セブン-イレブンは、2026年3月末時点で国内に21,939店舗を展開し、来店されるお客様は1日あたり約2,000万人いらっしゃいます。日本中のお客様の食を支えるために、原材料の選定、出荷、物流と、全工程で安全性を担保することで、日々お客様の食の安全を守るための取り組みを行っています。
お客様は、週に2、3度と高頻度でご利用いただく傾向があります。そうしたお客様に豊かな食生活を送っていただくため、作り立ての料理を提供するオリジナルフレッシュフードを展開し、家庭の料理に近いメニューを豊富にご用意しています。
また、その家庭の味を長く安心してお届けするために、商品の鮮度を保つ「長鮮度化」に取り組んできた歴史があります。今回は、その長年の挑戦と最新の取り組みについて、セブン-イレブン・ジャパン QC・物流・生産管理本部 QC部 斉藤総括マネジャーと、本取り組みを共に行った、わらべや日洋食品株式会社の取締役 寺田様、九州産業大学生命科学部の中山教授にお話を伺いました。
![]()
左から寺田様、中山教授、斉藤
15年以上にわたる「長鮮度化」への挑戦の歴史
――セブン-イレブンでは、家庭の味を追求しながら、商品を長持ちさせる長鮮度化にも取り組んできました。おいしさと長鮮度の両立を本格的に始めたきっかけは何だったのでしょうか。
斉藤:社会全体で食品ロス問題がクローズアップされ始めたことをきっかけに、「この課題に対して、セブン‐イレブンとして何ができるのか」を真剣に検討しました。
当時、常温弁当は比較的廃棄が多かったのですが、保存性を高めることで廃棄ロスを削減できるのではないか。
その考えから生まれたのが、チルド弁当への転換という発想です。
こうした取り組みは2009年より本格的にスタートし、その挑戦を共に推進してくれたのが、わらべや日洋さんでした。
寺田様:そうでしたね。そもそも20度で流通できる常温弁当は、実は日本だけのもので、他の国では弁当も総菜も10度以下のチルド商品しかないんです。20度でも安心して食べられる商品を届けられる技術を持っているのは日本の強みなんですよ。
では、なぜ日本では常温弁当を流通させる技術があるのかというと、白米のおいしさを知っている国だからなのです。お米は冷えると硬くなるため常温が好まれていました。だからこそ、チルド弁当の開発では「冷えた状態でも炊き上がりのようなおいしいご飯を維持する」ことが求められました。開発で一番時間を要したのがこの部分でしたね。
斉藤:この取り組みを起点に、他にも冷水で冷やしていたパスタ麺を冷風で冷やすことで食感を良くしつつ鮮度を延ばしたり、調理パンのカットの工程を工夫することで乾燥を防いだりするなど、商品カテゴリー別においしさと長鮮度化の取り組みを行ってきました。
![]()
セブン-イレブンが冷蔵で販売している「チルド弁当」 ※イメージ
――2009年から2026年と、時代の移り変わりにより中食ニーズの変化も見られるのではないでしょうか。
斉藤:その通りで、以前までは「今すぐ食べたい」ニーズが高く、買ってから消費されるまでのスパンが短かったところ、最近では「明日のために買っておきたい」など、買い置きのニーズも増えてきていると感じています。
そのため、1日でも2日でも鮮度を延ばすことは、お客様のニーズにお応えするための取り組みでもあるのです。また、廃棄ロスへの意識もより一層高まっています。食品ロスが許されない時代になってきているため、技術的な部分でロスを減らす取り組みに力を入れるのは、企業として果たすべき責任でもあるのです。
![]()
セブン-イレブン・ジャパン QC・物流・生産管理本部 QC部 斉藤総括マネジャー
――食品添加物を活用することでも消費期限は延ばせるのではないでしょうか。
斉藤:確かにそうとも言えるのですが、「オリジナルフレッシュフード」は安全を担保しながらも、「家庭の味」を守るという「安全でおいしい」がポイントです。食品添加物の中には、安全性が確認されていて使用に何ら問題のないものであっても、味に多少の影響を及ぼしてしまうものがあるため、いくら使用して良いものであっても、安易に「使えば良い」という話にはならないのです。そもそも、家庭料理に食品添加物はあまり使われませんよね。
