「財政規模も非常に大きく、再編コストを限りなく少なくできる。副首都を担うにふさわしい特別区となりうる」
これは、大阪維新の会・代表代行である大阪市・横山市長が今月6日、市内選出の議員との会合のあと語った言葉だ。
大阪市を廃止して、東京23区のような複数の特別区に再編する“大阪都構想”。
この“都構想”の設計図を府・市で議論する「法定協議会」の会合を前日に控えた8月6日。
設置を目指す特別区の数を4とする「4区案」を維新として採用することを決めた後にこう述べた。
そして「4区案」は翌日、維新しか出席しない法定協議会で異論も出ず正式決定。
住民投票にかけられる「“都構想”の設計図」に組み込まれることになった。
維新は住民投票を「来年春の実施を目指す」としていて、スピード感についても「順調」と横山市長は繰り返した。
しかし、ある維新幹部は、区割り案決定の2週間ほど前まで、「霧の中を歩くよう」、「手ごたえはない」と発言するなど、絞り込みは維新内で混迷を極める状況となっていた。
紆余曲折を経て選ばれた今回の「4区案」とは。
そして、党内は一枚岩になれているのか。
担当記者が見た、区割り案が決まるまでの2週間余りについて詳報する。
■維新が刷新感を強調する“新・4区案” 詳細はー
維新が肝いり政策として実現を目指す統治機構改革、“大阪都構想”。
府と市の業務を一元化して「二重行政」の解消を目指すものだ。実現すれば住民が区長や区議を選ぶことになり、各特別区は条例制定や、予算執行ができるようになる。
この制度設計を議論している法定協議会では、これまで大阪市を4つの特別区に再編する「4区案」と、8つに再編する「8区案」、今ある24の行政区をそのまま特別区に移管する「24区案」の3つの案で検討が進められてきた。
この中から維新が選んだのが「4区案」、前回(6年前)に僅差で否決された案を微修正したものだ。
今回の「4区案」は、
▼東淀川区、淀川区、西淀川区、此花区を「1区」、
▼旭区、都島区、鶴見区、城東区、北区、福島区を「2区」、
▼中央区、西区、港区、浪速区、大正区、西成区、住之江区を「3区」、
▼東成区、天王寺区、生野区、阿倍野区、東住吉区、住吉区、平野区を「4区」
とする案だ。
1区は新大阪駅を、2区は梅田駅を、3区は難波駅を、4区は天王寺駅を「にぎわいの拠点」としている。
前回の案で2区だった東成区と3区だった住吉区が今回4区に、前回1区だった港区が今回は3区に組み込まれている。
維新は「新・4区案」と刷新感を強調する。
保健所や教育委員会、議会など、大阪市が担っている業務をそのまま各特別区で担おうとすれば、区の数が増えるほど、庁舎の整備や人材確保にコストがかかる。
このため維新内部では、特にベテラン議員を中心に、3つ案の中で最もコスト面で優れていた「4区案」に根強い支持があった。
最終判断を一任された横山市長は、「4区案」を選んだ理由について、「大阪市内選出の市議会議員、府議会議員、衆議院議員の計68人に意向調査をしたところ、66%に上る議員が最終的に「4区案」を希望した」ことを挙げている。
■「66%賛同」なのに幹部がぎりぎりまで「霧の中を歩くよう」…案は9つに増幅 いったいなぜ
では、なぜ「66%が賛同した」にもかかわらず、そのわずか2週間前まで維新幹部は「今、真っ白な霧の中を歩いているような状態」と発言したのか。
実は区割り案の議論で、大阪市選出の議員たちの間で激しい議論が起きていた。先月21日の会議では、2パターンの「4区案」、2パターンの「8区案」、そして「24区案」の5つの案から絞り込みが進められていた。
しかしこの場で、「これだけ(5つの案)しかダメなのか」と異論が相次いだ。
維新幹部はこの日、「手ごたえはない」と明かし、翌週には絞り込みどころか、さらに2つの「7区案」、別の2つの「8区案」を加えられ、案は9つにもなった。
■維新内部から聞こえた疑問の声「府議は“王様”になりたいのかー」
区割りを細かくすればするほど多額の運営コストが必要になり立ち行かなくなる。
このため、区の数が増えれば府で担う業務は多くなると想定される。
「24区案」を希望した議員のほとんどは府議だった。24の特別区になれば、各区から選出される府議は大きな権限を持つことになるという。
どういう事情が背景にあるのか。
権限を拡大したい思惑が府議にはあると、
関西テレビの取材に対し、次のように語る維新議員もいた。
【大阪府内選出・地方議員】「大阪市以外の市町村だと府議は1人で、市町村長と“同格”。そして各市町村は財源も小さいため府議に陳情に来る。いわば“王様”です。
周りには“王様”がたくさんいるのに、大阪市内選出の府議は(大阪市に財源があるから)王様じゃない。だから王様になってほかの(市町村の)府議と同じことをしたいのでは。
(大阪市内選出の府議は)大阪市役所の権限が強くて気に入らないんじゃないか」
■「24区案」推す府議への疑問と相次いでいた意見の「対立」
上記を踏まえ、8月6日のnewsランナーでは、24区案を推す府議と市議について、「対立が起きていると感じる場面が多々あった」と伝えた。
