「そう遠くない未来」だと語る是枝裕和監督。映画『箱の中の羊』は、幼い子どもを亡くした夫婦が息子の姿をしたヒューマノイド(人型ロボット)を迎えたことで、物語が動き出す。広島出身の俳優・綾瀬はるかさんと、お笑いコンビ「千鳥」の大悟さんがW主演を務め、夫婦を演じた。
「死者を蘇らせる」記事がきっかけ
『そして父になる』『万引き家族』などで知られる是枝裕和監督の最新作『箱の中の羊』。
広島でも重要なシーンの撮影が行われた作品で、テクノロジーの進歩によって生まれる“少し先の未来”の新しい家族のかたちを描いている。
今回、テレビ新広島の衣笠梨代アナウンサーが是枝監督に直撃インタビュー。作品に込めた思いや、綾瀬はるかさん、大悟さんのキャスティング秘話、さらに広島ロケの舞台裏について聞いた。
ーーこの物語の着想はどこから得たのでしょうか?
2年ほど前に「生成AIによって死者を蘇らせるビジネスが中国で人気」という記事を読んだんです。あっ、そういう時代に入ったなと思って。生成AIの進歩のスピードを考えた時に、そう遠くない未来に“ただいま”って肉体を伴って帰ってくるところまで行くのかなという想像が働いたんですよね。
実際に中国へ行った時に、その記事の元になった会社の社長さんにも会えました。簡単な音声データと画像データで画面上に故人が現れて、普通に会話ができるんです。しかも、過去の会話を再生するだけじゃなくて、新しく会話を積み重ねていける。それを見せられた時に、これは需要が広がるだろうと思いました。
ただ、危険だなとも感じて。その両面があるので掘ってみようかなと思いました。
綾瀬はるか・大悟が異色の夫婦役
ーー主演に、広島出身の綾瀬はるかさんを起用した理由は?
『海街diary』という映画で初めてご一緒して、終わった後に「また何か一緒にやりましょうね」って、会うたびに話していたんです。
もう10年経っちゃいましたけど、満を持してというか。母親役を書いてみようと思って、彼女にあてて脚本を書きました。初稿の段階から、母親とぶつかった時や、夫と喧嘩になった時には方言が出る設定にしていました。綾瀬さんは、現場では常に大らかで。こんなに一緒にいて心地いい役者さんもいないな、というぐらいでした。
ーー夫役に、大悟さんを選んだ理由は?
僕が大悟さんの名前を出しました。テレビのバラエティを見ていて、とても人間味がある、“昭和な感じ”がすごく好きだったんです。今、こういう顔をした人は役者にあんまりいないよなと思ったのが最初でした。
芸人さんの中には、役者としてすごくセンスのいい方が時々いるんですけど、多分そのタイプだと思ったので。綾瀬さんと並んだ時に、一見バランスが悪いけども、きっと夫婦に見えるなと思ってオファーしました。
ーー現場でも、だんだん“夫婦”として出来上がっていく空気感が?
そうですね。最初の本読みの時は僕も含めてみんな硬かったんですけど、最後は、待ち時間も3人は家族にしか見えませんでしたから。
広島ロケで起きた“キノコ騒動”
親子3人が森の中で木を見上げる場面。映画のポスターにも使われている印象的なシーンは、広島県内で撮影された。ロケ地は、庄原市にある「熊野の大トチ」だ。
ーー重要なシーンが広島で撮影されていたんですね。なぜ、この場所を選んだのでしょうか?
物語の最後に“森”を出したいなと思っていたんです。単純に緑が美しいというだけじゃなくて、いろんな象徴としての森を出したかった。その中心に大きな木が欲しいなと思ったんですよね。それで、白神山地とか屋久島とか、富士山の樹海も含めて調査した中でここが見つかりました。
ーー撮影では、思わぬハプニングもあったとか…
1日撮影して、中1日空いて、もう一度行ったんですけど。その間に雨が降ったらしくて。二度目に行った時、それまで全くなかった“キノコ”が生えていて、木がキノコに覆われていたんですよ。1日目の撮影とつながらなくなるから、「どうしましょう?」って言われて。
でも、そのキノコがすごく良くて。木と菌類が共存している感じと、ある種の不気味さもあった。そのキノコをいかして、もう1回全部撮ろうって。
ーー撮り直しになっても、その方が良いと?
そうですね。キノコを撮れたので、逆算して戻って、キノコにまつわるセリフを加えて書き直しました。
こうして、キノコの思わぬ出現も是枝作品の世界観をつくる一部として取り込まれていった。
タイトルの「の」に隠された意味は?
衣笠アナが気になっていたのは、映画タイトルのデザインだ。
ーー『箱の中の羊』の2つ目の“の”だけ、フォントが違いますよね。これには、どういった思いが込められているのですか?
これは…タイトルデザイナーが考えてくれたので、聞いてみないと分からないですね。
ーーでも、これをご覧になった時には?
いいなと思いました。
ーーどういうイメージで「いい」と感じたんですか?
どういうイメージで……難しいな(笑)
衣笠アナは、ポスターに書かれた「息子 7歳、ヒューマノイド。」の無機質な書体にも着目した。
ーー私の勝手な想像ですが、2つ目の“の”が「ヒューマノイド」の書体と似ているので“人間ではない存在”を表現しているのかと…
あっ、そうかもしれませんね。
是枝監督も思わず笑ってしまう、深読みトーク。インタビューは和やかな空気で締めくくられた。
映画『箱の中の羊』は、5月29日から全国で公開されている。雨上がりの森が生んだ“偶然”が、作品の中でどのように描かれているのか。その点も見どころの一つだ。
(テレビ新広島)
