高額な海外視察問題などで揺れる福岡県議会に新たな疑惑が発覚した。現職の議員2人が、自身の議長と副議長の就任に際し、合わせて2750万円を自民党県議団の幹部に支払ったと証言したのだ。
スマホの音声データに残された『蔵内会』
「『蔵内会』をやって『マスターズ』。『マスターズ』というのは他会派も含めてやって」。スマホから流れる録音データ。

福岡の自民党県議団の幹部と、当時、議長を目指していた県議との会話を録音したというデータだ。ほかの議員たちへの“根回し”のため、3回に渡るゴルフ代を名目とした支払いを幹部が求めているものとされている。

音声データは続く。
「預かります。責任持って立ち会いますから」(自民党県議団幹部とみられる音声) 。「お願いします」(議長を目指す県議の音声)。「ちょっとね、大金やけん、ね。管理しとかんと」(自民党県議団幹部とみられる音声)。

幹部とされる人物が発した「大金」という言葉。その額なんと1千万円だったという。

2026年7月5日、テレビ西日本報道部の取材に対して証言したのは、元・自民で、現在は無所属の吉松源昭県議(58・糟屋郡選出 当選7回)だ。

自民県議団所属だった2020年から1年間、名誉ある福岡県議会議長を務めた。
「私もカツアゲされたようなもの」
なぜこのタイミングで話そうとしたのか? 吉松県議は「私も結局カツアゲされたようなものだと。海外視察の問題、とうとう今度は県民の税金までカツアゲし出したんだと。恐らくちゃんと調べれば、数千万円とか数億円の無駄遣いがあるだろうと思うんですが、源流を今回明らかにして、構造自体を絶たなきゃいけないという思いで今回、話す気になりました」と話す。

吉松県議によると自民県議団の幹部から最初に現金を要求されたのは2018年の12月だった。
「『議会運営について汗をかくつもりがあるんだろう?』と。そういう趣旨のことを言われて『もちろんです』と」(吉松源昭県議)。

「汗をかく―」。

自民県議団の中では『金銭の負担』を意味する隠語だといわれている。
“議長就任への根回し”のため「汗をかけ」
「『君は来なくていいけどその他会派との懇親ゴルフの費用を持ってくれ』と。その額がちょっと大きかったと。『550万円』と言われて『うわっ』と思ったけれども、払っとかないとこれまた外され、出世コースから外されたりとか最悪、自民党から外されることもありえる」(吉松源昭県議)。

求められたのは“議長就任への根回し”のためとした県議十数人ほどのゴルフ代名目の550万円。単純計算で、1人当たり40万円前後がかかったことになる。

「『1カ月くらい(ゴルフを)やるんじゃないか』と思いましたけど、だからある意味、今回の海外視察の構造に似ていますよ。『そんなにかかるのか』と」(吉松源昭県議)。

吉松県議は、不自然さを感じながらも現金を紙袋に入れ、議会棟の応接室で幹部に手渡したという。さらに―。

「半年後くらいに『1千万円』とまた言われて、今後、そのゴルフというんですか、みたいなものが何回もあるんだと、泊まりがけで『その分の汗をかいてほしい』と」(吉松源昭県議)。

一部で、宿泊も伴う3回分のゴルフ代として1千万円を求められた。

吉松県議は、友人から借金もして現金を用意したと証言した。
スマホに録音された生々しい音声
そして幹部である中尾正幸現副議長(61・北九州市若松区選出 当選6回)から現金の受け渡しを指示されたというやりとりを録音していた。

「『蔵内会』をやって『マスターズ』。『マスターズ』というのは他会派も含めてやって」(中尾副議長とみられる男性)。

「私は『蔵内会』だけ、今回、参加させてもらう?」(吉松県議)。
「そうそうそう。あした、松本会長が『荷物』は預かります」(中尾副議長?)。

「そうなんですか」(吉松県議)。
「預かります、責任持ってちゃんと立ち会いますから」(中尾副議長?)。
「お願いします」(吉松県議)。
「ちょっとね、大金やけん、ね管理しとかんと」(中尾副議長?)。

スマホに残された生々しいやり取り。
ゴルフ会名目の請求は、その後も続いた。なかには“県議会のドン”と呼ばれる蔵内勇夫現議長(72・筑後市選出 当選10回)が立て替えた、との理由で、400万円を請求されたケースもあったという。

「とにかく『汗をかけ』って言われるわけですよ、何かにつけて。『議長にさせてやるから持ってこい』という認識じゃなくて『断ったら対象から外すぞ』という。どっちかというとこっちは捉え方ですよね」(吉松源昭県議)。
『お車代』1人50万円 5人分で250万円
吉松県議が議長に就任する2カ月前の2020年4月には、当時、福岡市博多区の中洲にあった高級料亭『老松』で、自民党幹部の蔵内現議長、中尾現副議長のほか、原口剣生県議(71・久留米市・うきは市選出 当選7回)、松尾統章県議(53・北九州市八幡西区選出 当選7回)、松本國寛(69・ 遠賀郡選出 当選7回)の 5人との宴会が催されたという。

