広島アンデルセンが、デンマークの人気バーガーショップ「ガソリングリル」の味を再現。
ただし、販売できるかどうかは、オーナーが日本に滞在する3日間にかかっていた。本場の味を追求するスタッフたちの奮闘を追った。

“ヨーロッパベストバーガー”を広島で

2026年1月、広島市中区の広島アンデルセンで、あるプロジェクトが動き始めた。

被爆建物を生かした「広島アンデルセン」
被爆建物を生かした「広島アンデルセン」
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毎年6月に開かれる年間最大のイベント「デンマークフェア」。その目玉企画として、デンマークの人気バーガーショップ「ガソリングリル」の味を再現するという。
企画チームの久保原由美さんはこう説明する。
「アンデルセンデンマーク店と連携して『ガソリングリル』を日本に招き、ポップアップショップを期間限定でオープンします」

デンマークの人気バーガーショップ「ガソリングリル」
デンマークの人気バーガーショップ「ガソリングリル」

「ガソリングリル」はデンマーク国内で10店舗を展開し、“ヨーロッパベストバーガー”の5位に選ばれる名店だ。アンデルセングループ海外事業部の岡本有史さんは、「ヨーロッパでも有名なバーガーチェーンの1つ」と話す。

世界最高峰のハンバーガーを広島で再現できるのか。その判断を下すのが、「ガソリングリル」の創業者クラウス・ウィットラップさんだ。
6月の本番前に広島を訪れ、3日間かけて最終チェックを行う。この期間中に品質を認めてもらえなければ、目玉企画そのものが実現しない。

広島アンデルセン ベーカー長・平岡憲治さん(左)
広島アンデルセン ベーカー長・平岡憲治さん(左)

全国にベーカリーショップを展開するアンデルセングループ。しかし、ベーカー長の平岡憲治さんはこう打ち明ける。
「ハンバーガーのノウハウが、実はない」
海外の食文化を伝えるため、越えなければならない壁が待ち構えていた。

来日してすぐ東広島の野菜農園を視察

3月、オーナーのクラウスさんが広島に到着した。空港から最初に向かった先は、東広島市の脇農園。ハンバーガーに使う野菜を育ててもらうためだ。

農業用ハウスの中で脇社長の説明を聞くクラウスさん
農業用ハウスの中で脇社長の説明を聞くクラウスさん

この農園では植物性発酵有機肥料を使用し、主にアスパラガスや白ネギを栽培している。脇伸哉社長の案内で、クラウスさんは農業用ハウスの中を見て回った。生産者の話を直接聞き、食材が育つ現場を自分の目で確かめる。それがクラウスさんのこだわりだった。

脇農園で栽培された落花生
脇農園で栽培された落花生

スタッフが注目していたのは、脇農園で2018年から栽培している「落花生」。1か月半かけて天日干しし、低温でじっくり焙煎した落花生は、ハンバーガーに新たな個性を与える可能性を秘めている。

脇社長の奥さんが農園の野菜でおもてなし
脇社長の奥さんが農園の野菜でおもてなし

昼食には、脇さんの妻が農園の野菜を使った手料理を振る舞った。白ネギの素焼きやピクルスなど、どれも素材の味を生かした料理だ。次から次へ出てくる料理にクラウスさんの箸が止まらない。
この日の交流を経て、脇農園がハンバーガー用の野菜づくりを引き受けることになった。

求められる味にどこまで近づけるか

その夜、広島アンデルセンのレストランで歓迎会が開かれ、プロジェクトメンバーや関係者が集まった。

歓迎会に出席するクラウスさん
歓迎会に出席するクラウスさん

クラウスさんは「嫌いなものはない。品質のいいものなら何でもおいしいから」と語る。
そのこだわりは、食材だけではない。厨房の設備も気になるようだ。
翌日から始まるハンバーガー作りは、このレストランで行われる。クラウスさんはキッチンに入り、ひと通り設備を見て回った。
「これだけの設備があれば十分いいバーガーが焼けると思います」
和やかな雰囲気の歓迎会にも、どこか本番前の緊張感が漂っていた。

