1万冊超を読破した希代の読書家であり、歴史やビジネスなど多くの著書をもつAPU(立命館アジア太平洋大学)の元学長・出口治明氏(現・学校法人立命館顧問)。
2021年に脳出血で倒れてからも、電動車いすで移動しながら精力的に情報発信を行っている。
日本と世界をいま出口氏はどうみているのか。
5月に、「音楽の見える瞬間(とき)ホワイトハンドコーラスNIPPONのきせき」を上梓(じょうし)し、日本の多様性とインクルージョンのありかたを世に問うた解説委員の鈴木款がインタビューした。
日本の教育は「みんな違う」ことを徹底すべき
――出口さんはかつて「インクルージョンへの第一歩は、世界がどうやってできているのかを理解すること」「世界はグラデーションでできているのに、人間は面倒くさがりなので、そのグラデーションのどこかに線を入れたがる」とおっしゃいました。いま世界的にインクルーシブでダイバーシティを重視する社会や教育が求められています。こうした世界の流れをどうお考えですか?
大いに賛成です。世界共通の一つの物差しで測るべきで、それがインクルーシブです。僕が学長を務めたAPU(立命館アジア太平洋大学)はまさにそうですね。
――一方、日本の教育現場では、障害のある子どもとない子どもを「分離」する教育が主流であるため、国連からインクルーシブではないと指摘されています。この現状についてのお考えを聞かせてください。
僕は「分離」はよくないと思います。だから国連の指摘に賛成です。日本の教育は「みんな違う」ことを徹底すべきです。僕たちは皆、80億人のうちの1人です。それは80億人の中で1つだけの個性と言えます。ではなぜ日本ができないのか。その理由は、日本は島国で世界共通の尺度を考えれば変なところがいっぱいあるからです。たとえば天皇は男子だけとかですね。
――APUのように、多様な国籍・宗教・言語の人たちがいる環境でしたら、世界の尺度が分かってくると思うのですが、ほとんどの日本人がそういう環境の中にいませんね。
日本はかつてパスポートの所有率が25%、4人に1人でしたが、いまは17%くらいです。
当時のドル円為替レートは120円でしたが、いま円安が進んで、160円内外で外国にいきづらい。また経済的に外国に行けない子どもたちは、どうしたらいいでしょう。いま世界を知るならワールドカップサッカーを見たらいいと思います。
日本経済成長のためにはとにかく少子化対策
――いまの円安は日本の国力の衰退が反映されていると思います。米中2大国はおろか、ドイツ、インドとどんどん抜かれ、さらに人口減少に歯止めがかからない。日本の国力は浮上する理由が見当たらない状況です。日本経済が復活するにはどうすればいいと思いますか。
まず日本経済は暗いけれどいつかはよくなる。いまは踊り場でしょう。
150年前の日本のGDPは名目成長率3%でした。いまは3.6%あり、成長は続いているのです。これから4%に上がるのか、それとも3%、そして2%へと落ちていくのか。日本経済が成長するためには一に少子化、二に少子化、三に少子化対策です。
――しかし、日本の少子化は歯止めがかからないどころか加速し、とても再び出生率が上がるとは思えないのですが。
100年前日本で赤ちゃんが生まれるのは主に東日本でした。しかしいまは西日本が多い。ぼちぼちこの傾向が変わるかもしれません。そして外国人を増やすことです。いま日本の人口に占める外国人の比率は3%ですが、先進国は10%内外です。
習近平後の中国は米との関係が良くなる
――いま日本では、むしろ外国人を排斥する動きが支持を集めています。アメリカやヨーロッパの一部でも、ダイバーシティ、インクルージョンとは真逆の動きが広がっています。
世界は暗くなっているでしょうか。高市総理、トランプ大統領、習近平国家主席。高市総理はあと2~3年ありますね。支持率が落ちたと言っても50%ありますから仕方ないですね。トランプ政権もあと2~3年。習近平はあと10年続くかもしれませんが、習近平後の中国は米国との関係が良くなるでしょう。その理由は、アメリカへの日本人留学生は年間1.3万人ですが、中国からは27万人と多い。アメリカから帰国した中国人学生が、いずれ国の中枢を担いアメリカとの関係を変えていくからです。
――最後に、今回「音楽の見える瞬間(とき)ホワイトハンドコーラスNIPPONのきせき」という本を上梓しました。ホワイトハンドコーラスNIPPONはさまざまな特性のある子どもたちがともに支え合う合唱団です。出口さんはこうした活動をどう思われますか?
本を読んで感動しました。活動は大いに賛成です。
――ありがとうございました。

