障害者の生活を支える聴導犬や介助犬。その育成を担う訓練士になりたいと、病気で車いす生活を送る女性が訓練を積んでいます。障害で一度は諦めた夢を取り戻し、誰かを支えることができればと奮闘しています。
■病気で車いす生活…新たな希望
車いすに寄り添う介助犬の「よし」くん。
スプーンを落とすと、拾ってくれます。
日高桃樺さん:
「靴下、タグ、タグ」
靴下を脱がせることもできます。
宮田村役場(長野県宮田村)を訪れ、介助犬の実演を行ったのは、訓練士を目指す日高桃樺さん(23)です。
訓練士を目指す・日高桃樺さん:
「日常生活も一般社会で送っていけるか不安がある中で、他の方のために何かできる機会をいただけると思わなかったので、光栄に思っています」
日高さんは2025年10月から病気で車いすの生活に。
日常生活や大学、夢。
諦めることばかりの日々で、新たな希望になったのが「介助犬の訓練士となり、障害者を支える」ことでした。
日高桃樺さん:
「これから1年間という長い時間ではあるんですけど、少しでも多くのことを吸収して貢献していけるように頑張っていきたい」
■愛犬と信州で一人暮らし
日高さんは宮田村の訓練施設に通うため、7月、東京の実家を出て、一人暮らしを始めました。
日高桃樺さん:
「ようちゃん、おいで。ようちゃんは1歳のワンちゃんで、人間大好き、ワンちゃん大好き」
元気いっぱいの「よう」ちゃんと―。
元保護犬で耳の聞こえない高齢犬「月乃」ちゃんも一緒です。
日高桃樺さん:
「どういう状態になろうが、犬がいない生活の方が考えられない」
室内では車いすを使わず、膝をついて移動しています。
食事などの家事は訪問介護のサービスを利用しています。
日高桃樺さん:
「慣れないことたくさんで、見切り発車でスタートしたというか」
車いすになってわずか10カ月で始まった信州での単身生活。
訓練士になりたいという強い思いが日高さんを突き動かしました。
■セラピードッグと歩んだ日々
東京や宮崎、タイで育った日高さん。
競技ゴルフに打ち込む活発な少女でした。
幼いころから犬が大好き。中学時代に飼い始めた「かのん」ちゃんは、人の気持ちに寄り添う優しい性格で、セラピードッグとして活躍。
日高さん自身も、人のために働く犬や福祉の仕事に興味を持ち、大学時代には保護犬の活動に力を入れました。
日高桃樺さん:
「(保護した犬が)新しいお家に行って変わっていった姿や表情を見ると原動力になって、この笑顔が見られるならもっと頑張ろうというふうに思えていました」
■突然の病…大学をやめて実家に
しかし、在学中の2025年秋、体に異変が―。
体力や筋力が衰え、疲れやすくなりました。
日高桃樺さん:
「ただの疲れじゃないなと思ったんですけど、病院の医師を含め周りの人からは何も異常がない、精神的なもの、怠けだろうというふうに言われていた」
そしてついに大学内で倒れ、複数の病院にかかった結果、「慢性疲労症候群」と「線維筋痛症」と診断。
通学が困難になり大学をやめて、一度は東京の実家に戻りました。
日高桃樺さん:
「もちろん、すごく悲しかったし、へこんだんですけど、得体のしれない体調不良に、原因が分かったうれしさの方が当時は勝っていて」
■痛みを抱えながら、国内初の挑戦を
病気により極度の倦怠感や疲労感が続き、筋肉や関節にこわばりや痛みも生じます。
原因は不明で、症例が少なく個人差も大きい病気です。
日高桃樺さん:
「私の場合は関節痛と筋肉痛がほぼずっとある状態。痛いんですけど、それをだましだまし生きているというか、痛いからどうしようっていうより、うまく付き合いながら、どう生きていけるかなっていうのを考えるようにしています」
痛みを抱えながらも前向きになれたのは、「目標」ができたから―。
朝の支度ができたら、助けを借りて車へ移動です。
日高桃樺さん:
「(痛みが)しんどい時もあって、そういう日は(車に)乗らないように。痛みの場所とか状態が日々、変動するんですよ。きょうは割と指関節が」
犬たちも一緒に移動。
到着したのは宮田村の日本聴導犬協会。
2026年で発足30周年で、これまでに40匹以上の聴導犬・介助犬を育成しています。
日高さんは訓練士学院で、障害者のための育成プログラムの第1号として、7月から訓練を始めました。国内では初のケースです。
日高桃樺さん:
「もう犬の道には携われないと思っていたので、まだそんな道が残っていたんだといううれしさで、心配ではあったんですけど、こういう体になってから本当に諦めることばっかりだったので、ちょっとわがままにやりたいって思ってみてもいいかなって」
■協会が支援「当事者に近い介助犬を」
この日は聴導犬の訓練をアシスト。ご主人に「音」の発信元を伝える仕事を教えます。
日高桃樺さん:
「犬の自主性を育てるために、待って、待って、できたら褒めるという訓練が多いので、できたときに、みんなで褒めるとパッと明るくなって、すごくかわいいです。まだ訓練していない犬のスタートに携われるのが一番楽しみ」
実は日高さん、当初、ユーザーとして介助犬を希望しようと協会に連絡を取りました。
しかし、協会が訓練士になる道を提案。日高さんを全面的にバックアップしています。
日本聴導犬協会・有馬もと会長:
「痛みとか悲しみも、皆さん、共感できると思うんです。障害がある方たちが犬を訓練することによって、より当事者に近いような介助犬を育成できるのではないか。日高さん自身の才能を考えたときに、意志の強さを考えたときに、この方の夢を支えさせていただきたいと思ったんです」
■「気持ちが和やかに」心も癒す存在
飯田市の女性:
「でんちゃん、テイク、ありがと」
こちらは、協会で訓練され県内3頭目の介助犬に認定された「でん」。
交通事故のけがで車いすとなった飯田市の女性をサポートしていました。
優しい「でん」は生活の支援だけでなく、女性の心を癒やしてくれる存在になっていました。
飯田市の女性:
「この子のおかげで、気持ちが和やかになりました。この子がいないと生活できない、私のすべてです」
日本聴導犬協会・有馬もと会長:
「社会参加とか自立というのも、もちろん大事なんですけど、幸せな生活や心持ちのお手伝いをできる聴導犬・介助犬を育成したいと思っています。そのためには、人の気持ちが分かるような犬に育てて、自分で考えてユーザーさんを支える犬たちを育成していきたいと思ってます」
■経験を強みに変えて、前へ
犬への深い愛情を持ち、病気や車いす生活のつらさも理解している日高さん。
今後1年間、訓練や座学に励みます。
日高桃樺さん:
「一番は、自分がこういう状況だからこそ、できる気付きであったり、いつでも気軽に、あの人に相談できるって思ってもらえるような存在になれるように頑張りたい」
自らの病気や生活への不安は尽きません。それでも、経験を強みに変えてユーザーに寄り添える訓練士に―。日高さんは前に進んでいます。
日高桃樺さん:
「助けていただいている分、自分には自分にしかできないこと、それがデメリットであり、私の強みでもあると思うので、そういうところをちゃんと生かせるように、今から頑張っていきたいと思います」