中山教授:おっしゃる通り、日持ち向上剤や保存料によっては、菌に作用する部分が苦みに感じられるんですね。そこが、料理によっては実際の味わいに影響を及ぼしてしまうのです。
寺田様:正直、食品添加物を使うほうが厳しく品質管理をするより効率的な面もあるかもしれません。ただ、特に和食のような旨味を味わうメニューは、添加物の味の影響を受けやすいんです。家庭の味を追求することを思うと、食品添加物に過度に頼ることはできないですね。
――では、どのように「安全でおいしい」かつ長鮮度を実現させてきたのでしょうか。
斉藤:技術や製造工場の設備開発です。例えば、セブン-イレブンのおにぎりの鮮度は過去と比較して延ばしていますが、その長さを実現できているのは、洗浄殺菌しやすい生産ラインを整えているからなんです。
寺田様:斉藤さんのおっしゃる通りで、新しい技術を取り入れる、製造設備や部品を適切に新しいものに切り替えるといった工夫が保存性の向上に寄与している部分は大きいと思います。一方、食品添加物も「絶対に使わない」というわけではありません。安全性とおいしさの両立ができる有用なものを選んで使っています。
斉藤:全メニューに共通して使わない食品添加物もあり、内容は公開もしていますが、「このメニューには、味に影響が出るから使えない」と商品単位で判断もしているんです。食品添加物には多様な組み合わせがあるので、試食を経て商品ごとに検討しています。
中山教授:必要な食品添加物だけを使うというセブン-イレブンさんの取り組みは、家庭の味を追求するうえで非常に理にかなっていると思います。
――長鮮度化が実現することで、おいしさや安全性の向上以外に良いことはあるのでしょうか。
斉藤:まず、おにぎり・お弁当については配送回数の削減やリードタイム延長によって物流の課題解決にもつながります。例えば、今年の2月から北海道エリアにおける製造回数を、1日3回から2回に削減できるようになりました。
あとはゴミの削減ですね。包装形態を、ベーコンやハムのようなトレーパックに密着したフィルムを用いたガス置換包装に変更した商品もあります。これにより、保存性の向上に加え、プラスチック使用量の軽減にもつなげられました。
寺田様:昨今は原材料費、光熱費、物流費、人件費と何もかもが値上がっています。長鮮度化によるコスト効率の向上は、商品価格の値上げを少しでも食い止めることにもつながります。
※北海道エリアの製造回数削減の取り組みに関するプレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000685.000155396.html
九州産業大学と挑んだ社会実装
――長鮮度化の新たな取り組みとして、「MALDI-TOF MS(マルディ-―トフマス)」という最新技術の活用に挑戦しました。まず、この技術について教えてください。
中山教授:簡単にご説明すると、「微生物、菌の『名前』を迅速かつ安価に把握できる技術」です。これまでの食品検査での微生物検査は、菌数という量の判断しかできていませんでした。具体的に工場内のどこに、どの菌がいるのかまでは調べられていなかったため、質の評価はできなかったのです。
――菌の名前がわかり質の評価が可能となることで、食品検査にどのようなメリットがあるのでしょうか。
中山教授:どの菌がいるのかわかるようになれば、効果的な対策を具体的に練ることができるようになります。菌数という量だけを調べる従来の検査の場合、多いところを重点的に管理する考え方になりますが、その結果、製品の鮮度を延ばすことができるのかというと、100%そうとは言い切れません。
なぜなら、数が多い菌が製品内で増え、鮮度に影響を及ぼすとは限らないからです。鮮度を延長するには、製品内で増える菌をピンポイントで抑えなければなりません。その菌が製品の鮮度に影響を及ぼすかどうかは、菌の多さとは関係がないのです。
