「ここで打ったのと、うちで打ったそばと全然味が違うんです」 そう語るのは、富山県上市町の馬場島荘でそばをふるまう池田則章さん(75)だ。剱岳が育む天然の湧き水と、長年の経験が生み出す手打ちそば。山岳ガイドとして剱岳を知る男が、山の恵みとともに届ける一皿は、ここでしか味わえない特別なものだ。

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冬の眠りから目覚めた山の宿

剱岳を間近に望む上市町伊折から、さらに奥へおよそ8キロ。剱岳早月尾根ルートの登山基地として知られる馬場島に、唯一の宿泊施設「馬場島荘」がある。冬季休業を終え、4月29日に今年の営業を開始したばかりだ。

訪れる登山者や自然愛好家を迎えるのは、この地に腰を据えて6年目の春を迎える池田則章さん。現役時代は山岳ガイドとして活躍し、幾度となく剱岳の急斜面を登った。そんな池田さんにとって、馬場島はかけがえのない場所だという。「この季節の移り変わりがまたいいんですよ。今はこの新緑でしょう。大好きなところです」と、目を細める。

剱岳の水が引き出す、そばの旨味

池田さんがここでふるまうのが、長年の趣味から磨き上げた「手打ちそば」だ。そば打ちの工程で池田さんが特に重視するのが、最初の「水回し」である。「難しいところはここかな。最初に隅々まで水を回してやらないとあとで切れてしまう」と語る通り、均一に水を含ませる技術がそばの食感を左右する。

そして、この馬場島ならではの最大の秘密が「水」だ。「ここの水はやっぱり剱岳からの湧き水と言えばいいか、軟水だと聞いとるんですけど、ここで打ったのと、うちで打ったそばと全然味が違うんです。そして、ここの水で茹でて冷やすとまた違いますし」と池田さんは言う。打ち立てのそばを地元の湧き水で茹で、同じ水で締める。剱岳が育む水が、そばの旨味を最大限に引き出すのだ。

山菜天ぷらとの出会いが、春を完成させる

馬場島荘の春メニューを語るうえで欠かせないのが、山菜の天ぷらだ。雪解けとともに顔を出すコゴミをはじめ、コシアブラなど旬の山菜をカラリと揚げると、ほろ苦さと春の香りが口いっぱいに広がる。

山菜を採るときにも、池田さんの山への敬意が光る。「これ全部取ったらね、来年から出てこんようなる。だから、半分か3分の1くらい残してある」 翌年もまた同じ場所で山菜が芽吹くよう、採りすぎず、自然の循環を守りながら食材を得る。

打ち立ての香り高いそばに、山の恵みたっぷりの天ぷらを添えて。池田さんも箸を進める。「塩で食べてください。うまいです。コシアブラ、春をいただきました」。その言葉には、山と季節と食への深い愛情が滲む。大好きな馬場島に腰を据えて6年目の春。池田さんはこれからも旬の味覚と共に馬場島の魅力を伝えていく。

山菜の天ぷらは6月上旬ころまで楽しめるという。手打ちそばの提供は、土日祝日のランチタイムで限定15食。予約をしてから出かけることを勧めたい。

(富山テレビ放送)

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