学校におけるいじめや暴行の動画がSNSで拡散される事案が社会問題となっているいま、SNSに年齢制限を設ける動きに賛否の声が上がっている。こうした規制や禁止の動きを教育現場はどのように受け止めているか。メディアリテラシー教育で先進的な取り組みをしている埼玉県戸田市を取材した。

相次ぐ暴行動画の投稿と拡散に教育現場は

今年に入って子どもによる暴行動画の投稿と拡散が相次ぐ事態を受け、戸田市ではすべての小中学校でメディア情報リテラシー教育(※)を実施した。あわせて地元の蕨警察と連携した犯罪抑止・未然防止動画も児童生徒に視聴させた。同市ではこれまでも小学1年生から中学3年生までを対象に、市作成の教材を用いたメディア情報リテラシー授業に取り組んでいる。
(※)スマートニュース メディア研究所と連携

暴力動画の拡散事案を受け、メディアリテラシー授業を実施(戸田市立戸田第一小学校 2月26日 筆者撮影)
暴力動画の拡散事案を受け、メディアリテラシー授業を実施(戸田市立戸田第一小学校 2月26日 筆者撮影)
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文部科学省は緊急対応として、全国の教育委員会に「SNS上における暴力行為等の動画の投稿・拡散を受けた緊急の対応等について」という通知を発出し、動画(※)を配信するなど情報モラル教育の実施を教育現場に求めた。

これに対し戸田市教育長の戸ヶ﨑勤氏は「極めて重要な方向性を示した適切なもの」と受け止めつつも、「年に数回の特別授業や講演会だけでは、子どもたちの行動変容を促すのは困難だ」と考える。

戸田市教育長・戸ヶ﨑勤氏:
一人一台端末が普及したいま、メディア情報リテラシーの育成は特別な行事的取り組みで行うのではなく、GIGAスクール構想と一体となった日常的な指導や学びの中に組み込まれるべきです。

(※)「SNS上における暴力行為等の動画の投稿・拡散事案に関する情報モラル教育の充実」

「ネットは危ない」から「立ち止まって考える」へ

戸田市の教育現場では、子どもたちに、情報の出どころを確かめる力、見出しだけで判断しない態度、自らが拡散する意味を考える力など、「立ち止まって考える力=クリティカルシンキング」を育てることを大切にしている。戸ヶ﨑氏は「子どもたちに『ネットは危ない』と教えるだけではだめです」と語る。

戸ヶ﨑教育長「子どもたちに『ネットは危ない』と教えるだけではだめです」
戸ヶ﨑教育長「子どもたちに『ネットは危ない』と教えるだけではだめです」

戸田市教育長・戸ヶ﨑勤氏:
動画の撮影や拡散がどのような法的・社会的責任を伴うのか、具体的事例をもとに繰り返し教育すること。さらにテクノロジーや社会変化に対応して情報とどう向き合うかという、情報モラル教育とメディア情報リテラシー教育のアップデートが必要です。
また、家庭でのルール作りはもちろん、保護者自身が情報倫理を高めるなど“大人の情報リテラシー”育成も急務です。近年は「マイクロアグレッション」も問題視されています。アンコンシャスバイアスによって、悪意の自覚がないまま、特定の属性を持つ人に対し差別的・排除的なメッセージを伝えてしまうというものです。

SNS、スマホ利用の年齢制限が世界で賛否両論を

こうした状況は日本だけでなく世界的に広がっている。その対策として、教育先進国フィンランドでは2025年8月から小中学校でのスマートフォン利用が制限された。さらにオーストラリアでは、2025年12月から16歳未満の子どもを対象にSNS利用を禁止する措置をとり、世界的に賛否両論を呼んでいる。

背景にあるのは、デジタルへの依存度が一層高まる環境下での子どもたちへの影響だ。デジタル環境の過度な利用は、子どもたちの集中力低下や思考力の弱まりといった副作用を生む可能性がある。とくにいま普及する「ショート動画」のような断片的な情報を短時間で消費する習慣は、じっくり考える力の育成に大きな影響を与えかねない。

禁止か容認かではなくどう使うかが問われる

こうした海外の動きについて戸ヶ﨑氏は、「子どもを守る政策として趣旨は理解する」としながらも、一律禁止には慎重な検討が必要だと語る。

戸田市教育長・戸ヶ﨑勤氏:
デジタルかアナログか、禁止か容認かの二項対立ではなく、教育的効果を最大化するために、いつ、どう使うかというガバナンスが教育現場で問われると思っています。

デジタル機器をどう使うかが教育現場で問われる(画像:戸田市とスマートニュース メディア研究所が共同開発の教材)
デジタル機器をどう使うかが教育現場で問われる(画像:戸田市とスマートニュース メディア研究所が共同開発の教材)

学校ではデジタル機器を使わない時間や環境、たとえばデジタルデトックス、アンプラグド、スクリーンフリー、情報断食といった取り組みの機会を設けてみることも必要だろう。

戸田市教育長・戸ヶ﨑勤氏:
私は学校現場に、年に一度は「究極のチョーク&トーク」の授業、つまりデジタル機器を使わず黒板と対話だけで進める授業をしてみてほしいと伝えています。これをすることで、教師も子どももデジタルのよさやよりよい使い方などが改めて認識できると考えるからです。

「特にSNSには子どもにとってポジティブな側面もある」と戸ヶ﨑氏は語る。

戸田市教育長・戸ヶ﨑勤氏:
教育資源や社会的つながりなど、子どもにとってポジティブな側面もあり、学びや円滑なコミュニケーションの機会にもなり得ます。一律に禁止して遠ざけるよりも、教育現場でテクノロジーを主体的に制御する知恵を育む。そうしたハイブリッドな対応が適しているのではないでしょうか。禁止に依存するのではなく、教育による自律が重要だと考えます。

生成AIを教育現場でどう活用するか

そしていま教育現場が頭を悩ませているのが、生成AIを教育の中でどう活用していくかだ。生成AIが答えをすぐに出してくれるという環境では、子どもが試行錯誤や工夫を経ずにその答えに依存するおそれがある。戸田市は小中学校での生成AI利用について、どのようなガイドラインのもとで進めていくのか。

「生成AIには、光と影があります」と戸ヶ﨑氏は言う。

戸田市教育長・戸ヶ﨑勤氏:
生成AIは、今後の社会にとって不可欠な基盤です。一方で、誤情報や偏り、思考の外部化といった課題もあります。子どもの発達段階を踏まえずに早くから直接使わせることは、慎重であるべきです。特に小学校段階では、まず読む・書く・考える・まとめる・表現するといった基礎的な学びの過程を十分に経験させることを優先する必要があります。

戸田市は小学校段階では生成AIを児童に直接操作させるよりも、教師が適切かつ効果的に活用する場面を見せながら、生成AIの出力を「比べる」「疑う」「立ち止まって考える」学びを重視すべきだと考えている。

今後のガイドライン整備において戸田市は、テクノロジーの理解だけでなく、社会的影響や倫理、協働、そして自らを振り返る力まで含めたAIリテラシーを、段階的に育てる視点を重視していく方針だ。

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。