FIFAワールドカップ2026で優勝したのはスペインだった。しかし、決勝戦が終わると世界のメディアは、もう一人の「勝者」をめぐって正反対の記事を書いた。

Newsweekは「トランプはワールドカップに勝った」。一方、Daily Beastは「トランプはブーイングで屈辱を味わった」。いったい、真の勝者は誰だったのだろうか。

開催前から問題続出 “バログン騒動”も

決勝戦でトランプ大統領が大型スクリーンに映し出されると、スタジアムからは大きなブーイングが響いた。ニューヨークで行われたNBAファイナルでも同様だったが、サッカー最大の舞台でも歓迎されたとは言い難い。

大会前から逆風は強かった。

48チームへの拡大で大会の質は低下する、チケット価格は高すぎる、ホテル予約は伸び悩んでいる、移民摘発が競技場周辺で行われるのではないか──。さらに、イランやハイチは入国制限の影響で出場できず、選手家族のビザ問題も相次いだ。

FIFAがアメリカ代表のバログン選手の処分を猶予し、批判が噴出
FIFAがアメリカ代表のバログン選手の処分を猶予し、批判が噴出
この記事の画像(4枚)

大会中には、アメリカ代表FWフォラリン・バログンの退場処分について、トランプ氏自身がFIFAのインファンティーノ会長に電話で「異議申し立て」を行ったと公言し、実際に処分は覆された。政治が競技に介入したとの批判も欧州各国から噴出した。「史上最も政治色の濃いワールドカップになる」。そんな見方さえあった。

ところが、ふたを開けてみれば様相は一変する。総観客数はワールドカップ史上最多を更新し、テレビ中継もアメリカ史上最高レベルの視聴率を記録した。48チーム制も番狂わせを生み、近年屈指の名大会だったとの評価まで現れた。

トランプ大統領は「勝者」?

そこでNewsweekは、「勝者はトランプだった」と結論づける。理由は意外だった。

"That absence may have helped him."
「その不在こそが彼を助けた」

優勝トロフィーを一緒に運ぶトランプ大統領とインファンティーノ会長(写真:FIFA/Getty Images)
優勝トロフィーを一緒に運ぶトランプ大統領とインファンティーノ会長(写真:FIFA/Getty Images)

大会が始まると、トランプ氏はほとんど試合会場に姿を見せなかった。決勝戦だけ登場し、世界中が見守る中で優勝トロフィーをスペイン主将ロドリへ手渡した。

大会期間中に世界へ流れた映像は、移民摘発でも抗議デモでもなく、満員のスタジアムと劇的な試合だった。政治がスポーツを壊すという予想は外れた。その意味では、トランプ氏は「勝った」とNewsweekは評価したのである。

もっとも、「不在だったから成功した」という説明だけでは十分ではないだろう。トランプ氏は大会運営には深く関わりながら、試合そのものの主役にはならなかった。必要なときだけ姿を見せ、最後は優勝セレモニーという最も象徴的な場面で世界中のカメラの前に立った。これは「不在」というより、「出る場面を選んだ」と見る方が実態に近い。

それでも決勝戦ではブーイングを浴びた。つまり、トランプ氏は観客の人気を勝ち取ったわけではない。しかし、「トランプ政権ではワールドカップは失敗する」という予測を覆したこともまた事実である。

ワールドカップの真の勝者はスペインだった。では、政治の勝者はトランプだったのか。それとも、大会を成功させたのは選手たちであり、世界中から集まった何百万人ものサポーターだったのか。その答えは、おそらく読む人によって変わるのだろう。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。