歴史ある武家屋敷から発信“アートで地方を再生”
愛媛県大洲市に今も残る武家屋敷。
ここに、あるフランス人アーティストが約1カ月半滞在し、アート活動を行った。
仕掛け人は、かつてこの屋敷に住んでいた大名の末裔でもある現代アーティストで文化プロデューサーの團上 祐志さん(30)だ。
「新しい砥部焼のような発明が生まれることを理想としている」
伝統と現代アートを融合させ地方に新たな価値を生み出す挑戦が、いま大洲で静かに始まっている。
「笑っちゃうような話ですけど、DNAが」
團上祐志さん:
「お宝ですか。一番わかりやすいのは『裃』ですね。当時の大洲藩の加藤家の『裃』」
江戸時代に今の大洲市、旧新谷藩の七代藩主が隠居生活を送るため建てた武家屋敷、それがこの「旧加藤邸」。
團上祐志さん(30)は、その加藤家の末裔だ。
團上祐志さん:
「こちらの掛け軸が、300年から350年くらい前かなと思います。(作者は)加藤文麗。大洲藩の加藤家って代々『文人大名』で、いわゆる殿様だけじゃなくて、絵描きもプロ級だったりするんですね。笑っちゃうような話ですけど、DNAが」

團上祐志さんは国際的に活躍する現代アーティスト
芸術とともに生きた加藤家のDNAは色濃い。
愛媛出身の團上さんは、武蔵野美術大学で油絵を学び、今や東京を拠点にパリやニューヨーク、ニュージーランドなど国際的に活躍する現代アーティスト。
2026年3月には自動車メーカー「マツダ」とコラボし、東京・青山のショールームで個展を開催した。
花から花へと移動し命を受け継ぐ『ミツバチ』をモチーフに、ハチが分泌する「ロウ」や、ハチの巣そのものを画材として使う古代の技法「蜜蝋画」によって、『生命の循環』を表現した。
團上さんは今、自身のルーツでもある「旧加藤邸」を歴史的な史料を展示し、中長期的に滞在もできる宿泊施設にして継承したい、と考えている。

武家屋敷に海外から芸術家を招く
今、力を注いでいるのが…
團上祐志さん:
「文化というものが、ただ守られるだけではなくて、新しい文化を作るというのが文化財の生きた活用の仕方だと思う。(当時)海外から儒学者や思想家を呼んで、どのような文化を醸成するのかというのもひとつの武家、侍の仕事でしたから、今、芸術家を招くって意外と相違ない」
武家屋敷に、芸術家を招く。
かつて、この場所で先祖が行ってきた“文化の醸成”を時を超え、再び始めたのだ。

フランス人アーティストが「旧加藤邸」で創作活動
フランス人アーティストのネッシムさん(34)。
キノコを使った作品を手掛けるなど、「自然との共生」をテーマに国際的に活動する作家で、2026年3月末から約1カ月半、「旧加藤邸」に滞在した。
ネッシムさん:
「大洲はまだ山々と深くつながっていると思う。でも神社や古代の森がここで切り倒されたことも知っている。森との新しいつながり方を提案する方法を見つけたい」
團上祐志さん:
「今地方に残っているのは自然と文化遺産だと思いますので、そこに反応できる最初のアダプターっていうのは、アーティストという存在かと僕は思っています。人口が減る中で、どれだけインターナショナルな人と手を組めるかが重要」

團上さんの挑戦「アーティスト・イン・レジデンス」
旧加藤邸を拠点にした團上さんの挑戦、それが「アーティスト・イン・レジデンス」。
アーティストが一定期間ひとつの土地にとどまり、作品のリサーチや製作、発表を行ったり、その活動をサポートしたりする取り組みだ。
團上さんは、大洲の「関係人口の増加」や「アートを通した新たな価値の創出」、将来的には「移住促進」につなげたいと考えている。

“滞在の集大成”大洲で制作したアートを発表
5月16日、ネッシムさんの滞在のラストを飾り、大洲で制作したアートの発表の場が設けられた。
滞在中にお世話になった人たちを招いた。
舞台は、日本神話の中で国を造り、大洲の肱川で終焉を迎えたとされる神「少彦名命」に由来する神社だ。
砥部焼のもととなる伊予砥石を使い、山や川など古くからある“愛媛の自然”を表現している。
鑑賞者はこの砥石を磨くことで、色の変化を味わうとともに、自然が知る神話の時代の物語に触れるというコンセプトだ。

「大洲を離れるのはさみしい。また戻ってくるよ」
参加者:
「都市部だったら、たくさん海外のアーティストが集われると思うが、一歩離れた松山からも離れた場所に、しかも少彦名神社っていうまわりの環境に根差した空気感のある場所でやられるっていうのは、逆に特別感がある」
参加者:
「参道を歩くだけでも気持ちが落ち着きますし、このようなアートの会場として使われて、この町の新たな面白さを感じた」
参加者:
「きのう偶然知り合って、帰ってからインスタグラムで調べて、『わ!凄い人だったんだ』と思って、初めてなので、こういうことが。新しい世界に一歩踏み込めました」
ネッシムさん:
「1カ月半の滞在はとても楽しかった。人々は親切で自然はとても美しく、少彦名神社でインスタレーション、パフォーマンスができてとても幸せ。大洲を離れるのはさみしい。また戻ってくるよ」

アートを通してまちの魅力を知った
ネッシムさんと出会った人たちが、大洲を訪れ、アートを通してまちの魅力を知った。それは、團上さんの挑戦にとって『確かな成功』だ。
團上祐志さん:
「様々な土地や素材、見過ごされているような失われた日本の素材と、結びつけられるインターナショナルなリーダーをこの土地に持ってくることによって、新しい資源、新しい砥部焼のような発明が生まれることを理想としています」
文化を興してきた武家の子孫としての使命感を胸に、伝統と現代アートを融合させることで新たな地方の魅力を生み出していく。

