「たくさんいい企業があるのに、知らないだけ」——そのギャップを埋めようと、鳥取・米子市に高校生や大学生と地元企業とをつなぐ交流施設「まちの進路相談室・B-lab(ビーラボ)」が2026年11月にオープンする。かつて呉服店として賑わった商店街の空き店舗を舞台に、若者のふるさと定着という地域の大きな課題に真正面から挑む取り組みが動き出した。
呉服店の空き店舗が若者の「進路相談室」へ
米子市役所からほど近い法勝寺町(ほっしょうじまち)商店街。かつて呉服店として地域の人々に親しまれていたその店舗は、いま空き家として静かに時を刻んでいる。その場所で先日、新施設の事業説明会が開催された。
施設を運営するのはBEANSラボ。遠藤みさと社長は「高校時代までに地域を知り、職業を知る。鳥取県での将来にワクワクできる環境を作りたい」と、構想への思いを力強く語った。
3階建ての施設には、フリースペース、貸し会議室、セミナールームなどが整備される。利用対象は地域の中学生・高校生にとどまらず、島根大学や鳥取大学に通う学生まで幅広く、誰もが自由に使える場として開放される計画だ。
施設の名称に「進路相談室」という言葉が込められているのは偶然ではない。学校の一室でひっそりと行われがちな「進路相談」を、もっとオープンに、もっと地域全体で支えようという意志が、そのネーミングに込められている。
「日替わりの企業説明会」という仕掛け
B-labの特徴的な取り組みのひとつが、「日替わりの企業説明会」だ。毎日2社ずつ、地元企業の若手社員が施設を訪れ、生徒や学生に仕事のやりがいや職場の実情を直接伝える。
企業説明会といえば、大学3年生や4年生が就職活動の時期にスーツを着てブースを回る、あの光景を思い浮かべる人が多いだろう。しかしB-labが目指すのは、そのずっと手前の段階——中学生や高校生のうちから、地元に「面白そうな仕事」「知らなかった企業」があることを知ってもらう機会だ。
若手社員が語り手となるのも重要なポイントだ。経営者や人事担当者ではなく、自分たちより少し年上の若手が「どうしてこの会社を選んだか」、「実際に働いてみてどうか」をリアルに話す場は、学生にとって距離感が近く、イメージが具体的になりやすい。日々変わる登場企業によって、施設に通うたびに新しい出会いが生まれる仕掛けになっている。
隣の空き店舗は宿泊施設に——帰省インターンの受け皿も
B-labが活用するのは、呉服店跡だけではない。隣接する空き店舗も宿泊施設として改装される計画だ。
この宿泊施設が主に想定しているのは、県外の大学に進学した学生が長期インターンシップなどで地元・鳥取に戻ってきた際の滞在先だ。実家に泊まれる学生ばかりではなく、帰省のたびに宿泊費の負担がかかることが、地元でのインターン参加をためらわせる一因になることもある。低コストで安心して泊まれる場所があれば、「せっかくだから地元の会社を見てみよう」という一歩が踏み出しやすくなる。
さらにこの宿泊施設は、インターン参加者同士が交流する場としても活用される予定だ。県外に散らばる鳥取出身の学生が、地元に戻ったタイミングで顔を合わせ、互いの経験を話し合う——そうした緩やかなネットワークが育まれることで、「鳥取に戻ってくる」という選択肢がより現実的に感じられるようになることを、運営側は期待している。
若者流出という、待ったなしの課題
この施設が生まれる背景には、鳥取県が直面している若者の県外流出という深刻な問題がある。
鳥取県出身で県外の大学に進学した学生のうち、県内に就職するのは約3割にとどまる。7割の若者が、そのまま都市部や他の地域で就職・定住していく計算だ。
遠藤社長はこの現状について、「県の中小企業を知るきっかけがないと思い、このギャップをなんとか、たくさんいい企業があるのに、やはり知らないだけというところを埋めたいと思っている」と語る。問題の根は「企業の質」ではなく「認知の欠如」にある、という認識だ。
鳥取県内にも、技術力や地域への貢献度が高い中小企業は少なくない。しかし就職活動が本格化する大学3〜4年生の時点では、すでに都市部の企業に目が向いていることが多い。ならば、もっと早い段階——高校生や中学生のうちから——地元企業と接点を持てる環境を整えることが、流出に歯止めをかける最も効果的な手段だ、というのがB-labの根本的な発想だ。
大学生という時期は、ふるさととのつながりが特に強い年代でもある。帰省するたびに地元の企業や街の変化を肌で感じ、「案外いいな」と思えるような経験の積み重ねが、最終的な進路選択に影響を与える。B-labはその「気づき」の機会を、施設という形で恒常的に提供しようとしている。
事業費は2億円 国・県・市の補助金を活用
事業費は2億円。国や鳥取県、米子市の補助金を組み合わせて賄う計画だ。商店街の空き店舗という場所を選んだことにも、地域活性化と若者支援を同時に実現しようという意図が見える。
かつて人々が行き交い、賑わいを見せていた法勝寺町商店街。その一角に若者が集まる拠点が生まれることは、施設単体の効果にとどまらず、商店街そのものの活気を取り戻すきっかけにもなりうる。
遠藤社長は施設のイメージをこう表現する。「地元の若者と地元の企業が気軽に交流できる場所になって、コミュニティーハウスみたいな感じでイメージしてもらえたらと思う。みんなで街を作り上げて、持続可能な街に賑わいのあふれる街にしていきたい」。
「コミュニティーハウス」という言葉が示すように、B-labが目指すのは単なる就職支援施設ではない。地域の若者が日常的に足を運び、企業の人と雑談し、同世代の仲間と語り合い、ふとした会話の中から「自分の将来」のヒントを見つけていけるような、緩やかで温かい場所だ。
2026年9月着工、11月オープンへ
「まちの進路相談室・B-lab」は2026年9月に着工し、同年11月のオープンを予定している。
米子市の商店街という地に根ざしながら、高校生から大学生まで幅広い世代が使えるフリースペース、毎日入れ替わる地元企業の若手社員による日替わり説明会、県外進学者向けの宿泊機能——これらが組み合わさることで、単発のイベントでは生まれにくい「継続的な関係性」が育まれていくことが期待される。
若者が地元を離れるのは、地元が嫌いだからではないことが多い。「知らなかった」「選択肢として思い浮かばなかった」という、ただそれだけの理由で故郷から遠ざかっていく現実がある。B-labはその「知らない」を「知っている」に変え、「選ばなかった」を「選んでみたい」に変えることを目指している。
(TSKさんいん中央テレビ)
