臨時国会で選択的夫婦別姓をめぐる議論が活発になってきている。導入議論に前向きな橋本聖子女性活躍相に対し、導入に反対する自民党保守派の山谷えり子参院議員は慎重な議論を要求。一方の野党は菅首相と上川法相に対し、両者がかつて導入に賛成していたことを取りあげ、「言行一致を」「党派を超えて導入を実現しよう」と迫り、菅首相の答弁に拍手が起きる場面もあった。

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反対の自民保守派・山谷えり子氏は「通称」でも不便なしと強調

11月17日の参院内閣委員会で夫婦別姓について質問したのは山谷えり子参院議員だった。山谷氏は保守派の論客で、選択的夫婦別姓については反対の立場だ。山谷氏の質問の矛先は、選択的夫婦別姓導入に関する議論について第5次男女共同参画基本計画に盛り込むことに前向きな姿勢を示している橋本聖子女性活躍相だった。山谷氏は、穏やかに言葉を選びながらも橋本大臣の発言をけん制した。

山谷えり子参院議員
山谷えり子参院議員

「橋本大臣は会見で選択的夫婦別姓について、深刻な少子高齢化を食い止めるために重要で配慮すべきと導入に前向きともとれる発言をされた。しかし夫婦別姓は家族のあり方に深く関わり、慎重な対応が必要というのが前政権までの姿勢だ」

山谷氏は選択的夫婦別姓の導入に安倍前首相は慎重姿勢だったことをアピールしつつ、政府の調査では選択的夫婦別姓導入への理解はそれほど進んでいない結果となっていると主張した。

「平成29年の世論調査では通称使用の拡大もふくめて夫婦は同姓を名乗るという考え方が53.7%。別姓導入賛成は42.5%とまだ同姓を考える方が多い。18~29歳では同姓・通称支持が47.9%で、別姓導入が50.2%と僅差だ」

さらに山谷氏は、夫婦が別の姓なのは子どもに好ましくない影響があるという人が62.6%いたことに触れ、子どもへの影響を心配する国民が多いと訴えた。そして自らの体感をふまえ、通称使用拡大で対応すべきとの持論を展開した。

内閣府世論調査より
内閣府世論調査より

「私も通称『山谷』ですが、結婚して戸籍上は『小川』なんです。パスポートもマイナンバーカードも表記は『小川(山谷)えり子』で不便はないんです。不便があるという方もいるので、どこがどう不便かを通称使用拡大に向けて議論していけばいい。家族は社会の基礎単位だ。夫婦別姓を認めるとファミリーネームの廃止になる。トラブルも起こって離婚や少子化もむしろ進むのではという意見もある」

その上で山谷氏は「今は家族の絆を守るためにも通称使用の周知・拡大をしていくのが現実的だと思う」として、橋本大臣の見解を質した。

橋本聖子大臣が指摘した「若い世代の選択的夫婦別姓を求める声」

これに対し、橋本大臣は、次のように答弁した。
「平成29年の世論調査ではご指摘の通り、夫婦の名字が違うと子どもに好ましくない影響があると思う人が6割で子どもに影響がないと思う人は3割となっている。一方で、同じ調査で、家族の名字が違うと家族の一体感が弱まるという人が3割、名字が違っても家族の一体感・絆に影響はないという人は6割を占める」

橋本聖子大臣
橋本聖子大臣

橋本大臣は様々な意見があるとした上で、第5次男女共同参画基本計画を策定する中で、「婚姻後も仕事を続ける女性が大半になっていることを背景に、婚姻前の氏を引き続き使えないことが婚姻の生活の支障になっている等の意見が、これから結婚して家庭を築いていく若い世代から大変多く寄せられている」と述べ、選択的夫婦別姓を求める声が若い世代に強いことを強調した。

一人っ子女子家庭の「実家の氏が途絶える懸念」解消のための別姓容認論

さらに橋本大臣は、少子化対策の専門家から、「選択的夫婦別氏制度がないために、一人っ子女性を中心に“実家の姓が途絶える”ことなどを心配して結婚に踏み切れなかったり、結婚相手が見つからないという深刻な事態が起きている地方もある」と指摘があったことを紹介した。その上で、次のように答弁を結んだ。

「様々な意見があると承知しているが、若い世代や現実に困っている方々をはじめ、国民の皆様の声をしっかり反映できるよう誰一人取り残さないという視点は大事だ。年内の計画策定に向け、とりまとめへの議論を着実に進めたい」

これに対し山谷氏は「参画会議の資料について説明されたが、違う見方もあるという意見もあったと聞く」と橋本大臣の説明にやんわり疑問を呈した。そして制度が導入されれば「姓は家族でなく個人を表すものとなる」と危機感を示し、慎重な対応を要請した。

ちなみに質疑の中でとりあげられた政府の世論調査は、選択的夫婦別姓導入の「賛成・反対」の2択でなく、「同姓維持・同姓維持だが通称使用拡大に賛成・選択的夫婦別姓容認」の3択の設問となっている。そして3択中、前者2つ選択肢の合計値が「同姓維持」(=選択的夫婦別姓反対)の数字と捉えられていることも、両者の調査結果の受け取り方が分かれていることに関係していそうだ。

(「婚姻をする以上、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はない」29.3%

「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」42.5%

「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが、婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては、かまわない」24.4%)

