SNSで拡散される暴行動画、生成AIによるフェイク映像。子どもたちを取り巻くデジタル空間の新たなリスクが次々と社会問題化するなか、自民党は3月、「情報社会においてこども・若者を守るPT(プロジェクトチーム)」を発足させた。

座長の牧島かれん元デジタル担当相と、事務局長の土田慎氏にインタビューした。
学校のメディアリテラシー教育は十分か
――学校でのいじめや暴行の動画がSNSで拡散される事案が相次いでいます。この現状をどう受け止めていますか?
牧島かれん元デジタル担当相:
深刻に受け止めています。スマホやSNSが子どもの生活に不可欠な存在になり、触れる時間も長くなっています。そのなかでこうした事案が起こり、保護者も子ども自身も、ようやく問題意識を持ち始めていると感じます。
土田慎PT事務局長:
再発防止のためには、まず学校と保護者による倫理的・道徳的な教育の必要性が指摘されます。しかし、子どもの方がはるかに先を行っており、教育だけで対応するのは難しい。SNSへの没入による悪影響を防ぐには、プラットフォーマー側にも対応を求めていく必要があると考えています。
――自民党の「情報社会においてこども・若者を守るPT」では、現在どのような課題設定で議論を進めていますか?
牧島かれん元デジタル担当相:
文科省や学校の現場では、命の安全教育やネット・メディアリテラシー教育が行われてきましたが、それで十分なのかを問い直す必要があります。子どもがスマホやSNS 、動画に費やす時間は各国ほぼ変わらないのに、規制の枠組みは国ごとに違う。日本ではいま何が自由で、何が制限され、何を懸念するべきなのか。その整理から始めなければなりません。
SNS年齢制限か、事業者の自主的対応か
――オーストラリアでは昨年、16歳未満のSNS利用禁止が導入されました。日本はどこまで検討すべきでしょうか?
牧島かれん元デジタル担当相:
いくつかの選択肢があります。1つはオーストラリアのように年齢制限で入り口を絞る方法。もう1つはEUのように、事業者にサービスに応じた自主的な対応を求める方法です。自主的な対応を法整備で担保すべきか、罰則を設けるべきかは意見が分かれるところですが、EUでは事業者に対して法的義務を課した上で、取組内容の詳細を推奨事項としてガイドラインで定めています。対象を事業者単位にするのか、アプリ全体で考えるのかという論点もあります。
――日本での現実的な選択肢は?
牧島かれん元デジタル担当相:
ペアレンタルコントロールがある以上、保護者や学校にゆだねるべきで、国が法律で規制するべきではないという考え方もあります。スマホは子どもにとって居場所を作る道具にもなっており、たとえば一律に使用時間を制限すれば、子どものつながりの場そのものを奪いかねません。だからこそ、「こども・若者を守る」という目的に照らして、本当に何が必要かを議論しているところです。
――誹謗中傷やフェイクニュースへの罰則強化について、国はどこまで踏み込むべきですか。表現の自由とのバランスはどう担保しますか?
土田慎PT事務局長:
罰則と表現の自由は分けて考える必要があります。罰則については、対象をプラットフォーマーとするのか、フェイクニュースやフェイク広告を流す個人・団体にするのか。後者は別の法体系ですでに検討が始まっていますが、プラットフォーマーにも秩序維持の役割を果たしもらわなければならない。ただ、これまで彼らは本気で取り組んでこなかったというのが私の認識です。
表現の自由とのバランスは難しい問題ですが、フェイクや明らかに他者に実害を与えるものをどこまで「表現の自由」として許容するかは、今回の議論とは別の話だと考えます。
国はどこまで事業者に求められるのか
――年齢確認や利用制限の実効性、アルゴリズムの透明性について、国は事業者にどこまで求めるべきでしょうか?
牧島かれん元デジタル担当相:
アルゴリズムがこどもたちにどのような影響を与えるかは警戒感も持って検証していく必要がありますが、「営業の自由」がある以上、アルゴリズムの公開を求めるのはかなり厳しいと思います。ただし、中毒性の有無を指摘した場合に、中毒性の無い設計になっているというエビデンスを事業者側は示さなければならない。そういう局面に来ていると思います。
有識者へのヒアリングでアメリカの例が挙がりました。動画を見始めると無限ループのように自分の意志で止められない設計にした場合、事業者の責任が問われる州法があるそうです。日本ではそうした法律も議論もないため、視聴を止められないのは「自分の意志の弱さ」とされてしまいます。

土田慎PT事務局長:
アルゴリズムの透明性を求めるのは、私も難しいと思います。一方、中毒性の無い制度設計を求めることはできるはずです。例えば、一定の年齢に対して中毒性の無い要素をアルゴリズムに組み込めるよう義務付ける。ただし、これをすべての世代に広げるのは営業の自由の観点から厳しいでしょう。
これまでの教育で問題は解決できない
――学校で行われている情報モラル教育やネット犯罪・トラブル回避の教育をどう評価していますか?また、開始時期は小学校低学年からでもよいとお考えですか?
土田慎PT事務局長:
前提として、限られたリソースの中で頑張ってくださっている先生方に敬意を表したいと思います。ただ、これまでの情報教育や使用制限だけでは、実社会で起きている問題は解決できません。保護者からももう無理だという声が上がっています。だからこそ、学校や保護者に求めるのではなく、大本のプラットフォーマーに一定の対応を求めるべきだと思います。

牧島かれん元デジタル担当相:
授業の中で子どもたち自身がルールを作っている事例も聞きます。自分たちで考えたルールの方が守りやすいという子もいるでしょう。小学校低学年でもすでにスマホを持つデジタルネイティブ世代ですから、早すぎるということはないのかもしれません。
――次期学習指導要領の改訂で、メディアリテラシーをどう位置づけ、充実させるべきだとお考えですか?
牧島かれん元デジタル担当相:
メディアリテラシー教育を行うのは前提として、「誰がどう伝えると効果的か」を考える必要があります。先生が教える,警察が出前授業を行うといったこれまでの方法に加え、いま学生スタートアップがゲーミフィケーションを取り入れた教材をつくっています。闇バイトや偽情報を見極める力を養う体験型ゲームです。学校はもう少し民間に扉を開き、連携を進めるべきだと思います。
子どもをAIに触れさせないのは得策ではない
――学校教育における生成AIの活用や、AIリテラシーの育成についてはいかがでしょうか?
牧島かれん元デジタル担当相:
AX(=AIトランスフォーメーション)が言われる中、 AI無しの将来像は描けません。子どもをAIに触れさせないのは得策ではない。ただ、先生方はAI時代の人材育成のためのトレーニングを受けていないので、そのギャップを埋めなければならない。民間人材を学校に導入することも選択肢になるでしょう。
先日、AIと教育の専門家の方々と「夏休みの読書感想文の宿題はどうなるのか」を議論しました。これまで通りではなく、AIに頼るだけでは提出できない宿題,例えばフィールドリサーチや仲間とのディスカッションを経なければ書けないような問題設定をするのが良いのではないか。そんな話になりました。
土田慎PT事務局長:
私もAIを教育の中でどう使うかを考えることが大事だと思っています。AIは想像を超えるスピードで進化しているので、使用を制限・禁止しても、毎年ガイドラインを改定することになり実質「もぬけの殻」になる。それよりも、「AIにはこれを任せ、自分が豊かに生きていくためにはこれは自分がしっかりやる」と整理して、使い方教育をするのが学校で最も大事だろうと思います。
(執筆:フジテレビ解説委員 鈴木款)
