増え続けるわいせつ教師による児童生徒への性暴力。日本には児童虐待を防ぐための法制度はあるものの、学校での性暴力は“治外法権”になっているのが現実だ。「ポストコロナの学びのニューノーマル」第18回は、千葉県で発生した事件から見える教育現場と法整備のあり方について取材した。

「教育委員会は話し合いの場で薄笑いを浮かべた」

2019年1月、当時小学生だった女児被害者の両親は、通っていた学校の教師から性被害をうけたとして、千葉県と自治体の教育委員会、教師を相手取って民事訴訟を起こした。(関連記事:小6女児の手記が語る教師によるわいせつ被害の”後遺症”

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フジテレビ『Live News イット』の取材に答えた両親は、当時の学校の対応についてこう明かした

「何回も(学校に)行きました、2人で。(対応は)全然です。(教師に)聞き取りはしたらしいですけど、本人は認めていないと。くすぐりは認めるけどという話だった」

筆者が取材した事件の担当弁護士によると、女児は「教師が学校の体育館のトイレの個室に女児と2人になる状況を作り、胸を直接さわられた」と被害を訴えている。しかし学校は「教師本人は認めていない」という。

「それどころか転校しろって言われましたからね。転校するって手もありますよって。なんでやった本人が居座って、我々の子どもが行かなきゃいけないんだと」(両親)

また、両親によると、自治体の教育委員会の担当者は、両親との話し合いの場でこう述べたという。

「『警察に被害届けも出しているんだからこれ以上何をやるの?』と。しかもやっている最中に薄笑いを浮かべたり信じられないですよ。普通だったら教育委員会とか先生とか子どもの立場でいろいろ考えてくれるんだと思っていた。でもそうじゃなかったのでもう幻滅ですよね」

なぜ学校は子どもでなく教師に向いているのか

教師によるわいせつ被害を取材する中で筆者が感じてきたのは、「なぜ学校や教育委員会は、子どもではなく教師に向いているのか」だ。

この疑問に対して、「子どもを守る法整備という面で、日本は欧米に比べてあまりにも脆弱です」と語るのは、教育財政学を専門とする日本大学の末冨芳教授だ。末冨氏は内閣府の「子供の貧困対策に関する有識者会議」で委員も務めている。

末冨教授は「子供の貧困対策に関する有識者会議」の委員も務めている

末冨氏はイギリスの例を挙げてこう述べた。

「イギリスは日本以上に児童虐待が深刻な国ですが、30年以上前に『子ども法(=チルドレン・アクト)』を制定しています。これは親だけでなく、子どもに関わるあらゆる職業の大人が対象となるもので、ベビーシッターや教職員の性暴力も含まれます。

こうした法が整備されているので、イギリスでは子どもへの性犯罪歴はデータ化されていますし、学校は児童の虐待通告を自治体にしなければいけない義務があります」

イギリスは学校の隠蔽を許さない仕組みを

しかし学校は教師による性犯罪を隠蔽するおそれがある。これについてイギリスではどんな対策が講じられているのか?末冨氏はこう語る。

「イギリスの学校では、子どもの安全を守る“安全主任”を置くことが仕組みとしてあります。ですから校内で子どもへの性犯罪などがあれば、この主任が自治体の児童保護部門に直接通報します。安全主任は学校で任命された教員やカウンセラー・ソーシャルワーカー、あるいは副校長や学校理事などの場合もあります」

イギリスではさらに政府機関が、各学校に目を光らせているという。

「学校内のトラブルを含め、自治体と警察通報が前提です。またその通報に対し学校が対応したかどうかを監視・評価する政府機関があります。イギリスでは学校が民営化されているので、この政府機関の評価が学校経営に大きな影響力を持っているのです」(末冨氏)

子どもを守る制度実現を阻む日本の法律の壁

ではこうした制度を日本に導入するとしたら、どうすればいいのか?

「日本だと教員が安全主任を務めても隠蔽するおそれがあります。そこで学校に駐在するスクールカウンセラーやソーシャルワーカーが主任となり、学校を飛び越えて福祉の方に直接通報させるような責務を課す必要があります」(末冨氏)

末冨氏は、「その場合対応窓口と想定しうるのは要保護児童対策地域協議会(以下、要対協)だ」という。要対協は自治体、医療機関、警察、児童相談所、弁護士、民生委員などで構成され、児童虐待に対するワンストップ機能を持っている機関だ。

ただし、こうした制度の実現を阻むのが法律の壁だ。

まず児童虐待防止法では、家庭での児童虐待について厳しく定められているものの、学校の教師による児童虐待は前提とされていない。

また、学校教育法では体罰の禁止は定められているものの、性暴力など虐待については触れられていない。つまりどちらの法も「教師による子どもへの虐待はありえないこと」が前提となっているのだ。

学校教育法で体罰だけでなく虐待も禁止に

末冨氏はこう語る。

「児童虐待防止法では、虐待を『身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること』『わいせつな行為をすること、させること』として、保護者の行為に限定しています。これを学校教育法で教師の児童生徒への虐待にも適用し、『体罰を加えることはできない』としている11条に、体罰のほかに『児童虐待防止法で定める虐待に類する行為』も禁止するよう加えるべきです」

また学校で子どもが安全な環境で教育を受けられるよう定められている学校保健安全法では、安全は災害や事故を想定しており、児童虐待まで含まれていない。これについても末冨氏はこう強調する。

「まず安全の定義を広げていくことが大事です。もともとこの法律は、『学校保健法』だったのが東日本大震災の2年前に『学校保健安全法』になり、特に大川小学校の反省を踏まえ学校の危機管理の見直しにつながりました。ただその際の安全の定義とは自然災害から子どもを守るというもので、教師による性暴力は含まれていません。いま学校・地域によっては安全主任を置いていますが、あくまで防災の担当なのです」

学校で子どもを守るための法改正の実現を

日本は、児童の権利条約の批准国である。なのになぜ、日本は学校での性暴力から子どもを守る法整備がされていないのか。

末冨氏は「子どもを大事にしてないからに尽きます」と言う。

「私は児童の権利条約の日本での実現の本丸は、教育基本法と学校教育法改正にあると思っています。教育と学校が変わらなければ、子どもを守ることはできません。この2つの法律に児童の権利条約について追記するだけなら政党対立(政治的イッシュー)にもならず、多分国会も満場一致で賛成だと思います」

子どもを大切にしない国家に未来はない。日本の子どもを守るため、いまこそ政治の出番では無いか。わいせつ教師を二度と教壇に立たせない教員免許法改正を行うべきことは当然であり、さらに子どもを確実に守れるようにするためにもこのような議論が必要なのだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款』