事件から3週間

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先月28日、神奈川県川崎市の登戸駅近くで、スクールバスを待っていた小学生らが襲われ、小学校6年生の女児と保護者の男性が亡くなった。事件の発生から、きょうで3週間が経つ。

社会の関心は「8050問題」へ

今も献花に来る人が絶えない
今も献花に来る人が絶えない

先週金曜日、事件の現場をあらためて訪れると、犯行のあった住宅街の一角にはいまでも多くの人々が献花に訪れている。筆者が訪ねた夕方も、下校途中の女子中学生や子ども連れの主婦、ジョギング途中の男性など、さまざまな人々が花を手向けていた。

路上には小学6年生の女児を悼んで、お菓子やジュースなども供えられていた。

犯人が死亡したため、凶行の理由は何だったのか、知ることは出来ない。

この数週間、メディアではこうした事件の再発防止のため、様々な問題提起が行われてきた。犯人が50代の引きこもり傾向だったことを受け、「引きこもり問題をどのように解決するのか」が議論され、特に元農水次官による引きこもりの息子殺害が伝わると、社会の関心はより「8050問題」にフォーカスしていった。

「子どもたちの安全を何としても守らねば」

一方、被害にあったのが登校中の小学生だったことから、安倍首相は「子どもたちの安全を何としても守らなければなりません」と述べ、登下校時の安全確保について早急に対策を講じるよう関係閣僚に指示した。

事件を受け、自治体では、登下校時の子どもたちの安全対策を見直す動きも出ている。

ただ、集団登下校や見守り、パトロールは、すでに行っている自治体が多い。さらなる対策として挙げられるのが警備の強化だが、通学路に警察官を配備する場合、必要とされる警察官の数を考えると現実的ではない。また、登下校の時間を狙った、別の犯罪が起こることも考えられる。

そもそもいま行われている見守りやパトロールが万全かと言うと、見守りの立場を悪用した大人による女児殺害事件も記憶に新しい。集団登下校は万が一の時、被害が拡大するおそれもある。子どもの登下校時の安全対策に万全なものなどなく、「これ以上何をやったらいいのか」と途方に暮れる地域や保護者も多いだろう。

アメリカのスクールバスのルールは?

ではさらなる対策の検討は無駄なのか?

ここで筆者がアメリカ駐在時に見た、登下校時の子どもを守る取り組みを紹介したい。

筆者が住んでいたニューヨーク州では、スクールバスが停車している間、周りの車両は停車しなければならない。スクールバスが赤いライトを点滅させていたり、「STOP」のサインを出して停止している際、対向車はスクールバスの横を通り過ぎることはできないし、後続車が追い抜くこともできない。スクールバスを乗り降りする子どもの安全を確保するため、ドライバーは最低約6メートル離れた場所で停車しなければ違法となる。

これによって登下校時は「スクールバス渋滞」がよく起きるが、誰も不平を言うことは無い。地域社会に「子どもファースト」の考えが浸透しているのだ。アメリカでは、州ごとに差はあるもののこうした規制やルールが全土で実施されている。

子どもを守る意思が抑止力に

こうした努力にもかかわらず、アメリカでは登下校中の子どもが犯罪に巻き込まれるケースが後を絶たない。路上で「Missing(行方不明)」と書かれた、子どもの顔写真入りのポスターを見ると、この国が子どもにとって決して安全ではないことが伺える。

登下校の子どもが誘拐されるのを防ぐため、スクールバスの無い地域では、親や保護責任者が子どもを学校まで送り迎えをする。こうやってアメリカでは、子どもを守るため不断の努力がなされている。

アメリカの対策がそのまま日本に適用できるわけではない。しかし地域社会が子どもを守る意思を持ち続けることが、犯罪への抑止力となり、子どもの安心安全につながるのだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

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鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。