食事代の49万円は、吉松県議が精算。

『お車代』として5人それぞれに50万円を手渡したという。

「一応、お土産の菓子折りという形で用意しておいて、こういう紙袋のですね。1人50万円。5人分の『お車代』ということで250万円。ただ、松本先生は後日『俺はいいから』と言って返してくれましたけどね」(吉松源昭県議)。

この宴会には、当時、副議長に就任した自民党の江藤秀之県議(66 飯塚市・嘉穂郡選出 当選6回)も参加していて、テレビ西日本の取材に対し、吉松県議と折半して『お車代』を渡したことを認めた。

「5人おったら、250万円の半分とかやろうと思うよ。(吉松さんにお金を渡した?)うん、そこで封筒に入れたのを覚えている」(江藤秀之県議 ※音声のみ)。

更に江藤県議は、副議長の就任に際し、500万円を中尾県議に手渡したと話す。

「(500万円は手渡した?)うん、間違いなくそれはした。(現金で?)もちろん。現金やないと…、小切手とかじゃダメ」(江藤秀之県議)。

「数年前からそれは聞いていて、副議長のときは500万円、議長のときは何か、1千万円か知らんけど」(江藤秀之県議)。

証言によると、吉松・江藤両県議が支払った金額は合わせて2750万円にのぼる。
「事実ではない」 副議長は正反対の主張
一方、渦中の中尾副議長は7月6日午後、記者会見を開き「金銭の提案は吉松県議から言ってきた」とした上で「受け取っていない」と主張した。

会見で中尾副議長は「私が幹事長になっていましたから、吉松さんの方から『やっぱりお金が要るんでしょう』とこう持ちかけられまして、1千万円の話も出た。松本会長と私は、丁寧にお断りした」と述べ「事実ではありません」と強調。吉松県議の証言とは正反対の主張をした。

しかし音声データには「ちょっと大金やけん、ね。管理しとかんと」と中尾副議長の声と思われるデータが残されている。

吉松県議が保管していた中尾副議長のものだという音声データについて中尾副議長は「よく似ているんですけれども、記憶にないので、6年前で。そもそもお金を受け取っていないので、このようなやりとりをするのは信憑性において乏しいのかなと」と言いよどむ。

記者からの「大金を管理せんとね」の言葉の意味を尋ねられると「覚えていないんですよね。大金という金額も分からないし、記憶にないというのが、今の正直なところ」と明言を避けた。

また吉松県議は、福岡市の高級料亭で蔵内勇夫現議長など幹部5人と会食し、食事代49万円と1人あたり50万円の『お車代』を支払ったとも証言しているが、中尾副議長は「食事代は割り勘だった。50万円も受け取っていない」と否定した。

さらに自民県議団のなかでは『金銭の負担』を意味する隠語だといわれている『汗をかく』ことについて中尾副議長は「『汗をかく』というのが金銭を負担する意味と出ているが、そうではなく先輩たちに敬意を表して、いろんなことを先輩の意見を聞きながらやることだと思う」と反論した。

その上で、具体例として「たまに懇親会があったらそのときに、ちょっと飲み代を出すとか、2次会を好きな先輩にはついていくとか、そういうことじゃないですかね。割り勘でもそのときにちょっとワインを出すとか、そういうことをやってるんだと思いますけどね」と説明した。
2人に対する名誉棄損などの法的措置について問われた中尾副議長は「会派で相談したい」と話すにとどまった。
インターホン越しに「残念でならない」
また、ゴルフ代として550万円を吉松県議に求めたとされる原口県議も強く否定した。

取材に訪れた記者に対して原口県議は「要求をしたことはないし、そういったことはありませんよ。吉松さんと一生懸命、共に歩いてきた時期もありました。だから私は残念でならない」とインターホン越しに応じた。

このほか、名前があがった幹部2人も完全に否定している。

ジャーナリストの鈴木哲夫さんは、今回の疑惑について…

「事実関係は、これからでしょうけど、まぁ正直言って、びっくりしましたね。議長選なので、公選法ということにいくのかどうか分かりませんけれど、どの法律に引っかかるか。今のところ貴重な音声データというものがありますから、これの信憑性を。それともうひとつ、敢えて言えば、これまでも議長になった人はたくさんいるわけですよ。だからこれが慣例だとしたら、要するに議長経験者は、みんなその経験があるということになりますよね?過去の議長経験者が、どういう発言をするのか、ここもひとつ僕はポイントだと思うんですね」(鈴木哲夫氏)。

今回、実名での告発に踏み切った吉松県議。疑惑が生じた、現金のやりとりを生んだ背景には、県議会の歪な権力の構図があると断じた。

「私には恐怖政治に映りますね。意のままに動かなければ、逆らえば、自民党内でも冷遇されたり、最悪の場合は自民党を追い出されたり」(吉松源昭県議)
(テレビ西日本)

