通じて本人なりに考え、面会に来た両親にこれまで伝えきれなかった思いを伝えたという子もいます。彼らも変わった部分はあると思います」と話す。
「脱皮していない幼虫」をどう支えるか
一方で、被害者や遺族などが少年に対して抱く「処罰感情」があるのは当然だ。その感情と「育てなおし」をどう結びつけていくのか。社会の理解が欠かせないと中島教授は考えている。
「『少年法が甘い』『人を殺したなら死刑だ』……当然そういう声があるのはわかります。けれど、まだ脱皮していないんです。幼虫のままですから。どういうふうに脱皮を手助けするのかが、育てなおしのポイントではないかと思います」
成育環境が大きな要因となって犯罪や非行に手を染めた少年の「心の傷」。それが癒やされないまま再び犯罪を起こし、新たな被害者が生まれる――。その「負の連鎖」を断ち切るために、少年院などで「育てなおし」を経験することは重要だと、中島教授は言う。
刑務所での処遇も、今は罰だけではない。拘禁刑の導入もあり、再犯防止は社会の大きな課題となっている。
少年たちの更生をどう支えるか。そして、犯罪者を生まないための成育環境をどう作り上げるのか。社会全体で考えていくことが求められている。
(テレビ新広島)

