2026年7月1日で能登半島地震から2年半。新潟市が実施を予定している街区単位の液状化対策は、江南区で実際の工法を試す試験施工が始まった。一方、この事業は住民の費用負担と地権者全員の同意が実施要件となっていて、新潟市と被災住民との溝が埋まらない。こうした中、中原八一市長は6月の市議会で、事業要件を再検討する必要性に初めて言及した。

“街区単位の液状化対策”は試験施工へ

26年6月12日、新潟市江南区で開かれた新潟市による説明会。

地下水位を下げ、再び液状化するリスクを低減させる『地下水位低下工法』による工事を試験的に行う“試験施工”についての初めての説明会だ。

江南区天野地区での試験施工説明会
江南区天野地区での試験施工説明会
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能登半島地震で液状化被害を受けた地域のうち、約250ヘクタールで新潟市が実施を検討している街区単位の液状化対策。

地下水位低下工法では、地中に鋼矢板を打ち込み、対策区域と周辺の地下水の流れを遮断した上で、鋼矢板に囲まれた範囲の地下水を地下の集水管で集め、排水する。

試験施工は、対策の対象地域で試験的に地下水位低下工法で工事を行い、安全度や効果の確実性を確認するほか、地下水の低下量、周辺の地盤沈下量などを観測・把握するものだ。

新潟市江南区天野地区
新潟市江南区天野地区

6月末に江南区天野地区の曽野木ことぶき公園で、市内で初めて工事が着工された。

新潟市都市計画課の職員は、「試験施工を住民の皆さんに見ていただくことで、実際の工事でどのような現場の様子になるのか感じていただきたい」と呼びかけた。

「地盤は下がる?」住民の思い

説明会後、住民からは「試験施工を行う公園の近隣に家がある。地下水を抜くことで多少なりとも地盤は沈むのだと思うが、その影響が本当にないのか少し不安」「地下水位低下工法の事例が全国にたくさんあるわけではない。やってみないと分からない」などの声が上がった。

天野中前川原自治会 増田進 会長
天野中前川原自治会 増田進 会長

事業の実施に前向きな江南区天野中前川原自治会の会長・増田進さんは、「話が具体的になってきている。反対する方も『地盤が下がるのではないか』とか『地中に鋼矢板を打ったらどうなるの?』とか、具体的な話をしているので、理解は深まっていると感じた。理解の深まりは、最終的な同意形成に大きな効果がある」と話した。

住民負担と100%同意…新潟市が掲げる“2大要件”

新潟市は街区単位の液状化対策において、自治会単位での説明会を経て住民理解が進んでいると判断された地域の住民に対し、工事を希望するかどうかの「意向確認のアンケート」を実施。

そのアンケート結果を受け、事業に前向きな地域では概略設計に進み、最終的に工事に同意するか否かを地権者全員に確認する考えだ。

この最終同意で住民にとって高いハードルとなっているのが2つの実施要件だ。

▼住民の費用負担(1坪あたり5250円)
▼地権者全員の同意が必要

「公平性の観点から住民負担は必要」

6月10日、増田会長の姿は江南区役所にあった。

「市長さんに液状化対策の話をしたい。一番ネックになっている住民の費用負担について話したいなと思っている」

新潟市 中原八一 市長
新潟市 中原八一 市長

この日、区役所で行われたのは、市政課題について中原市長と市民が直接対話する『市長とすまいるトーク』。

ここで、住民の費用負担について市長に直談判する考えだった。

住民の費用負担と地権者全員の同意を求めるという実施要件については、これまで開かれた説明会でも、住民から「難しい」などと反発の声が多数出ている。

同じく能登半島地震で液状化被害を受けた石川県・富山県では住民負担がないことも疑問につながっている。

これに対して新潟市は、事業の実施対象となる面積が約250ヘクタールと広いことや、被災していても実施対象から外れているエリアがあること、市内には液状化しやすいエリアが今回の被災地以外にも広がっていること、個人的に液状化対策を施した住民もいることから、“公平性”の観点で住民負担は必要だというスタンスを崩していない。

中原市長は、生活保護世帯などへの負担免除を示した25年10月、「これが市としてできる最大限の対応になるのではないか」と明言している。

市長に直談判…自治会長の思いに市長は?

