7月は「愛の血液助け合い運動」月間で、厚生労働省や都道府県、日本赤十字社(以下、日赤)などが協力し、全国各地で啓発活動が行われた。
日赤によると、献血者数は41万人を超え、2025年の月間と比べて2000人余り増えたという。
日本赤十字看護大学で学んだ筆者(フジテレビアナウンサー・高崎春)は、献血という命を救う身近なボランティアの現場がどうなっているのか、都内の献血ルームを取材した。

東京スカイツリータウン・ソラマチ10階にある「献血ルームfeel」は、ジャズやクラシックの音楽が流れ、洗練されたモダンなインテリアが、上質な空間を作り出していた。
『3面ガラス張り』驚きの内装
献血ルームfeelの水谷知宏所長に話を伺うと、「何よりの強みは、全国的にも非常に珍しい『3面ガラス張り』という圧倒的な開放感です」と返ってきた。
その言葉通り、献血ベッドが並ぶ採血室から休憩スペースまで、どこにいても遮るものはなく、周囲に広がる大都会の街並みを眺めることができる。
また、水谷所長は「内装は『空に浮かぶ雲』をイメージとして白を基調としています。非日常の空間でリラックスして献血していただける環境を目指しました」 と空間づくりのこだわりを教えてくれた。
訪れる季節や天気、時間によって全く違う景色が見られるのも、ここならではの楽しみだろう。
さらに、ネットの口コミでも特に評価が高いのが、充実したドリンクとお菓子のサービスだ。
新宿や渋谷など都内には12の献血ルームがあるが――。
「全国で初めて『喫茶店営業許可』を取得しました」と水谷所長。
「一般的な献血ルームは、無料のカップ自動販売機が置いてあるのが主流ですが、当ルームでは、職員が1杯ずつドリンクを手作りして、お菓子とセットでドナーの皆様のお席まで提供しています」
このような日赤の手作りのブランディングについて、水谷所長のもとには、「思っていたよりきれいで驚いた」「もっと病院のような感じの場所だと思っていたがイメージが変わった」という声が届いているという。
くつろげる空間 看護学・医学的な理由
日赤がここまで徹底して「快適なリラックス空間」や「手作りのホスピタリティ」にこだわる理由は、より多くの方に献血へ参加していただくことや、トレンドの追求だけではないという。
採血時の代表的な副作用に「血管迷走神経反射」と呼ばれる気分不良がある。これは献血前の水分補給不足等、さまざまな要因があるが、不安や緊張といったストレスが大きな引き金になることで知られている。
「無機質な空間や医療機器を目にすると体は無意識に緊張し、その状態で採血すると『血管迷走神経反射』のリスクが高まります。医学的視点からも、リラックスできる環境づくりは安全面で非常に重要です」
採血を担当する看護師たちも、単に技術的に針を刺すだけでなく、ドナーの表情や声のトーンから緊張度を察知し、常に細やかな声かけを行っている。
初めて献血に来た高校生が「思ったより全然痛くなかった」と語った背景には、看護師の卓越した採血技術はもちろんのこと、空間そのものがドナーの心に寄り添い、恐怖心を取り除く医療的側面があった。
未来へ繋ぐ教育アプローチ
空間の快適さに加え、日赤では若年層に向けた工夫も凝らしている。近年はガジェットなどの限定記念品企画や人気コンテンツとのタイアップがSNSで話題だ。
広報担当の西山さんは「献血のきっかけは、記念品やコラボグッズでも構いません。まずは足を運んでいただき、安心・安全な献血やスタッフのおもてなしを体験していただくことが大切です。記念品は、その最初の一歩を後押しする『入り口』であり、感謝の気持ちを込めたものと考えています」と語る。
また必要な血液量を確保し続けるために、日赤が全国で長年、地道に、そして組織的に続けているのが、「10年越しの教育戦略」だ。
日赤では、若いうちから献血に触れる機会を作るため、小・中・高・大学等に出向いたり、血液センターを開放したりして「献血セミナー」を実施している。
特に、小学4年生向けにはマンガ冊子「みんなで学ぼう 血液のこと」を配るなど、血液の働きや身体のしくみ、献血や輸血についてマンガで楽しく学んでもらえるよう、早い時期からの教育に力を入れている。
日赤の西山さんは、ある企業献血の現場で熱心に献血に協力する社会人から、その教育の成果を感じる話を聞いたという。
「小学生のときに授業でもらった冊子で献血を知り、大人になって会社に献血バスが来たときに『あのとき習った命を救う行動を今やろう』と、初めて協力してくださったそうです」
西山さんにとって、「小さい頃に学校で習ったことを覚えていた」というエピソードから、実際に大人になって行動を起こしたドナーの存在は、日赤が長年続けてきた教育活動の何よりの手ごたえになっていた。
取材を通して実感した、これからの献血
「血液型を知りたい」「休日の立ち寄りスポットとして訪れる」といった等身大のきっかけを受け止める魅力的な空間づくりと、子どものころの学びが数年の時を経て実際への協力へと繋がる確かなプロセス。
今回、若者の献血離れという課題に向き合いながらも、時代に合わせて進化する現場や、若い世代の等身大の言葉に触れ、未来への希望を強く実感する取材となりました。
ただ、少子高齢化の進行により、若者の献血者数は他の年代に比べて依然として少ないのが現状です。
そうした中で、「献血に足を運んでいただくきっかけは人それぞれです。まずは献血に関心を持ち、ご来場いただけることを大変ありがたく感じています」という言葉に救われ、ほっとした気持ちになりました。
大げさに考えず、まずは友人を誘って行ってみる――そんな小さな一歩から関われることこそ、献血が誰もが気軽に協力し合える優しいシステムである証拠なのだと感じます。
この記事が、献血をより身近に感じていただく一つのきっかけになれば幸いです。
医療の現場と社会をつなぐ一助となれるよう、今後もこうした等身大の声を丁寧にお届けしていきます。