菌の量を調べて衛生管理をしてきた従来の方法には、製品の鮮度に影響しない菌に注力して対応していた可能性があるということになります。入念な対策を施しているとはいえ、完全な無菌状態ではない工場内において、「どこにどのような菌がいるのか」がわかることは、鮮度の延長に大きなインパクトを与えられるのです。
![]()
九州産業大学生命科学部 中山教授
――特定の菌に狙いを定めた対策ができるようになれば、鮮度延長の可能性が見えてくるということなのですね。MALDI-TOF MSを製造工場の管理体制に組み込んだ今回の取り組みは、どのような経緯で始まったのでしょうか。
中山教授:この技術は食品産業で生かせる技術だと考えたため、有用性をトライアルで挑戦してみたいと思いました。できれば社会に大きなインパクトをもたらせる企業と組んで挑みたいと思っていたところ、共通の知人から斉藤さんをご紹介いただけたのです。
実際に活用できる技術であるという自信はあったものの、日本を代表する大企業と本当に社会実装に向けた挑戦ができるのかという点には不安がありました。研究で成果が出ている段階から社会実装までに大きなハードルがあることは重々わかっていましたから。
そうした不安があった中、斉藤さんがわらべや日洋さんを含む製造会社2社をご紹介くださったのです。セブン-イレブンさんも本気で社会実装に挑戦しようと思ってくれていると感じ、感激しました。
斉藤:私はMALDI-TOF MSの話を聞いたとき、「新しい技術を導入するにはハードルもあるな」と思いました。実は、菌の同定自体は不可能ではないんですよ。ただ、これまでの技術は運用面での負担が大きく、製造工程の中で追加的に菌の同定まで行うのは現実的ではなかったんです。先生が「安価に迅速に」とご説明してくださったように、MALDI-TOF MSであれば工場での導入可能性があると思い、2社にお話を持っていきました。
寺田様:話を聞いて「すごいな」と思いましたね。斉藤さんがおっしゃったように、私も「これならできなくはない」と思いました。
![]()
わらべや日洋食品株式会社 取締役 寺田様
工場の衛生管理を高度化し「かつ丼」の鮮度延長を実現
――今回は「かつ丼」の鮮度延長をMALDI-TOF MSにより実現させました。なぜ、かつ丼を選ばれたのか、どのように鮮度延長を実現させたのか、お教えください。
寺田様:かつ丼はリニューアルの少ない定番商品であるため、鮮度延長によるインパクトが大きいと考えました。中山教授に教えていただきながら、工場内のどこに何の菌がいるのか、綿棒によるふき取り調査を5,000件ほど進めました。その結果を踏まえ、管理を強化、環境を整備したところ、鮮度延長の実現に至ったというのが本取り組みの大まかな流れです。
――MALDI-TOF MSによる結果を、どのようにご覧になりましたか。
寺田様:こちらの予想していないところに、鮮度に影響を及ぼす菌がいることがわかりました。食材が触れるところは重視して管理してきましたが、そうではないところから出てきたのが意外でしたね。また、かつ丼はリニューアルが少ないと申し上げましたが、実はこの取り組み中、ネギが加わるというリニューアルがあって、その影響の大きさにも驚きました。
中山教授:野菜ひとつだけでも、大きく変わるものなんですよ。洗浄前の生野菜は、1グラムに10の5乗の菌がいると言われているほどですから。それにしても、本当にネギ1種類だけで大きな影響がありましたね。
寺田様:ただ、すでに工場内の検査を一通り終えていたため、かつ丼全体の調査には1年ほどかかったところ、ネギ追加後の調査は3カ月ほどで済みました。調査を重ねるごとに手間が減るため、他の商品にも展開しやすいだろうと感じましたね。
斉藤:きちんと答えを出し、商品への実装ノウハウが蓄積できたことが素晴らしいと思いました。
