受刑者を指導・監督する刑務官。その現場は今、大きな転換期を迎えている。
2025年6月に導入された「拘禁刑」により、刑務所は“懲らしめの場”から“立ち直りを支える場”へ。中国地方の刑務所や拘置所などに配属される新人刑務官37人の研修に密着した。

受刑者を傷つけず制圧する技能

5月19日、広島刑務所の武道場。白い道着姿の新人たちがマットの上で体をぶつけ合っていた。

矯正護身術を学ぶ新人刑務官たち
矯正護身術を学ぶ新人刑務官たち
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行われていたのは「矯正護身術」の研修。暴力的だったり、精神的に不安定な受刑者に襲われた際、相手にけがをさせずに制圧するための護身術だ。刑務官にとって基本技能の一つである。

中国矯正管区・板井剛 警備指導官
中国矯正管区・板井剛 警備指導官

板井剛警備指導官が、新人たちを集めて手本を見せた。
「ここを力いっぱいぐっと押さえたらけがをさせるからね。『この人は、もうここで曲がらないな』と体でわかっていただきたい。そのためには、有事の際も平常心で制圧せんにゃあいけん」
相手を必要以上に痛めつけない、独特で複雑な動き。柔道など武道の腕に覚えのある刑務官も、一筋縄では習得できない。山口刑務所に配属される柴田渚さん(22)は、「相手と息を合わせて型を作っていかないといけないので、連携が難しいですね」と話す。
基本となる技能とはいえ、すぐに身につくものではない。國武教紀警備指導官は、「人権を尊重しつつ、その中で冷静沈着に対応するというのは緊張感の中で体得していくものだと思う」と語った。

共同生活の中で育む同期の絆

2026年4月、中国地方の刑務所や拘置所などを監督する「中国矯正管区」に採用された新人刑務官は37人。18歳から29歳までの若者たちが、約3か月間の共同生活を送りながら、刑務官としての心得や知識、技能を学んでいる。

2026年4月、中国矯正管区の入所式
2026年4月、中国矯正管区の入所式

研修開始からまもなく2か月。厳しさの中にも、同期ならではの絆が生まれていた。
岩国刑務所に配属される香田樹那さん(18)は、「大変です」と笑顔をのぞかせる。そのとなりで、同じく岩国刑務所配属の庄谷内友彩さん(19)は、「楽しいですよ。同世代ばっかなんで、逆にやりやすいです」と話す。
尾道刑務支所に配属される森陸人さん(19)も、「みんな最初は緊張していたのか全然しゃべらなかったんですけど、途中からよく話すようになって、めちゃくちゃ楽しいなと思い始めました」と、仲間たちと打ち解けた様子を見せた。

新人刑務官が暮らす「潮風寮」。
共有スペースのテレビには矯正護身術のDVDが流れていた。それを見て、女性2人が腕の動かし方を復習している。
「こう?」
「腕がらみ?腕ひしぎか」

寮で一緒に過ごす釘本梨子さん(左)と河野はるかさん(右)
寮で一緒に過ごす釘本梨子さん(左)と河野はるかさん(右)

美祢社会復帰促進センターに配属される河野はるかさん(18)と釘本梨子さん(23)。ご褒美のスイーツを囲む時間は、つかの間の息抜きだ。

別の部屋では、受刑者を護送するために使う「補助手錠」の装着訓練が行われていた。練習に励む尾道刑務支所配属の重國麟太郎さん(22)は、「毎日学ぶことばかりで、いろいろ吸収している段階です。研修が終わるころには胸を張って現場に立てるように精進します」と意気込みを語った。

美祢社会復帰促進センターに配属・蓮尾沙樹さん(左)と岩国刑務所に配属・庄谷内友彩さん(右)
美祢社会復帰促進センターに配属・蓮尾沙樹さん(左)と岩国刑務所に配属・庄谷内友彩さん(右)