ハンバーガーのバンズを担当するベーカー長の平岡さんは「パテの肉とバンズの一体感かな。一緒に食べてみて彼の意見をしっかり聞きたい。おいしいパテを作ってくれれば」と意気込みを語る。
しかし、パテを担当する料理長・中川幸二さんには不安があった。
「明日はとりあえずダメ出しされると思うので。3日間しかないですから」
気がかりなのは、肉とソースがクラウスさんの求める味にどこまで近づけるかだった。

「NO!」運命の3日間がスタート

フェアの成功をかけた運命の3日間が始まった。
プロジェクトのカギを握るのは、ハンバーガーの核となるパテだ。

牛肉の部位や配合を変えて何通りも用意
牛肉の部位や配合を変えて何通りも用意

迎えた初日、調理台に牛肉の複数の部位のミンチが並んでいる。
「混ぜた肉ですよね?」とクラウスさんが尋ねる。
「ひいた肉をくるっと混ぜた」
中川さんが答えたそのときだった。

「Don't touch!」とダメ出しするクラウスさん
「Don't touch!」とダメ出しするクラウスさん

「NO!」
「NO? 混ぜちゃダメなの?」
「Don't touch!」
中川さんが思わず「マジか…」と声をあげる。
肉は混ぜず、できるだけ触れずに成形する。それがガソリングリルのスタイルだった。

一方、平岡さんが担当するバンズは、クラウスさんから「見た感じはいい」と評価され順調。
課題はパテに絞られた。

和牛を使ったパテ作りに悪戦苦闘

中川さんが特に気にしていたのは、パテに含ませる脂の割合だった。
「脂の感じを見てもらいたい。これは脂を入れていません。和牛そのものに脂があるので」
比較のために2種類のパテを用意。1つは脂が25%、もう1つは脂を加えていないものだ。

和牛でガソリングリルのパテを再現
和牛でガソリングリルのパテを再現

日本とデンマークでは牛肉の肉質が大きく異なる。クラウスさんにとっても、和牛を使ってハンバーガーを作るのは初めて。自らパテを焼き、質感を確かめる。
2つのパテを食べ比べて、クラウスさんは言った。
「脂がある方がおいしい」
中川さんは脂の比率を変え、部位の組み合わせを試しながら、理想の味を探っていく。
クラウスさんが「もも肉ではなく、むね肉か肩肉の方がいい」と助言すると、中川さんも「もも肉はうま味はあるんですが、絡まない。ぱさっとしちゃう」と話す。2人の目指す方向性は一致している。

使う肉の部位にこだわるクラウスさん
使う肉の部位にこだわるクラウスさん

しかし、パテを完成できないまま初日を終えた。
「使う肉の部位を変えて、脂は25%くらいになるようにしたら、より肉のうまみが増すと思う」
クラウスさんからのアドバイスを受け、「やることがいっぱいになっちゃいました」と中川さん。仕事は夜遅くまで続いた。

2日目、迷走するパテにまさかの展開

そして2日目、パテ作りをめぐって思わぬ事態が待っていた。

パテ作りは牛肉をひくところからスタート
パテ作りは牛肉をひくところからスタート

初日の反省を踏まえ、中川さんは牛肉の部位を見直した。使う部位は、むね肉の「ブリスケ」、首の部分の「ネック」、あばら骨周辺の「ショートリブ」など。何通りもの配合を作り、さらに脂の量も変えながら試していく。
「昨日よりはいい。こっちを楽しみにしています」
次から次へと試食するクラウスさん。
「さっきの方がよかった。脂の多い方がいい」
何度も調整を重ねるが、なかなか目指す味にはたどり着けない。
「もう1回、脂少なめを試してみよう」
「脂ふつうをもう1回…」
出口が見えないまま、時間だけが過ぎていく。

原点に戻り、「ブリスケ」と「ネック」の配合を見直していた、そのときだった。
「ブリスケ」とクラウスさんが言った。
「ブリスケがいい?ネックは使わない?」
「ガソリングリルでは使ってない」
「え、ウソ!?」

