近年、日本近海に異変が起きています。
私たちの食卓に並ぶ魚にも、大きな変化が及ぶおそれがあります。
関西テレビ「newsランナー」の取材班が日本海・太平洋・瀬戸内海を訪れ、それぞれの海で起きている「異変」を取材しました。
■「合意できない事態に、強い憤りを感じている」 メキシコの反対でマグロ漁獲枠は合意に至らず
先週から長崎市で開催されていたのは、太平洋のクロマグロ資源管理を話し合う国際会議。日本は、重さ30キロ以上の大型マグロの漁獲枠を25%増やす一方、資源保護のため小型マグロを6%減らす案を提案していました。
しかし14日午後4時すぎ、参加国のメキシコの反対により合意には至らず、会議は閉幕しました。
水産庁の福田工審議官は「一カ国の不合理な対応により、合意できない事態となったことについては、強い憤りを感じているところです」と語りました。
この発言の背景には、現在のクロマグロをめぐる状況があります。
■「記録的な豊漁」でも漁獲枠の上限に達しそうに
クロマグロの漁獲量は2010年におよそ1万2000トンにまで落ち込みました。
その後、国際的な資源管理のもとで漁獲規制を強化した結果、2022年にはおよそ14万4000トンにまで回復したことにより、漁獲枠の拡大に期待が高まっていたのです。
取材班が訪ねた大起産業の児玉徹営業部課長は「ことし特に天然のクロマグロが非常に豊漁で、(漁獲枠を拡大すれば)価格が少し下がって消費者の皆さまにも安くお買い得な価格で購入していただけるかな」と話しました。
■「マグロはとれない以上、クマと一緒。害獣」京都・伊根町の海で何が起きているか
取材班が向かったのは、大阪から北へ2時間半の日本海沿岸の町、京都府伊根町。地域ブランド「都まぐろ」でも知られる、マグロ漁が盛んな地域です。
漁師たちはほぼ毎日のように沖合の定置網に向かいます。ところが、網を引き上げると待っていたのは思わぬ光景でした。
次々とかかるクロマグロを、漁師たちが海に戻していくのです。
理由は、京都府でクロマグロが記録的な豊漁となり、国から定められた漁獲枠の上限に早々に達しそうになったため、4月中旬から漁獲を自粛しているからです。
しかし、他の魚を狙って仕掛けた網に、連日のようにマグロが入ってきます。その度に放流を余儀なくされる状態が続いているのです。
■マグロが増えすぎた影響か「小型の魚がこの海域を避けるように」
【漁師】「ウジャウジャいたらしんどいで。たまったもんじゃない。連日だもんな」
【漁師】「マグロはとれない以上、クマと一緒。害獣」
漁師たちはそう声を上げます。
問題はそれだけではありません。蒲入水産の長谷川貴之社長によれば、大型のマグロが網の中で暴れることで、一緒に入っている他の魚種が逃げてしまうといい、マグロが他の魚を傷つけることも日常茶飯事だといいます。
さらに深刻なのは、マグロが増えすぎた影響か、「小型の魚がこの海域を避けるようになった」といい、今が旬のイカやトビウオが激減しているというのです。
長谷川社長は「迷惑ですよね。非常に厄介者」と表情を曇らせます。
■「暖かい海を好む魚が、居座ってしまう状況」温暖化が生む「居残り現象」
なぜクロマグロがここまで増えたのでしょうか。
近畿大学の有路昌彦教授は、資源管理以外にも理由があると指摘します。
【近畿大学 有路昌彦教授】「日本近海は歴史的に今までにないほど高水温になっていて、暖かい海の方を好む魚は、ずっとそこに居続けてしまう、居座ってしまう状況になる」
温暖化によって魚の回遊ルートそのものが変わりつつある可能性があります。
■「ことし一番ダメだった」太平洋側ではカツオが大不漁
一方、太平洋に面した和歌山県田辺市では、カツオ漁の深刻な不漁となっています。
カツオ漁師歴15年の濱中健宏さんは、2日間の漁を終えた後に「きょうはことし一番ダメだった。残念な結果」と肩を落としました。
豊漁であれば1回の漁で3トンほど捕れるカツオが、今回の漁では数百キロほど。和歌山県ではことし6月までの半年間のカツオ水揚げが、去年の同じ時期の半分ほどにとどまっているといいます。
近畿大学の有路昌彦教授によると、「去年まで続いていた黒潮の大蛇行が元に戻り、カツオのエサ場がなくなった」ことが原因とみられています。
■「去年の10倍以上」瀬戸内海・明石沖に南の魚が北上
「異変」は瀬戸内海にも及んでいました。
タイやタコなど豊かな海の幸で知られる兵庫県の明石浦漁港。近年、この海域で増えているのが「ヨコスジフエダイ」という魚です。
九州など南の海を中心に生息するこの魚が、今年は明石でも急増しているのです。
明石浦漁業協同組合の土井祐介主任は「何日かに一匹見るか見ないかだったんですけど、ことしは割とこの魚だけでかごで競り出せるくらい。去年の10倍以上」と驚きを隠しません。
温暖な海を好む「ヨコスジフエダイ」は、海水温の上昇に伴って生息域を北へ広げているとみられています。同じ魚は、クロマグロが豊漁だった京都・伊根町の海でも確認されています。
■明石の名物「タコ」の漁獲量は減少傾向に
一方、明石の名物であるタコの漁獲量は減少傾向にあります。
原因は特定されていませんが、漁業組合連合会では「下水道の処理能力の向上で海がきれいになりすぎた」ことが一因とみて、有機物をまいたり、海底を耕して底にたまった栄養分の循環を促したりといった資源回復の取り組みを進めています。
■「天然の漁業に関しては、これという解決策が存在するわけでもない」
近畿大学の有路昌彦教授は、技術的な対応策として「近海の湾奥でやっていた養殖業は、できるだけ水温の低い沖合に出して、海水温が上がったときに底に沈める沈降式を使うなど、技術的に対応できる部分はある程度は存在している」と述べます。
ただし、天然魚を対象とした漁業については「これという解決策が存在するわけでもない」と語り、その難しさを認めました。
日本海ではマグロが「厄介者」となり、太平洋ではカツオが姿を消し、瀬戸内海では南の魚が急増。関西の海で同時多発的に起きている「異変」は、変わり続ける日本近海の姿を映し出しています。
(関西テレビ「newsランナー」2026年7月14日放送)