寮は2人1部屋。庄谷内さんが机に向かい、研修で学んだことを日誌に記録している。
「あしたは1日座学」と話し、憲法の授業に備えた。机の上には分厚い「矯正実務六法」が置かれ、毎週のようにテストもある。同じ部屋で生活する蓮尾沙樹さん(29)は「今週は終わったけど、また来週月曜日にテストがあって…」と苦笑い。頭も体もフル回転の日々が続く。

きっかけは「制服姿がかっこよくて」

若者たちが刑務官を志した理由はさまざまだ。
庄谷内さんは「きっかけは友達というか同期の子に誘われて。試験を受けて興味を持ったという感じです」と振り返る。

美祢社会復帰促進センターに配属・河野はるかさん
美祢社会復帰促進センターに配属・河野はるかさん

河野さんは、先輩刑務官の存在が大きかったという。
「高校の先輩が刑務官になっていて、話を聞いていいなと思いました。仕事にも魅力を感じたし、制服姿がかっこよくて」

広島刑務所に配属・竹村昂大さん
広島刑務所に配属・竹村昂大さん

広島刑務所に配属される竹村昂大さん(28)は、先輩刑務官から熱烈な勧誘を受けて民間企業から転職。寮では年長組として、兄貴分のような存在になっている。
「今のうちに失敗するじゃないですけど、ミスを重ねておいて、現場に出た時には『ちゃんとやっている』と思われるように頑張りたい」

それぞれの志を持った新人たちが、共同生活の中で互いに高めあう。仲間と寝食をともにしながら学ぶ日々は、長く受け継がれてきた刑務官の伝統だ。

「懲らしめ」から「立ち直り支援」へ

一方で、刑務官を取り巻く環境は今、大きな転換期にある。
2025年6月、118年ぶりの刑法改正で導入された「拘禁刑」。刑務作業が義務ではなくなり、受刑者の特性に応じた個別の「更生プログラム」を用意して再犯者減少を目指すようになった。

新人研修で講師を務める福山大学の中島学教授
新人研修で講師を務める福山大学の中島学教授

「懲らしめ」から「立ち直り支援」へ。
新人研修で講師を務める、元刑務官で福山大学の中島学教授は、「個々の受刑者の人権を尊重しながら、個々の受刑者のニーズに応じて必要な処遇を実施することが求められている」と説明する。

広島刑務所で更生プログラムに取り組む受刑者たち
広島刑務所で更生プログラムに取り組む受刑者たち

さらに、“刑務官の意識”も変わったと中島教授は指摘する。
「以前は、受刑者を閉じ込めて規律違反をさせず、自殺や逃走などの保安事故さえ起きなければよしとしていました。しかし今は、社会復帰後の再犯抑止まで考えながら日々の仕事をしなくてはならない。その点が大きく変わったと思います」

新人たちが目指す刑務官像にも変化

まだあどけなさが残る10代、20代の新人たち。しかし、その言葉には“受刑者の立ち直りを支える”という刑務官としての自覚がにじんでいた。

広島刑務所に配属・高原大智さん
広島刑務所に配属・高原大智さん

広島刑務所に配属される高原大智さん(22)は、「被収容者との接し方であったり、一人ひとり接し方が違うので、そこを大切にしていきたい」と話す。

美祢社会復帰促進センターに配属・釘本梨子さん
美祢社会復帰促進センターに配属・釘本梨子さん

釘本さんは、「心を開いていてくれない受刑者も多くいると思うので、心を開くような話し方を学んでいきたいと思います」と語った。

そして竹村さんは、目指す刑務官像についてこう話す。
「頼られる刑務官になりたいですね。『この人の話を聞いておけば、社会に戻った時にしっかりやっていける』と思ってもらえるような人間になりたいです」

受刑者の立ち直りを支える存在へ。
拘禁刑の導入からまもなく1年。変わりゆく刑務官のあり方と向き合いながら、新人たちは歩み始めた。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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