664グラムで生まれた男の子の成長についてです。生まれてからの2年間、病院で家族も積極的に医療的なケアに関わり、2025年春に退院。今は自宅でさまざまな支援を受けながら、家族と共にたくましく成長しています。
■664gで誕生 吟糸ちゃんが3歳に
お母さんに手をひかれて歩く男の子。
吟糸ちゃんの母・高橋由里絵さん:
「たかはし、ういとくん!」
長野県伊那市の高橋吟糸(ういと)ちゃん、3歳です。
生まれた時は、わずか664グラムでした。
高橋由里絵さん:
「重たい(笑)」
今の体重は10キロを超えました。
高橋由里絵さん:
「命の危機もたくさんあったし、こうやってゆっくりだけど成長してくれて、頼もしいなと思っています」
■「家族中心のケア」で発達を促す
2023年4月、安曇野市の県立こども病院で生まれた吟糸ちゃん。
予定より4カ月早い早産で、体重は664グラムでした。
小さな命に、不安と戸惑いを抱えていた両親でしたが―。
母・由里絵さん:
「(医師に)どれだけ家族が赤ちゃんに関わるかで、成長発達が変わりますよって言われた」
母・由里絵さんは伊那市の自宅からほぼ毎日、病院のNICU・新生児集中治療室へ。人工呼吸器や胃ろうの管理など、医療的なケアにも積極的に関わるようにしました。
医療の進歩で「早産児」の救命率が上がる中、こども病院が進めている「ファミリーセンタードケア」。「家族の力」を中心に子どもの成長や発達を促そうという取り組みで、高橋さんは学会でも体験を語りました。
高橋由里絵さん(2024年11月):
「医療者に全てを任せるのではなくて、家族にもできることが必ずある。ファミリーセンタードケアの環境があったから命がつながっていると思っています」
■自宅で初めて祝う2歳の誕生日
そして2025年4月。
父・竜也さん:
「おうち帰るって、きょう」
母・由里絵さん:
「うれしいね」
2歳の誕生日を前に、退院の日を迎えました。
高橋さん家族:
「♪ハッピ バースデー トゥー ユー」
2歳の誕生日は自宅でお祝い。2人のお兄ちゃんも、退院を待ち望んでいました。
家族で協力して吟糸ちゃんのケアにあたります。
痰(たん)の吸引。食事はシリンジを使って「胃ろう」から注入します。
父・竜也さん:
「(調子が悪いと)1時間おき、痰の吸引が必要だったのでその時はへとへとになりました」
それでも―。
母・由里絵さん:
「あれ?座った?」
初めて、1人で座れるように。
成長をそばで見守る喜びはかけがえのないものです。
■退院から1年2カ月、確かな成長
退院から1年2カ月。吟糸ちゃんは2026年4月で3歳になりました。
母・由里絵さん:
「音楽が大好きで」
退院から半年ほどは嘔吐(おうと)など体調不良が続きましたが、徐々に体力がつき、今は以前のように頻繁に痰の吸引をする必要もなくなりました。
母・由里絵さん:
「お!お!」
最近は少しだけ立てるように!動きも表情も一段と豊かになりました。
■支える在宅医療や福祉の「チーム」
そんな吟糸ちゃんと家族の生活を支えるのは、在宅医療や福祉の連携チームです。
看護師:
「ういちゃーん、こんにちは」
訪れたのは伊那中央病院の看護師です。
「訪問看護」は週3回。吟糸ちゃんの体調や呼吸器の状況を確認します。
さらにこの日は―。
看護師:
「ゴシゴシゴシ」
いつもは1人で行う「体ふき」を補助してもらいます。
伊那中央病院 訪問看護ステーション 看護師・志賀淳子さん:
「本人の成長する力っていうのは私たちも感じているし、私たちが普段の生活に入らせていただくというところで、(家族の)目標に向かって支えていけたら」
■リハビリで体の成長や考える力を
サポートする人はほかにも。
理学療法士:
「ういちゃん、また歩きに行くか」