すると、吉村知事は翌日のYouTubeで「これからテレビで散々ネガキャンも始まってくる」と発信。
維新の“都構想”用のYouTubeチャンネルでも8日に、総務会長の黒田まりこ市議が「(メディアは)市議と府議が喧嘩している、揉めている形を作りたがる。市議も府議もない。私たちは大阪の未来のために話し合った」と発信した。
しかし、前述したように市議と府議の間の意見の隔たりは間違いなくあった。
さらに、7月31日に開かれた第4回の法定協議会の際の吉村知事のある発言に対して、別の議員から苦言が呈されていた。
【吉村知事】「住民に身近に接するところをできる限り特別区でやるべき。まちづくりや鉄道インフラは広域(府)でやるべきだと思うが、住民の生活に直結するところ、そういった視点が必要だと思う」
吉村知事はこう述べて、大阪府が現在担っている業務のうち、虐待を受けた子供の支援を行う「要保護児童対策協議会」や、保育所や幼稚園の認可、介護保険に関する業務まで特別区で担うべきだという主張を展開した。
これには市議からも反発の声が聞かれた。
【市議】「面倒なことを特別区に押し付けようとしているようにしか見えない。
(要保護児童対策協議会について)『学童保育を市がやっているから』と(吉村知事は)言っていたが、全然関係ない話。『知事がそんなことを言うのか』と、正直びっくりした」
■他会派は「都構想ありき」と批判 維新は「身内で決めている」批判避けるため世論調査実施
法定協議会はこれまで5回開かれているが、“都構想”に反対する公明・自民は「都構想ありきの会議だ」と主張し、出席を拒否し静観するスタンスを変えていない。
これには、維新側が「身内だけで決めている」との批判を払しょくしようと躍起になっていた。
大阪維新の会市議団の竹下隆幹事長は、1日、大阪市内選出議員を集めた非公開会合のあと、現場に集まった記者を前に、「大阪市民対象の世論調査を行う」と発表。
「法定協議会に他会派が出てこず、維新のみでの議論となっていることも影響したか?」という質問に対しても素直に認めた。
■世論調査結果は非公表 メディアのみならず議員にも
その世論調査も経て “維新案”を「4区」とすることが決まったわけだが、それでもなお、維新内部が一枚岩になっているとは言えない状況が明らかになっている。
「4区案」に決まった6日の取材対応で横山市長は、世論調査について「サンプル数に限界がある」「数字が一人歩きするのはよくない」と繰り返して結果を明かさなかった。
議員の間でも一部の中枢メンバーにしか世論調査の結果は共有されていないという。
さらに「市内選出議員の意向」についても、当初から確かに「4区案」を推す声が多かったものの、直前まで最大で9案まで増えたにも関わらず、最後の最後ですんなり「4区案」で一致した結果に、党内部からいぶかしむ声も聞かれた。
【市内選出議員】「決定の経緯が不透明。これでは一枚岩になれるわけがない」
■必要な“市民のための議論”とは
一方、「身内だけで議論している」と批判されるべきは維新だけではないと感じる場面も多くある。
法定協議会への出席を拒否している会派からの「維新だけで決めている」批判がその一例だ。
会派から独立した「市長」という立場で法定協議会に出席している横山代表代行が、“維新案”を協議会前日に決めたことは議論の余地はあるが、維新はあくまで協議会に臨むにあたって党内の意見をまとめたに過ぎない。
法定協議会で、たとえ多数決では勝てなくとも、市民のために、反対の立場からの議論を交わすべき他会派が出席を見送りその役割を果たしていない。
(※公明・自民の両会派は法定協議会には出席せず、来月以降開催される市議会の特別委員会で「都構想」の問題点を追及していく方針)
■「初めから4区案ありきだったのではないか」 “3度目”だからこそ求められること
その上で、3度目の住民投票に臨もうとする維新には、他会派が参加していない中だからこそ、これまで以上の丁寧な説明を求めたい。
今回、再び“都構想”が議論されることになった背景には、維新の与党入りでの副首都法成立が一因に挙げられる。「副首都にふさわしい大阪」にすることを大義に、住民投票に臨もうとしているが、副首都法はまだ成立したばかりで詳細は見えてこない。
大阪市が現在担っている業務をどこまで大阪府に移すかは、区割りとも連動する。そのため「副首都にふさわしい」という観点からどう区割りを選んだのか、記者は質問を繰り返した。
すると横山市長は「十分な財政力、体力のある区割りになったから、これから事務分担の議論を加速させていきたい」と答えた。
それならば、「3区案」など、より区数が少なくコストが抑えられる案はなぜ議論のなかで消えてしまったのか。「8区案」と「24区案」をあわせた3案での議論で決めてよかったのか。
市民からは「前回と一緒やんか。前あかんと言った案なのに、なんでまたするん」という意見も聞かれた。
「初めから4区案ありきだったのではないか」
他会派から出ていた選考過程に対する疑問の声は、区割り決定後、維新内部からも噴き出ていた。
2度否決されているからダメだとは思わない。ただ3度目だからこそ、より丁寧に進める姿勢が求められている。
(関西テレビ 行政担当記者 大本亮)
