裁判のやり直し「再審制度」の見直しについて、国会で議論が始まっている。検察の抗告制限や証拠開示などで懸念される点について、制度改正のきっかけとなったえん罪被害者、袴田巌さんの姉・ひで子さんに話を聞いた。
■再審制度見直しで“3つの懸念” 袴田ひで子さん「足りないこと多い」
判決が確定した裁判をやり直す=“再審の見直し”についての審議が国会で始まった。
高市総理(5月26日):
「再審無罪判決の確定までに長期間を要し、当事者に大きな負担を生じる事態となった事件があることを真摯に受け止め、反省のもとに改善を行っていく必要がある」
きっかけは、袴田巌(はかまだ・いわお)さんがえん罪被害者となった、静岡で一家4人が死亡した強盗殺人事件だ。逮捕から無罪確定まで58年、袴田さんの心身はむしばまれた。

袴田巌さんの3歳年上の姉・ひで子さん(93)は、弟の無実を信じ支えてきた。袴田さんは現在、元気ではあるが、足が弱くなって立ち上がれないという。ひで子さんは「釈放までの47年7カ月のハンデだと思う」と話す。
“再審の見直し”を各地で訴えてきたひで子さんは、今回の見直し案をどう見ているのか。
袴田さんの姉・ひで子さん:
「足りないこと多いね。私たちにすればね。即時抗告は全面禁止、証拠は全部だす、ということを望んでる」

戦後初めて見直しが進む再審制度。その焦点は大きく3つだ。
<3つの懸念>
1、検察の抗告は“原則”禁止に
2、証拠開示はどこまで?
3、証拠の目的外使用に罰則規定
■懸念1『検察の抗告は“原則”禁止に』
自民党本部で行われた法務省との会議で、議員たちが訴えたのは、検察官による『抗告の禁止』だった。
井出庸生衆院議員(今年4月):
「自民党は法務省のためにあるんじゃないんだぞ!国民のためにあるんだぞ!忘れんなよ」
稲田朋美衆院議員(今年4月):
「不誠実なの!」

現在の制度では、地裁が再審の開始を決めても、検察が「抗告」すれば、高等裁判所へ。さらに高裁が「支持」しても、再び検察が「抗告」でき、最高裁が「支持」してようやく再審が始まる。
この「抗告」が再審が長引く原因の一つとされ、袴田事件では、地裁の再審開始決定から再審が始まるまで9年もかかった。

自民党との攻防を経て、見直し案では、検察の抗告は原則禁止に。ただし、「十分な理由がある場合は抗告が可能」という例外規定も盛り込まれている。
Q再審見直し案で抗告が禁止ということになりました
袴田さんの姉・ひで子さん:
「あれはある程度はよくなりました。最初どうなるかと思ったけど」

Q“原則”禁止で、“全面”禁止ではない
「やっぱり役所というのは抜け道を作りたがるのよ。たまたま巌は奇跡みたいなもの。奇跡が起きたようなもので、あれが(最高裁へ)抗告されていたら、死ぬのを待っていたと思う」
■懸念2『証拠開示はどこまで?』
「証拠の開示」は初めてルール化される一方、“公開の範囲が狭まる”懸念もある。証拠開示の重要性を示したのが、袴田事件だ。
袴田さんが犯行時に着ていたとされた、血が付いた「ステテコ」。事件から1年後に味噌樽から見つかったとされ、この写真を見た支援者たちが気づいたのは、“血痕の色の不自然さ”だった。
1年以上みそに漬かれば、血痕は黒く変色するはず。支援者たちは実験を重ね、それを証明したことで、袴田さんの再審無罪へとつながった。

Q証拠開示で(検察は)なかなか出さなかった
袴田さんの姉・ひで子さん:
「隠している気はないかもしらんが、隠しているようなもん」
袴田さんが再審を求め始めてから約30年後に、検察は証拠の開示に応じた。なぜ、こんなにも時間がかかったのか。
日本の刑事裁判では、検察は「被告の有罪を証明するために、必要な証拠だけを出せばいい」とされてきた。いわば、手札の中から“有罪を示すカード”だけを出す形だ。
一方で、“被告に有利なカード”は、検察官の手に残されたまま。被告にとって、“有利な証拠は隠されている”と指摘されてきた。

さらに、今の再審制度では証拠の開示のルールがなく、検察官に証拠の開示を求めるかは、裁判官個人の判断に委ねられる。袴田事件でも、証拠開示までに長い時間がかかった。そこで今回の見直し案では、裁判所が検察官に証拠の提出を命令する仕組みが、初めてルール化される。
平口法務大臣(5月26日):
「裁判所は一定の要件のもと、検察官に対し、再審の請求理由に関連すると認められる証拠の提出を命じなければならない」

しかし、懸念の声が相次いでいる。問題視されたのは、命令の対象が「再審に関する証拠」に限られていることだ。
中道改革連合 西村智奈美副代表:
「証拠開示の範囲が狭まるのではないか。証拠開示の範囲のあり方について、いま一度見直す必要があるのではないか」
これまでの再審制度では、明確なルールがなかったゆえに、裁判官の判断で幅広い証拠の開示を求めることができた。しかし今回の見直し案では、対象は「再審と関連性のある証拠」に限られる。結果的に、開示される範囲が狭まる可能性もあると指摘されている。
三重県の名張毒ぶどう酒事件で、現在も再審請求に取り組む中山裕徳弁護士に話を聞いた。

名張毒ぶどう酒事件 弁護団 中山裕徳弁護士:
「法改正によって関連性のある証拠だけでも出してもらえるのは前進。(再審の)関連性で絞られてしまうと、本来こちらが見るべき証拠が見られないまま終わるという懸念がある。証拠は検察官など捜査機関が集めたもの。それは国民の財産ですよね。それを捜査機関が隠す、出さないのはおかしな話」
袴田ひで子さんも、証拠の全面開示を訴える。
袴田さんの姉・ひで子さん:
「良い証拠も悪い証拠も全部出してやるのが裁判じゃないかと思うけど。検察抗告(は全面禁止)、証拠開示は全面開示してもらって、それを(法案で)通してもらえれば、大体の冤罪被害者は救われると」
■懸念3『証拠の目的外使用禁止』
5月27日の衆議院法務委員会で自民党の稲田元政調会長が追及したのは、“開示された証拠がどこまで使えるのか”だ。
自民党 稲田朋美元政調会長:
「証拠というのは国民のためのものだと思います。無罪を立証するために訴訟準備として使う。それを公表することができるんですよね?」
今回の見直し案で、開示された証拠は再審の手続きや準備以外で使うことは禁じられ、違反した場合は、罰則規定が設けられた。(1年以下の拘禁刑か、50万円以下の罰金)

袴田事件のように開示された証拠を支援者が検証し、無罪への手掛かりにすることはできるのか。法務省側は、開示された証拠に基づく支援者などの実験は、「目的外使用には当たらない」と答弁。
袴田ひで子さんは、この審議を傍聴していた。

袴田さんの姉・ひで子さん:
「冤罪被害者が大勢いるので、その人たちを助けるような法律にぜひ改正してもらいたい。このままではなく、もっと進んだ法改正を進めてほしい」
本当の意味で“えん罪被害者の早期救済”につながるのか、再審制度の見直しに注目が集まっている。
