7月は「愛の血液助け合い運動」月間で、全国各地で啓発活動が行われている。
日本の血液事業は日本赤十字社(以下、日赤)が担っているが、近年、10代、20代といった「若者の献血離れ」が深刻な問題になっているという話題を耳にした。
看護大で学んだからこその危機感
人工的に造ることができず長期保存もできない「血液」。その現状に、日本赤十字看護大学で学んだ私は強い危機感を抱いた。

日赤の調べによると、献血者数について、40代は比較的高水準で推移し、50代は増加傾向にある一方、20代と30代は減少傾向で10代は低迷したままだ。
献血の現場はどうなっているのか。
そう疑問に思い調べてみると、最近の献血ルームは「まるで最先端のカフェのように快適化している」という面白い動向が見えてきた。
なぜ、空間の快適さにこだわる必要があるのか。
16歳で初めて献血に来た高校生のリアルな声から、若者たちの献血の最前線をレポートする。
献血の種類と流れ
献血には大きく分けて2つの種類があり、年齢や体重などの基準が定められている。
●全血献血:(200mL・400mL)
血液中のすべての成分を採血する方法。
200mLの場合、16歳以上、男性45kg以上・女性40kg以上で協力できる。
●成分献血:(血漿(けっしょう)成分献血・血小板成分献血)
血液中の特定の成分のみを採血する方法。
年齢は男女ともに18歳以上、体重は男性45kg・女性40kg以上で協力できる。
献血ができる場所は、主に「献血ルーム」、「献血バス」、「オープン献血(学校や会社などの一角を採血スペースとして実施する)」の3つがある。
常設の「献血ルーム」を例に一連の流れを整理する。
①受付
ドナー(献血者)は体調や過去の病歴、海外への渡航歴など、血液を必要とする患者が安心して輸血を受けるため、健康状態に関する質問に回答する。
日赤の献血Web会員サービス「ラブラッド」(アプリも可)から事前の予約・回答も可能。
②問診・事前検査
医師の問診や看護師が、ヘモグロビン濃度が採血基準を満たしているか測定、血液型の事前検査などを行う。
③献血(本番)
採血時間は、「全血」で10~15分程度、「成分」は採血量に応じて40~90分程度。
ベッドの専用モニターでテレビ等を見ながら過ごせる。
④休憩
体調不良を防ぐため、ルーム内で「少なくとも10分以上」休憩する。
無料のドリンクやお菓子を楽しみながら水分補給ができる。
16歳高校生「血液型を知りたくて…」
東京スカイツリータウン・ソラマチ10階にある「献血ルームfeel」を訪れると、「これが献血ルーム!?」と疑うほど洗練されたモダンな空間と圧倒的な開放感に驚く。
大きな窓から光が優しく差し込む、まるで「天空のカフェ」のようなスペースで、人生初の献血を終えた高校2年生に声をかけた。
16歳という若さで、自分の意志で献血に来るなんて本当に素晴らしいことだと素直に感銘を受けつつ、その動機を尋ねると、高校生らしい率直な答えが返ってきた。
「実はちょっと恥ずかしいんですけど、自分の正確な血液型がずっと分からなくて、それを調べてみたくて来たのが一番のきっかけです」
学校の授業以外で、彼女が「献血」を最初に知ったのは、若者の間で大ヒットしたアニメ・映画『はたらく細胞』だったという。
作品を通じて「自分の血がどうやって患者さんに届くか」をなんとなくイメージできていたAさんは、たまたま街頭で見かけた献血バスをきっかけに、スマートフォンで近くの献血ルームを検索したそうだ。
「もし自分がすごく珍しくて特殊な血液型だったら、人の役に立ちそうだなと思って。精密な検査って、普段の生活だとなかなかできないし、こういう場所じゃないと分からないと思ったので」
多くの人が恐怖心を抱く“針の痛み”については、「病院の健康診断の方が痛かったです。ここの看護師さんはすごく優しくて、一発でパッとやってくれたので。チクッとするだけで、思ったより全然痛くなかったです」 と話した。

検査の結果、日本の人口で最も多い「A型」だと判明し、「ありふれた血液型だから、あんまり役に立てないのかな…」と申し訳なさそうだった。
しかし、人口の約4割がA型ということは、統計上、血液を必要とする患者の数、求められる血液量も多いはずだ。
彼女が勇気を出して提供してくれた血液は、間違いなく誰かの命を救う貴重な一歩に繋がっている。
「自分の血が役に立つなら嬉しい。体に無理のない範囲で、またぜひ来たいと思います」
若者は「友達同士」や「デート」で
高校生のAさんのように「自分の身体について知りたい」「アニメで見たから」と、自発的かつポジティブな動機で訪れる若者たちは、かなり多いようだ。
日赤の西山玄太さんによると、データには表れにくいものの、渋谷や新宿、秋葉原といった若い世代が集まるエリアの献血ルームでは、友達同士や恋人同士でカジュアルに来場する若い世代の姿をよく目にするという。
その背景にあるのが、若者の動線やニーズを徹底的にリサーチし、ルームごとに異なる個性を持たせた、日赤の「空間ブランディング」だ。
例えば、サブカルチャーの聖地である秋葉原の献血ルームは、壁一面の本棚に大量の最新マンガが置かれており、ドナーはこれらを自由に楽しむことができる。
一方、巨大なオフィス街を抱える新宿駅近くのルームは、シックなインテリアで統一され、コンセントや無料Wi-Fiを完備。洗練されたコワーキングスペースさながらの環境が整えられている。
こうした休憩スペースの居心地の良さが理由か、中には1時間以上滞在して、パソコンを広げて学校のレポート課題や仕事をしたり、お気に入りの漫画を全巻読破するまで滞在したりする人もいると聞いて驚いた。
進化した献血ルームは、ささやかな社会貢献を果たす場所であると同時に、放課後や仕事の合間に日常の喧騒を離れてふらっと立ち寄る、居心地の良い場所としての役割を果たしていた。
献血ルームfeelを初めて訪れた高校生は「友達に、お菓子や美味しいドリンクが無料でもらえるカフェみたいな場所だよ、って教えてあげたい」と満足げに話した。
こうした若者たちの等身大の声から、お散歩やカフェ巡りのように親しまれるアクティビティとして、新しい献血の輪が少しずつ広がっていくのかもしれない。