内閣府世論調査より
内閣府世論調査より

導入賛成の小池氏は、橋本大臣・菅首相らと論戦「同姓強制は日本だけ」

選択的夫婦別姓をめぐる国会論戦では、上記の質疑に先立つ11月6日の参院予算委員会で、導入賛成派である共産党の小池書記局長が菅首相・上川法相・橋本女性活躍相と、議論を交わした。

共産党・小池書記局長
共産党・小池書記局長

小池氏は第5次男女共同参画基本計画の策定に向けた意見募集の中で選択的夫婦別姓についてどんな意見が寄せられたか質し、橋本大臣は5600件以上の意見が寄せられ「選択的夫婦別姓の導入を求める意見が多数寄せられる一方、反対意見はなかった」と答弁した。小池氏は次のように語気を強めた。

「色々な意見があるというけれど、すべて賛成意見だったわけで、反対意見はなかったわけです。法律で夫婦に同姓を強いているのは世界で日本だけです。言ってみれば“強制的夫婦同姓制度”ですよ。これやっぱり変える時じゃありませんか」

この質問に橋本大臣は「困っている方にしっかりした対応をするのも我が国において重要なことだと考える」と述べるにとどめた。

小池氏が指摘した上川大臣の導入賛成の過去

そして小池氏は矛先を、夫婦同姓を定めた民法を所管する上川陽子法務大臣に向けた。1996年に法務省の審議会が、選択的夫婦別姓や女性の婚姻適齢引き下げなどの4項目を答申した中で、唯一選択的夫婦別姓だけが実現していないと指摘し、早期導入を促した。上川法相は、国民の意見が分かれているのは事実だとした上で、「国会の議論を注視し対応を検討していく」と慎重に答弁した。ここで小池氏は、上川氏の過去の発言を取りあげた。

「大臣は2001年に自民党議員有志として党三役に申し入れた。覚えていますか?内容は『選択的夫婦別姓導入に向けた民法改正について早急かつ徹底した党内議論を進めること』『速やかに国会に当該問題についての閣法が上程され審議に付されること』。2008年の市川房枝記念会発刊の『女性展望』には、上川陽子さんが『私も選択的夫婦別姓については賛成でそのために議員として活動してきました』。政治家としての信念を聞かれ『言行一致、つまり自分の言ったことに責任を持つことが大切だ』とある」

委員会室がざわめく中、小池氏は「こういう信念をお持ちの政治家であれば法務大臣になったらそのために全力をあげると。言行一致でやりましょうよ。どうですか」と上川法相に迫った。上川法相は次のように応じた。

上川法相
上川法相

「私の個人、政治家としての意見は今先生に紹介して頂いた通りです。この問題はそれぞれ家族のあり方の考えについて様々な意見があるということで、世論調査でも意見の幅が表れているのも確かです。第5次男女共同参画基本計画の中で、こうしたことについて若い皆さんに聴取しているのも事実です。そういう意味で国会が大事な役割を果たす。その動向もふまえ検討にあたって参りたい」

菅首相も過去に選択的夫婦別姓賛成を推進「解決は政治の責任だ」

上川大臣としては個人の思いはともかく、担当大臣という立場で、自民党内に反対意見が根強いことも踏まえた精一杯の答弁だったのかもしれない。すると小池氏は、今度は菅首相に矛先を向けた。

「総理もこの2001年の有志議員の申し入れに名前も連ねていることを覚えていますか」

野党席から拍手があがる中、菅首相は「確かそうだったと思います」と答弁した。すると小池氏は「それだけではない」と二の矢を継ぎ、2006年の読売新聞の記事で「自民党内で別姓導入に理解を示す菅義偉議員」と紹介された菅首相が「不便さや苦痛を感じている人がいる以上、解決を考えるのは政治の責任だ」と述べていたことを紹介し、一段と語気を強めた。

「別姓導入を求めてきた方が総理になり法務大臣になったんですよ。政治の責任を言行一致で果たすべき時ではありませんか。総理どうですか」

菅首相は次のように答弁した。

「夫婦の氏の問題は我が国の家族のあり方に深く関わる事柄で、国民の間に様々な意見があり政府として国民各層の意見を幅広く聞くと共に国会における議論の動向を注視しながら対応を検討して参りたい」

政府の公式見解を慎重にまとめたいわゆる官僚答弁で終えるかに思えた菅首相だったが、そこで「ただ私は…」と切り出すと、次のように続けた。

「ただ私は政治家としてそうしたことを申し上げてきたことに責任があると思います」

菅首相の踏み込んだ答弁に思わず拍手した小池氏は「野党は選択的夫婦別姓導入の法案を出し続けています。党派を超えてこれを実現しましょう」と呼びかけて質問を終えた。

選択的夫婦別姓に関する国会論戦の中で浮かび上がってきた、橋本聖子大臣の前向きな姿勢と、菅首相と上川法相の導入賛成派だった過去。一方で、山谷議員が指摘した導入に関する懸念点、選択制とはいえ日本伝統の家族のあり方が変わる可能性がある点についての議論は不十分な面があるのは事実で、導入への道筋は見えていない。それだけに今後、菅政権のもとの国会でどんな議論が繰り広げられ、カギを握る世論がどのように推移していくのか、賛否にかかわらず注目が高まりそうだ。

(フジテレビ政治部)

政治部
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