2026年3月25日、宮城海上保安部の巡視船「ざおう」から、大量の重油が海へ流出した。
宮城県の塩釜港で起きたこの事故は、春の最盛期を迎えようとしていた地元の水産業界に深刻な打撃を与える「人災」となった。
ワカメやノリなどの被害額は、少なくとも6億円ほどに上るとみられている。
海を守るはずの宮城海上保安部が引き起こしたこの事態は、なぜ防ぐことができなかったのか。

当初発表の15倍に膨れ上がった流出量

重油が流出した 巡視船ざおう
重油が流出した 巡視船ざおう
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事故の引き金となったのは、船内における燃料移送作業だった。午前5時50分ごろ、発電機を動かす目的でタンク間の重油移送を開始したところ、自動で停止するはずのポンプが稼働し続けた。その結果、タンクから溢れ出した重油が、甲板から海面へと流れ出したのだ。

当初、海上保安部は流出量を「1000リットル以上」と説明していた。しかし、その後の詳細な調査により、実際の流出量は当初発表の15倍にあたる最大1万5000リットルに上ることが判明した。

海面に油膜が浮かび、ワカメに被害が及んでいることがわかる
海面に油膜が浮かび、ワカメに被害が及んでいることがわかる

この重油流出により、塩釜港を中心とする約2.7キロの範囲に油膜が漂流。塩釜市では養殖ワカメやメカブなど1700トン以上、七ヶ浜町ではノリ2200万枚が廃棄を余儀なくされるという、地元漁業にとって壊滅的な被害をもたらした。
丹精込めて育てた海産物を廃棄せざるを得なくなった漁師たちからは落胆と怒りの声が相次ぎ、影響は水産加工業者にも広く波及している。

被害総額は約6億円に上るとみられており、第二管区海上保安本部は、被害を受けた各漁協に対し、確定した損害分の賠償金として6月19日、約5億円を支払うことを発表。今後確定する漁獲物などの逸失利益も、確定次第支払う姿勢だ。

乗員が寝過ごして被害拡大か 明らかになった流出の経緯

発生から約3カ月、第二管区海上保安本部は初めて会見を開き、謝罪した
発生から約3カ月、第二管区海上保安本部は初めて会見を開き、謝罪した

事故から約3カ月が経過した6月19日、第二管区海上保安本部は初めて会見を開き、事故の原因と詳細な経緯を公表した。

重油が海へと漏れ出たプロセスは以下の通りだ。

まず、発電機を動かすために燃料タンクAから汲み上げポンプを使用し、燃料タンクBへ重油の移送を開始した。
しかし、燃料タンクBが満杯になっても移送は止まらず、重油が漏れ出して燃料タンクCへと流入した。
さらに燃料タンクCも満杯になって重油が漏れ、甲板へと溢れ出し、最終的に海上へと流出したという。

巡視船ざおうで行われた調査の様子
巡視船ざおうで行われた調査の様子

なぜこのような事態が起きたのか。会見で明かされた原因は、複数の人為的・機械的なミスが重なったというものだった。

・タンクAからの重油汲み上げが停止しなかった
機械を操作する機関士が、本来であれば設定液面で自動停止する「自動」ボタンを押すべきところを、手動で「停止」ボタンを押さない限り稼働し続ける「運転」ボタンを誤って押してしまった人為的ミスが発端となった。

・タンクBから重油が漏れた際に鳴るべき警報が作動しなかった
乗員によって警報が無効化されていたためであったが、無効化された時期や理由は不明だという。

・タンクCからの漏洩時にも警報が鳴らなかった
こちらは機械的な不具合が原因であり、いつから不具合が生じていたかは分かっていない。

・乗員が寝過ごしたことによる定期巡回の不備
巡視船には常時乗員が待機しており、船の異常を確認する定期巡回を行う義務があるが、なんと乗員が寝過ごしたため、複数回にわたって巡回が行われていなかったという。

創設以来の大事故 信頼回復に向けた再発防止策

第二管区海上保安部 井上昭典総務部長
第二管区海上保安部 井上昭典総務部長

会見で第二管区海上保安部の井上昭典総務部長は、「海上保安庁創設以来の大事故」と断じ、このような事態を繰り返してはならないと強調した。

再発防止に向けて、汲み上げポンプの誤操作を防ぐため、操作手順書を新たに作成するほか、重油の移送が止まらない原因となった「運転」ボタンにはカバーを設置して物理的に押せなくする改修を行うという。
警報が鳴らなかった問題については、警報装置の無効化を原則禁止としたうえで、械的欠陥については、改修業者と契約を結び次第、不具合を解消する予定であるであるとした。
そして、最も深刻な問題とも言える定期巡回の不備に対しては、巡回の点検箇所や方法を明記したチェックリストを作成し、船内規則を改正した上で、厳格な実施に向けた教育を行うとしている。

廃棄される海産物
廃棄される海産物

海の安全を守るべき組織が引き起こした手痛い代償。失われた地元漁業者の信頼を取り戻すためには、これらの対策が単なる机上の空論で終わることなく、現場で確実に実行され続けることが強く求められる。

仙台放送
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