増田会長は『すまいるトーク』の場で、市長をはじめとした関係者からの被災地支援に感謝を述べた上で、住民の費用負担について切り出した。

天野中前川原自治会 増田進 会長
天野中前川原自治会 増田進 会長

「今一番ネックになっているランニングコスト(=住民負担)について、できる限り国・県に要望していただき、スムーズに工事が進むようにぜひお願いしたい。市長さん、本当に頑張ってください。よろしくお願いします。助けてください。お願いします」

約150世帯が街区液状化対策の実施対象となる自治会を代表する訴えは、様々な経済的事情を抱える住民の思いを乗せていた。

これに対し、中原市長は「先般(6月5日)国土交通省にお邪魔して、整備後の維持管理費や整備費の支援を新潟市でお願いしたいと要望させていただいた。我々としては、住民の公平感を保つため自己負担をいただく前提は変わらないが、その上で、負担が軽減できるように考えていきたいというふうに思う」と、これまで公の場では口にしてこなかった“負担の軽減”に触れた。

イベント終了後、増田会長は、「負担については限りなく考えるという話もあったと思うので、また頑張ってもらいたいなと思っている。私たちはもちろん協力するし、お互いに協力し合いながらより良い方向に持っていったらいいのかなと思っている」と振り返った。

“実施要件再検討の必要性”に市長が初言及

この『市長とすまいるトーク』から約10日後の6月22日、新潟市議会で、一つの動きがあった。

翔政会の保苅浩議員が街区単位の液状化対策について「事業の制度を見直す可能性があるのか」を尋ねた場面だ。

新潟市議会
新潟市議会

中原市長はこれまでと同様に、住民負担は公平性の観点から基本であるとした一方、「試験施工の状況や本市が国に要望している結果等を踏まえ、新潟市の液状化対策事業の要件を2026年度末までに検討する必要があると考えている」と発言。

「国への財政支援の要望の結果を受け」という条件を掲げているものの、住民の費用負担額を含めた実施要件について再検討する必要性に初めて言及した。

事業の行方を左右する可能性のある発言だ。

この答弁を傍聴した天野中前川原自治会の増田会長は、「声を上げ続けてきた立場としては非常にうれしいと思っている」と今後の進展に期待を寄せた。

同時に増田会長は、被災地域以外の住民への理解も重要だと考えている。

「新潟市は広いし、事業を行うとなれば(住民負担の有無に関わらず)税金を使わせてもらうわけだから、多くの方々の理解を深めていかなければならないと思っている」

住民間の温度差をどう捉えるか

街区単位の液状化対策をめぐっては、能登半島地震から時間が経つ中で、どこまで住民の関心が維持されるかも課題と言える。

6月12日に江南区天野地区で開かれた“試験施工”の説明会への参加者は約30人。一方、2025年に実施された同地区の“全体説明会”には、8月に97人、10月に79人が参加していた。

増田会長は「風化という言葉は使いたくないが、地震から1年、2年と経つにつれ、皆さんの注目度が下がることを心配している」と不安を隠さない。

新潟市も試験施工の住民見学会を実施するほか、瓦版を作成するなど、対策への関心の維持に努める考えだ。

また、26年6月末時点で、住民の要請を受けて開かれる“自治会単位の説明会”が一度も開かれていない自治会が約4割に上るなど、自治会ごとで関心の温度差がある現状も見逃せない。

最速で28年の対策工事着工を目指す新潟市。

液状化しやすい地域が広く存在する中で、安心・安全を求める住民の思いを市はどう形にしていくのか。

住民の費用負担のあり方が、この事業の行方を大きく左右することは間違いない。

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NST新潟総合テレビ
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