人手確保が課題となる海上保安庁で、定年退職した元自衛官の採用が進んでいる。瀬戸内海などを管轄する第六管区にも初めて4人が採用された。現役のラストスパートを駆け抜けた大ベテランたちは、再び制服に袖を通し、海上保安官への新たな一歩を踏み出した。
定年退職後、“第二の人生”を海保で
福岡県北九州市にある海上保安学校・門司分校。海上保安官として必要な知識や技能を学ぶため、約50人(2026年5月現在)が生活している。
5月半ば、新たに入校したのは、北は北海道、南は鹿児島まで全国各地から集まった14人の研修生たち。全員が、定年退職した元自衛官だ。
「起立!気を付け!礼!」
緊張感の漂う教室で、一人ひとりが自己紹介を行った。
「特技は操縦で、最初はF-15という戦闘機に乗っていて…」
「自衛隊の仕事が通用するかどうかは難しいところではあるが…」
2025年10月以降に定年退職を迎えた元自衛官の14人は、“第二の人生”として海上保安官の道を選んだ。
即戦力として人材確保の一手
海上保安庁では近年、人材確保が大きな課題となっている。
海上保安学校門司分校の島田春吾分校長は、「経験豊富なみなさんが自衛隊を定年退官され、次の職場として海上保安庁を選択していただいたことに感謝するとともに、当初の志を忘れず研修に励むことを期待します」と激励した。
瀬戸内海などを管轄する第六管区でも、最新鋭の練習船「いつくしま」の大型化などに伴い、必要な人員が増加。“即戦力”として期待できる定年退職自衛官の採用が全国的に進む中、六管にも初めて4人を採用された。
“自衛隊との違い”に戸惑いも
4人は全国から集まった仲間とともに、海上保安学校・門司分校で研修を受けている。
初日の研修では、グラウンドで基本動作の訓練が行われた。
「赤﨑研修生、基準!」
教官に呼ばれた赤﨑弘章研修生は、六管に採用された1人。駆け足で前へ出る。しかし、立ち位置や動作を修正される場面もあった。
「指を全部そろえて体側、中指をズボンの縫い目にそろえる」
帽子の被り方や敬礼の角度にも指摘が入る。自衛隊と海上保安庁では、やはり違いがあるようだ。
「左!左!左右!」
一糸乱れぬ行進訓練が続いた。真っすぐ前を見据え、教官の号令に耳を傾ける研修生たち。長年、自衛隊で培った規律正しさがうかがえる一方、新しい組織で学び直す戸惑いものぞかせていた。
「これまでの経験が生かせるなら」
定年退職自衛官が対象の研修では、自衛隊でほとんど経験のなかった「鑑識」の業務なども一から学ぶ。
2025年2月まで海上自衛隊の幹部自衛官として勤務していた赤﨑研修生は、「船務は前職の経験や技能で即戦力として活躍できると思うが、業務経験は未知なる世界。心配な面もあるが、心新たにやっていかないといけない」と話す。
また、主に呉基地の掃海艇などで勤務してきた釜田成人研修生は、海保を志した理由について「業務はガラッと変わるが、これまで積んできた経験が生かせるならチャレンジしてみたいと思った」と語る。
一方、37年の自衛隊勤務のすべてで調理業務に従事してきた松本潔研修生は、食事の違いに驚いたという。
「味は自衛隊に比べて結構薄い。自衛隊はバイキング方式だが、海保は皿盛。海保は海保のやり方があると思うので、自衛隊のいい部分は教えてあげたい」
そして、鍛え抜かれた体で黙々とトレーニングに励んでいたのが、潜水員などとして海の現場に携わってきた児玉伸吾研修生だ。
「昔はできたと言いたくない。海猿の若手海上保安官に『おじさん、それだけしかできないのか』と言われたくないから」
そう語る姿には、新たな職場でも第一線で働き続けたいという意欲がにじんでいた。
ガッツあふれる4人は研修を終えた後、広島や呉の海上保安部などへ正式配属される予定だ。
(テレビ新広島)
