高校球児や僧侶の象徴として馴染み深い「丸刈り」。
かつては「規律性」や「一体感」の表れとして社会に広く浸透していたこの髪型が、今では謝罪やけじめ、あるいは懲罰の手段として用いられるケースが目立つようになりました。
教育現場では指導の一環として「丸刈り」を強要させるなど、懲罰の手段として使われる問題が表面化しています。
一方で、「チームの結束力の象徴」として部活動で残っている丸刈り。時代の流れとともに廃止する動きもあります。その背景を取材しました。
■丸刈りは“謝罪”や“けじめ”を表現
“謝罪”や“けじめ”などの表現としても用いられる「丸刈り」。
先週、アイドルグループ「AKB48」の元メンバーが本人の公式SNSに丸刈り姿で登場し、ファンとの私的な接触を謝罪しました。AKB48では過去にも、熱愛を報じられた元メンバーが謝罪とともに丸刈り姿になり、話題に。
しかし、丸刈りは元来、こうした「謝罪」や「懲罰」とは無縁の存在でした。
■「丸刈りが校則」の時代
1980年ごろ、多くの中学校では丸刈りを義務づける校則が存在していました。
「規律性」や「一体感」を生み出すとして、男子生徒全員が丸刈りを強制されていたのです。
当時の生徒手帳には「頭髪:丸刈りとする。指の間から出るまでに刈る」という文言が記されていました。
理髪店では「したくないと思ったけどね、やっぱりしょうがないから」と語る中学生の姿がありました。嫌だとは思いつつも、これが校則であり、逃れる術はなかったのです。
当時の中学校長は「教育的に非常にまずいことがあるならば、とっくに改善されていると思うんです」と話していました。学校側にとって、丸刈り強制は裁量の範囲内という認識でした。
■「ツルッツルにわざとするねん」丸刈り校則時代の記憶
丸刈り校則の時代を知る60代の男性は、こんなエピソードを明かします。
「五分刈り(約9ミリ)以下。みんなわざとそれより短くする。”男の意地”みたいな。1厘刈り(約0.3ミリ〜0.5ミリ)にして、ツルッツルにわざとするねん」
強制された状況の中でも、あえて最も短く刈り込むことに反骨心のようなものを見出していた…それが当時の男子中学生の実像でした。
1990年代に入ると、人権意識の高まりを背景に丸刈り校則の見直し機運が高まり、各校で次々と廃止の動きが進みました。
校則廃止が決まった学校では、生徒たちが「うれしい!」と声をそろえる光景があったといいます。
■「丸刈りにしてきなさい」部活動での強要
校則廃止後も、丸刈りは一部の部活動では「チームの結束力の象徴」として残り続けました。
しかし近年、それが懲罰の手段として使われる問題が表面化しています。
関西大学北陽高校の部活動では、指導者らが指導の一環でミスをした部員に丸刈りを強要していたことが明らかになりました。豊中市立の中学校でも、部活の顧問(当時)が指導として強く迫り、部員12名が丸刈りにした問題が起きています。
中学3年のとき、サッカー部で丸刈りを強要された経験を持つ男性は、当時をこう振り返ります。
【丸刈りを強要された経験を持つ男性】「監督が『この試合、絶対勝たなあかんぞ』と。勝てなくて『期限までに丸刈りにしてきなさい』と」
子どもながらにその精神的ダメージは深刻だったと言います。
【丸刈りを強要された経験を持つ男性】「正直、殴られたり蹴られたりの方がまし。一瞬の痛みに耐えれば済む。丸刈りの方が長期にわたって影響が出る。鏡見るたびに屈辱的な気持ちになった」
■「刑法上の暴行罪にあたる」と弁護士が指摘
では、なぜ「一体感」の象徴だった丸刈りが、懲罰的な意味合いを帯びるようになったのでしょうか。
パワハラ問題に詳しい木蓮経営法律事務所の松坂典洋弁護士は、「普段、丸刈りじゃない集団において、丸刈りにするということが(懲罰的な)意味がある」と分析します。
かつて丸刈りが校則として存在した時代は、学校側の裁量の範囲内として強制も認められていました。
しかし令和の今は状況が根本的に異なります。
松坂弁護士は「無理やりに髪の毛を丸刈りにすれば、それは刑法上の暴行罪にあたり、丸刈りにせざるをえないように強要した場合には、強要罪が成立する場合もあります」と話します。
■「サラサラ球児って言われたい」変わりゆく高校野球の風景
こうした時代の変化は、「高校球児=丸刈り」という長年の常識にも及んでいます。
春夏7回の甲子園出場経験を持つ強豪・立命館宇治高校の野球部では、4年前に丸刈りを原則廃止しました。
選手たちは今、それぞれの髪型で練習に励んでいます。
「ヘアオイルをぬってケアしている」「高校生活も楽しく送りたいので」と選手たちは語ります。
中には「高校を選んだ理由で、”丸刈りにしなくていい”があった。言われたいっす。『サラサラ球児』って」と話す選手も。
里井祥吾監督は丸刈り廃止の理由をこう説明します。
【立命館宇治高校野球部 里井祥吾監督】「先入観のみで選手を縛っていくのは時代的に違うと思う。自由度を与えて、自分たちで考えていく考えを育んでいきたい」
丸刈りをやめた後も、2023年夏の甲子園に出場するなど、チームの強さは揺らぎませんでした。
■自由な選択としての位置づけを
一方で、あえて丸刈りを選ぶ球児もいます。
立命館宇治高校の藤川昊大主将は「自分が小学生とか中学生のときに見ていた高校野球は、やっぱり丸刈りの選手が多くて、熱いプレーを見てたらかっこいいと思うところがあった」と丸刈りを貫く理由を話します。
日本高校野球連盟によると、部員の髪型を丸刈りと定める高校は、2013年のおよそ8割から2023年には3割近くまで減少しています。「高校球児=丸刈り」は、もはや当たり前ではなくなりました。
規律の象徴として社会に根付き、やがて懲罰の手段へと変質していった「丸刈り」。
強制ではなく、自由な選択として丸刈りを位置づけることが大切なのかもしれません。
(関西テレビ「newsランナー」2026年6月29日放送)