中山教授:おっしゃる通り、今回の取り組みでノウハウの蓄積ができ、「このあたりが危ないのでは」という勘どころをつかめたのではないかと思います。次からはもっとスピードが上がるでしょう。
――MALDI-TOF MSの微生物同定コンソーシアム活動は、2024年度内閣府主催「第7回オープンイノベーション大賞」において農林水産大臣賞を受賞しました。今後の産学連携の取り組みに、どのような影響を与えたと思われますか。
斉藤:産学連携は、立場の違う人たちそれぞれの努力に横串を刺し、社会課題の解決を目指す視点を得られるものだと思っています。今後、もっと強めていきたいです。
中山教授:先ほども申し上げたように、本当にセブン-イレブンさんのような大きな企業さんと社会実装まで進めていくことができるのだろうかと思っていましたが、こうして形にできてうれしいです。菌をひとつずつ調べるという地道な活動ですが、積み重ねることで社会に還元できる成果につなげられることがわかりました。コツコツやることの重要性を皆さんと共有できたこともうれしかったですし、取り組みに携わってくれた学生たちも喜んでくれました。これからも皆さんと一緒にコツコツ取り組めるのではないかと思い、楽しみにしています。
寺田様:お二人からも社会実装のハードルについてのお話がありましたが、研究に近い取り組みが成果物に結び付くまでにはやはり失敗も多いため、今回こうして上手くいったことは大きな自信につながりました。どんどん横展開することで当社の衛生管理のレベルを上げ、生産効率を上げられるでしょう。当社にとっても大きな取り組みとなりました。
![]()
「チルド弁当 味しみロースかつ丼」 ※イメージ
サプライチェーン全体の見直しが「これからも、安心しておいしいものを買える」未来を守る
――寺田様から「横展開していきたい」というお話がありましたが、MALDI-TOF MSの技術を、セブン-イレブンとして今後どのように広げていきたいですか。
斉藤:サプライチェーンの仕組みそのものをより良くしていくため、店舗での働き方、物流問題、製造工場の人手不足など、さまざまな課題にアプローチしていきたいと考えています。MALDI-TOF MSはその原資となる技術になると思っています。
MALDI-TOF MSの技術を使うことで、一律の枠組みでやっていた管理方法を見直すことができるようになりました。商品によってはポテンシャルをさらに引き出すことができ、消費期限3日で販売しているものを5日に延ばせるようになるかもしれません。少しの工夫が積み重なることで原資を作り、それをサプライチェーン全体に還元していきたいですね。
――これからも「お店で安心しておいしいものを買える」未来を守り続けるため、どのようなイノベーションに挑戦していきたいですか。
寺田様:これまでの品質保証には、個人の経験や判断に頼っていた部分がありました。MALDI-TOF MSのような技術を使うことで、システム化していく取り組みを進められたらと思っています。ただ、一方で人の判断力が重要であることに変わりはありません。万一のときには出荷停止の判断をするなど、食品の安全性を最優先に考えられる文化を今後も築き続けていくことも、我々が取り組むべき課題だと思っています。
中山教授:MALDI-TOF MSの技術を広く活用してもらうことで、食品産業の課題解決につなげていきたいです。さらなる研究としては、MALDI-TOF MSで菌の種類だけではなく、個体差も識別できることを目指しています。これが叶えば、さらにピンポイントな対処が可能になるでしょう。
斉藤:セブン-イレブンでは、これまで社内にとどまった取り組みが多かったのですが、ここ数年で大学や有識者、先生方との接点を持つようになりました。こうした方々との共創による成果も一部出てきています。より多くの方に仲間になっていただくことが、セブン-イレブンが今後やるべきことだと思っています。これからもお客様の食生活を支えるインフラとして、業界をリードする取り組みに果敢に挑んでいきたいです。
![]()
行動者ストーリー詳細へ
PR TIMES STORYトップへ