まさかの展開に動揺する中川さん
まさかの展開に動揺する中川さん

これまで試行錯誤してきた「ネック」が、実は本場では使わない部位だったのだ。
使う肉の部位そのものが違っていたという、まさかの展開。思わぬ事実に中川さんは驚きを隠せない。
「デンマークのガソリングリルではネックって言ってたよね?」

それでも問題点が明らかになったことは一歩前進。
「ブリスケとショートリブ、OK」
ようやく方向性が見えてきた。しかし、まだ完成したわけではない。残された時間は、あと1日だけだった。

食文化の違いを超えたグータッチ

世界最高峰の味を再現するハンバーガー作りは、最終日の朝を迎えた。
牛肉をひき直し、脂のバランスを調整。厚みのあるパテを鉄板で焼いていく。これでOKが出なければ、その日の午後に予定されている新商品審査会に間に合わない。

ハンバーガー作り3日目のパテ
ハンバーガー作り3日目のパテ

焼き上がったパテをクラウスさんが口に運んだ。厨房に張り詰めた空気が流れる。
彼は何度もうなずき、親指を立てた。ついに、OKが出たのだ。
その場に自然と拍手が起こる。中川さんとクラウスさんは笑顔でグータッチを交わし、喜び合った。

グータッチを交わすクラウスさんと中川さん
グータッチを交わすクラウスさんと中川さん

「審査会まで、あと何時間何分?っていうような。クラウスさんに納得してもらえてよかった。それだけです」
そう言って、中川さんは安堵の表情を浮かべた。

Hiroshimaバーガーなど4種が完成!

その2時間半後に開かれた新商品審査会。完成したばかりのハンバーガーが並んだ。

最終日の午後、新商品審査会で披露されるハンバーガー
最終日の午後、新商品審査会で披露されるハンバーガー

その中から、アンデルセンの松本真一社長が手に取ったのは、ガソリングリルの味を再現した「バターバーガー」。
「おいしい!ピクルスとオニオンとお肉、これがバター?」
バターは広島の砂谷牧場で作られたもの。デンマークのバターとの違いを解決し、このプロジェクトに大きな役割を果たした。

広島の砂谷牧場のバターを使った「バターバーガー」
広島の砂谷牧場のバターを使った「バターバーガー」

会場には、脇農園やサゴタニ牧農など、今回のプロジェクトを支えた生産者たちの姿もあった。
サゴタニ牧農の久保宏輔副社長は満足そうにバターバーガーを頬張る。
「口の中で完成しますね。バターが最後に溶けていって」

アンデルセンオリジナルの「Hiroshimaバーガー」
アンデルセンオリジナルの「Hiroshimaバーガー」

そして、今回アンデルセンのオリジナルとして生まれたのが、広島の食材を詰め込んだ「Hiroshimaバーガー」だ。脇農園で生産された野菜が使われ、香ばしく焼いた白ネギと落花生のピーナッツペーストがアクセントになっている。
脇農園の脇大輔さんは、「あとからピーナッツペーストの味がする。おいしい」と笑顔を見せ、サゴタニ牧農の久保副社長も「食べ終わるころにピーナッツの香りがふわっとくる」とうなずいた。

新商品審査会は無事に終了。
ベーカー長の平岡さんは、「社長に僕らの思いが伝わったので、一発OKでした」とほっとした様子。
松本社長はこう話す。
「デンマークをお手本にしている企業として、地元のサゴタニさんや脇農園さんにも加わっていただき、みんなの思いが詰まったバーガーを紹介できる。6月にお客様に楽しんでいただけるよう準備していきたい」

今回のプロジェクトに関わったメンバー
今回のプロジェクトに関わったメンバー

世界最高峰のハンバーガーを広島で再現する。その挑戦は、多くの人の力によって形になった。
「バターバーガー」と「Hiroshimaバーガー」に加え、ガソリングリルを代表する「オリジナルバーガー」、レッドチェダーチーズを使った現地で人気の「チーズバーガー」の計4種類が、6月1日~30日まで広島アンデルセンのデンマークフェアに登場する。

かぶりついたその一口に、広島とデンマークをつなぐ新たな食文化がぎゅっと詰まっている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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