約400年前、江戸時代に作り始められたと言われている宮崎県の伝統工芸品「佐土原人形」。一時は途絶えかけましたが、この伝統を守ろうと、7年ぶりに筆を執った女性職人の思いを追いました。

(早瀬純哉記者)
「型から抜いたこちらの粘土、中は空洞になっていて、厚さは数ミリしかありません。この粘土を形が崩れないよう、絶妙な力加減で、表面を滑らかに整えています」

佐土原人形店「ますや」の阪本由美子さん85歳です。去年秋、7年ぶりに工房に復帰しました。宮崎市佐土原町の「ますや」は、約30年前、由美子さんが夫・兼次さんとともに大阪から移住して引き継いだお店です。

人形の形を作り焼くのは兼次さん、色を乗せるのは由美子さん。二人三脚で歩んできましたが、由美子さんは体力の限界から7年前に現役を退きました。さらに2年前には、夫の兼次さんが他界。工房を取り壊すことも考えました。

(ますや 阪本由美子さん)
「はじめは店を閉めようと思ったが、素焼きの人形が整理したらいっぱい出てきた。こんなに焼いてるから、色を塗らないことにはどうしようもないし。捨てるわけにはいかない」

試しに1つ塗ってみると、当時の筆の感覚がすぐに戻ってきました。

(ますや 阪本由美子さん)
「(ブランクは)余り感じなかった。やってみたら、手が覚えてる。そんなにブランクがあったとは感じなかった。あまり遅くまでしたらいけないと思って、ここで止めようと思うが、なかなか止められない」

夢中で筆を動かす時間は、兼次さんとの別れから立ち直るきっかけにもなりました。

(ますや 阪本由美子さん)
「ここにいて仕事してると、まだ(兼次さんと)一緒にしている感覚。仕事をしていると、一緒にいてくれる。寂しいとかそういう感覚はなくなった」

この再出発の背中を押したのが、長女の寛子さんでした。毎月、石川県から通いながら由美子さんを支え、店を盛り立てています。

(娘・阪本寛子さん)
「父が亡くなった時は、様子がおかしいというか、上の空だし、何か言っても反応がなかった。年も年だし先が心配だなと思っていたが、人形を作らすと急に活き活きした。すごく幸せそうな顔をして塗っているので、こっちも頑張ろうかなという気になる」

現在、佐土原人形を制作し販売するのは「ますや」だけになっていて、伝統の継承が危ぶまれる中、由美子さんと寛子さんは次の世代に伝える取り組みも進めています。

(ますや 阪本由美子さん)
「けっこう塗れてるよ。この辺がまだかな。そうそう」

6月、2人は地元の小学生たちを集め、絵付けの体験教室を開きました。

(参加者)
「手が震えて難しい」
「自分の思い通りに塗ることができる」
「首輪の色が決まらなかったので、2色にした」
「この佐土原人形の文化を次の世代にまたつなげていきたい」

子どもたちの自由な発想は、由美子さんにとって新たなひらめきを与えてくれました。

(ますや 阪本由美子さん)
「こういう塗り方、こういう色合いもあるんだなというのは楽しい。こんな楽しい仕事が私に待っててくれたんだと思って、幸せ。巡り合えたということは。楽しいなという気持ちが残っていれば、また、佐土原人形も続いていくんじゃないか」

かつて夫婦でつないできた伝統は今、母と娘によって、再び地域へと紡がれ始めました。由美子さんが一筆一筆乗せる鮮やかな絵の具は、佐土原人形の未来を映し出すかのように、力強く輝いています。

テレビ宮崎
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