「旅と人」が展開する「「tabibitoキッチン」は、エゾシカやヒグマといった北海道産ジビエの魅力を発信するダイニングバーです。代表取締役の川合将太さんは、飲食事業に加え、食品加工や自社での鹿肉処理場運営を通じて、ジビエの価値を最大化する取り組みを加速させています。川合さんに、ジビエの可能性と北海道の食文化を未来へ繋ぐ経営戦略について聞きました。

挫折から始まった「旅人」としての原点

――音楽の道を目指していたそうですね。
 「中学生の頃から本格的に音楽に打ち込み、高校卒業後は仲間と上京して10年近く活動していました。ただ、東京という厳しい環境の中で自分の限界を感じ、バンドも解散することになったのです。その後、自分を見つめ直すためにバイクで日本一周の旅に出ました。その旅先で出会った福島県会津若松のライダーハウスで、ラーメン屋さんが無料で振る舞ってくれた一杯のラーメンが、今の私の原点になっています」

――そのラーメンとの出会いが、後の事業にどう繋がったのですか。
 「そのラーメンのスープは馬の骨で取ったもので、驚くほど美味しかったのです。地域には、そこに住む人たちが当たり前すぎて気づいていない魅力的な食文化がたくさんあると気づかされました。札幌に戻り、2013年に『tabibitoキッチン』を創業した当初は、全国のご当地グルメを出す構想もありましたが、最終的には『北海道のものを大切にしたい』という想いにたどり着きました」


コロナ禍を機に加速したジビエの加工

――2013年の創業当時、北海道ではエゾシカの被害が大きな問題となっていましたね。
 「ニュースで農作物被害の現状を知り、活用できないかと考えました。実際に仕入れて焼いて食べてみると、驚くほど美味しかったのです。難しい調理も臭みもなく、これならメニューになると確信し、2014年頃から本格的にジビエ料理の提供を始めました。鹿やヒグマのベーコン、ソーセージなど、北海道のジビエを楽しめる店としてシフトしていきました。当時はまだジビエを扱う店も少なく、北海道の資源を活かすという点でも大きな意義があると感じていました」

――2019年までは順調でしたが、翌年のコロナ禍ではどのような対策を講じたのですか。
 「観光客が激減する中、ジビエという武器を活かして冷凍食品や加工品の商品化に注力しました。ヒグマジャーキーやエゾシカ餃子などを開発し、物産展などで販売することで難局を乗り越えました。あの状況がなければ、これほど早く物販事業に力を入れることはなかったと思います。コロナ禍は、事業の幅を広げる大きな転機となりました。工場を立ち上げ、加工品を作るという選択肢は、あの苦境があったからこそ生まれたものです」


狩猟から処理まで、ジビエの真価を追求する

――コロナ禍には狩猟免許も取得したそうですね。
 「ジビエ料理店を営む中で、ハンターさんや処理場の方々と接するうちに、もっと深く知りたいという欲求が強くなりました。実際に狩猟や解体を行うと、部位ごとの特性や個体差、地域による違いなど、多くの発見がありました。ハンターさんによっても『どれがどう美味いか』というこだわりが異なり、それぞれにオリジナルの知見がある。まだまだ探求の余地がある仕事だと感じ、昨年からは自社で処理場『奥洞爺ジビエ研究所』を開業しました」

――現在、特に力を入れている取り組みは何ですか。
 「鹿肉の活用率を上げることです。現状、骨などは捨てられてしまうことが多いのですが、非常に勿体ない。そこで、かつて福島で食べたラーメンの記憶をヒントに、鹿の骨でスープを取ることに挑戦しました。これが驚くほど美味しく、しっかりとした動物性のコクがありながら、食べた後に胃もたれしないのです。ジビエはフランス語ですが、ヨーロッパには野生鳥獣肉を食べる文化が根付いています。エゾシカラーメンは、海外の方からも非常に好評で、北海道でしか食べられない特別なメニューとして、新たな価値を生み出せると確信しています」


「ビビリ」を原動力に変える挑戦の哲学

――BOSSとして、大切にしていることは何ですか。
 「『ビビリながらチャレンジする』ことです。私は非常に怖がりですが、現状維持の方がもっと怖いと感じています。だからこそ、リスクを予想しつつも、後悔しないために一歩を踏み出す。鹿の骨でラーメンを作るという挑戦も、美味しくて捨てられている資源を循環させたいという想いから生まれました。怖いからこそ、常に新しいことに挑み続ける原動力になっています」

――今後の展望について教えてください。
 「エゾシカを、豚・鶏・牛に続く『第4の肉』として定着させたいと考えています。低カロリーで高タンパク、そして何より美味しい。これを活用できれば、観光資源としても大きな経済効果が期待できます。食べ物を食べに行くことは、旅行の最大の目的になります。札幌のジビエといえば『tabibitoキッチン』、そして『鹿骨ラーメン』といえばここ、と言われるような存在を目指します」

北海道の活性化を目指すボス達と北海道の未来と経営を楽しく真剣に語り合うUHB「#BOSSTALK」(ボストーク)。廣岡俊光キャスターがBOSSの本音に迫ります。

北海道文化放送
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