アメリカとイスラエルによるイランへの電撃的な攻撃から2ヶ月という時間が経過した今日においても、中東地域における緊張状態は依然として収束の兆しを見せていない。
むしろ、事態はより複雑な様相を呈している。
中途半端な中東情勢
イランの最高指導者であるアリ・ハメネイ氏の死亡という衝撃的な出来事や、世界の原油輸送の重要な大動脈であり国際物流の要衝でもあるホルムズ海峡の事実上の封鎖など、国際政治の専門家たちの間で長年にわたり最悪のシナリオとして懸念されてきた事態が、いまや次々と現実のものとなっている。
こうした未曾有の事態の連鎖は、世界のエネルギー安全保障を根底から揺るがし、グローバルな経済活動やサプライチェーンに甚大な影響を及ぼしつつある。
しかしながら、事態を引き起こした当事者の一つである米国のトランプ政権からは、この混乱を収束させるための明確な出口戦略が未だに提示されておらず、事態は出口のない膠着状態に陥っている。
武力行使によってイランの現体制に対して一定の物理的・心理的打撃を与えたことは事実かもしれないが、その後の地域安定化に向けた具体的な道筋が全く描かれていないため、結局のところ全てが中途半端な状態のまま推移しているとの厳しい指摘も国際社会から少なくない。
このような不安定な状況下において、国際社会における米国の立ち位置や存在感にも極めて大きな変容が生じている。
アメリカへの不信・不満
かつてパックス・アメリカーナを掲げ、圧倒的な国力を背景にグローバルなリーダーシップを発揮し、時には世界の警察官としての役割を担ってきた米国の姿は今日見えない。
トランプ政権が強力に推進する自国第一主義の理念に基づく外交政策は、同盟国や友好国との多国間協調や国際ルールの尊重よりも、自国の短期的かつ直接的な国益を最優先する傾向が極めて強い。その結果、諸外国の間では現在の米国に対する不信感や不満の声が急速に広がっている。
今日の世界情勢を俯瞰した際、かつての国際秩序の維持者であり安定の最大の担保であったはずの米国自身が、その予測不可能性と一国主義的な振る舞いによって、皮肉にも今日の世界で最大の地政学的リスクになっていると言っても過言ではなかろう。

もちろん、国際社会の反応は決して一様ではない。各国が抱える歴史的背景や国内事情、あるいは米国および台頭した中国といった大国との地理的・経済的な距離感によって、各国の対応や受け止め方はケースバイケースである。
しかし、全体的な潮流として見れば、米国の絶対的な求心力が著しく低下し、多極化・複雑化が進む現在の世界において、米国に対する不透明感、不信感などが広がっていることは間違いない。
日本はアメリカに依存せざるを得ない
激動し、予測困難な国際情勢の中で、日本外交は極めて難しい舵取りを迫られている。
日本政府は、今回のトランプ政権によるイランに対する電撃的な攻撃に対して、直接的な批判の言葉を事実上封印し、あくまで良好な日米関係の維持とさらなる強化に努めるという姿勢を鮮明にしている。
安全保障環境がかつてなく厳しさを増す東アジア情勢や周辺諸国の動向を鑑みれば、日本が唯一の同盟国である米国との強固な結びつきを第一に考え、その提供する抑止力に依存せざるを得ないのは、冷徹な地政学的な現実である。
日本への信頼が損なわれるリスク
しかしながら、この現実的な選択には、中長期的な視点に立った際に一つのリスクを内包している。
それは、トランプアメリカとの関係強化というものが、諸外国の目に一体どのように映るのかという客観的な視点である。
特に、グローバルサウスと呼ばれる新興国・途上国の間では、トランプアメリカに対して懐疑的な見方が強い。そうした国々から見れば、米国にひたすら追従しているかのような日本の姿勢に対して、違和感や不満を強めるケースが今後増えてくる可能性は十分に考えられる。
日本が戦後長年にわたって国際社会で地道に築き上げてきた平和国家や対話の仲介者としての独自の信頼が損なわれる懸念は決して拭いきれない。
日本と中東との信頼関係
したがって、日本は強固な日米同盟を今後も外交・安全保障の基軸として堅持し、米国との関係を第一にしていく必要があることは言うまでもないが、それと同時に、より重層的でしなやかな外交戦略を構築していく必要がある。
例えば、深刻な危機にある中東地域においては、日本が歴史的に中東に負の遺産を持たず長年培ってきた非軍事面での経済・技術的貢献や、独自の信頼関係を最大限に活かし、対話による緊張緩和に向けた日本ならではの外交努力を粘り強く継続することが求められる。
日本は多国間主義の擁護者たれ
また、欧州諸国やアジア太洋州の有志国、さらにはグローバルサウスの国々との間で、法の支配や自由で開かれた国際秩序の維持といった共通の普遍的価値観に基づく経済的・政治的連携を深めていくことも不可欠である。
米国が内向きな姿勢を強め、国際協調の枠組みから距離を置こうとする局面においてこそ、日本が多国間主義の擁護者として主体的に振る舞い、米国と国際社会との間をつなぐ重要な橋渡し役としての機能を果たすことが強く期待されている。
複雑に絡み合う各国の国益とパワーゲームの狭間で、日本独自の国益をしっかりと守り抜き、同時に国際社会全体の平和と安定に貢献するためには、日米同盟の不断の深化と、多様な諸外国との多角的なネットワーク構築という、一見すると難易度の高い二つの課題を同時に追求していくしたたかで戦略的な外交姿勢こそが、今の日本に切実に求められている。
【執筆:株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO 和田大樹】