「訪問リハビリ」の理学療法士です。呼吸器を背負って手をつないで家の中を歩き、体の成長をサポートします。
理学療法士:
「だいぶ、左手(つなぎ)も上手になりましたね。前回より安定感が」
扉を開けたり、階段を上ったり。
伊那中央病院 理学療法士・唐沢卓馬さん:
「歩くだけじゃなくて、課題を難しくして、できるだけ日常生活に落とし込むように関わっています」
「訪問リハビリ」は週2回。もう1日は作業療法士がパズルや積み木を使って、手の動きや考える力の発達を促します。
伊那中央病院 作業療法士・青木裕亮さん:
「難しいなという課題もあると思うんですけど、ういちゃんの良さはめげない。いろいろ試しながら一緒にやれていける」
母・由里絵さん:
「いろんなことに興味を持ったり、自分で考えて遊びをつくってみたり。チームになって一緒に考えてくれるのは、すごくありがたいです」
こちらは、吟糸ちゃんの在宅支援のスケジュールです。さまざまな事業所が連携して情報を共有し、成長に応じた支援が組まれています。
5月からは「児童発達支援センター」への通園が始まり、集団生活への一歩を踏み出しました。
■ケアと家事に追われる毎日
さまざまな支援に助けられているものの、平日のほとんどの時間、由里絵さんは吟糸ちゃんから目を離すことができません。
夕方、1人遊びをする吟糸ちゃんを気にしながら、夕飯の支度。
しかし―。
母・由里絵さん:
「ういちゃんういちゃん、それはさ―」
ケアと家事に追われる毎日。
母・由里絵さん:
「仕事はしたいですね。集中してやれる時間があったらありがたいですね」
吟糸ちゃんの退院後、在宅で仕事ができればと思っていましたが、断念しました。
吟糸ちゃんのケアだけでなく、2人の兄の予定や、自らの休息も必要です。
「レスパイト入院」=病院に短期間、入院させることができる施設も県内には少なく、利用できずにいて今後に不安もあります。
母・由里絵さん:
「今後、年を重ねたときに、今の体力のままいけるかっていうと、そうではないので」
■家族が支え合って過ごす夜の時間
午後6時すぎ、2人のお兄ちゃんと父・竜也さんが帰宅。
この日のメニューは野菜たっぷり、豆乳仕立てのシチュー。吟糸ちゃんの分は、ミキサーにかけます。
母・由里絵さん:
「宿題は?ある?」
兄:
「音読だけ」
母・由里絵さん:
「今やっちゃえば?」
兄:
「やだー!」
兄弟と入浴をすませた竜也さんも協力して、夕食の準備です。
「いただきます!」
2人の兄の話を聞きながら、まずは由里絵さんが吟糸ちゃんの口に食事を運びます。竜也さんが食事を終えると、交代。
父・竜也さん:
「お互いを見て動く、みたいな。病院にいるときからそうですけど、(ケアや情報を)なるべく共有してお互い話すように」
食後は、絵本の時間。お兄ちゃんとのにぎやかな時間も、吟糸ちゃんの成長につながっています。
夜は由里絵さんが2人の兄の寝かしつけを担当。吟糸ちゃんには竜也さんが寄り添います。
午後8時半、就寝―。
この1日が、高橋さん家族にとっては日常です。
■「ちいさなタカラモノ」に感謝
由里絵さんはこのほど、吟糸ちゃんの出産から退院までの手記「ちいさなタカラモノ」をまとめました。
ゆっくりでも着実に成長していく吟糸ちゃんの子育てを通して感じたことは―。
母・由里絵さん:
「全然(成長が)進んでないじゃんってもどかしかったけど、次に前へ進むためのパワーをチャージする時間なんだととらえるようになって、立ち止まるときも大事だし、パワーチャージする時間っていうのが、すごく大事」
本の締めくくりに書かれた言葉。
「母は、あなたたちと出会えて、とても幸せです」。
ちいさな宝物に感謝を込めて。
高橋さん家族も、吟糸ちゃんも、一歩一歩、前に進んでいます。
