実際には罪を犯していない人が、捜査機関による誤った捜査などによって犯罪者として扱われてしまう「えん罪」。

その被害者を救う唯一の方法が、確定した有罪判決に重大な誤りがある可能性がある場合に行われる「再審=裁判のやり直し」です。

再審について規定している「再審法」は、70年以上改正されておらず、課題が指摘されています。

下級の裁判所で再審開始が決まっても、検察側の不服申し立てによって審理が長期化することや、検察側が集めた証拠を開示する明確な規定がなく、裁判所の判断に委ねられているため、弁護側が全容の把握が難しいことなどです。

えん罪の被害者が近年、次々と明るみになる中、法務省の改正案は、検察側の不服申し立てを引き続き認め、証拠開示は「再審請求の理由に関連した証拠」のみとすることを盛り込んだもの。

与党内からも反発が相次ぎ、改正の実現が正念場を迎えています。

■「法務省のためにやってるんじゃない!」自民党議員から上がった反発の声

4月15日、自民党本部で開かれた会議で、法務省は今回の国会での改正を目指す再審法の改正案を示しました。

出席した議員からは、この改正案に反発する発言が相次ぎました。

【自民党・井出庸生衆院議員】「法務省のためにやってるんじゃないんだぞ!自民党はな、法務省のためにあるんじゃないんだぞ!国民のためにあるんだぞ!忘れるな」
【自民党・稲田朋美元防衛大臣】「不誠実なの!」

再審法をめぐっては、審理の長期化など法律の不備が指摘されていますが、法務省の改正案では改善されていないと、一部の議員が憤っているのです。

死刑囚だった袴田巖さんはおととし、逮捕から58年も経って無罪が確定。次々とえん罪被害が明るみに出る中で、「再審法」は70年以上改正されていません。

■「自白するつもりなかったが…」再審法に苦しめられた阪原弘さん

この法律に苦しめられている人たちがいます。

1984年、滋賀県・日野町で発生した強盗殺人事件で、事件発生から3年後に逮捕され、無期懲役の判決が言い渡された阪原弘さん。

【阪原弘さん(2000年・当時65歳・支援者撮影)】「自白も私はするつもりはなかったんですが、(警察に)ひどい暴行を受け…

『もうとても、これはもう私一人では済まさん。家族までも犯人扱いにされる』と思い…私が『はい、私がやりました』と言ったときには、3人の警察・刑事はにっこり笑い」

■「有罪の決め手」の一つに『証拠のねつ造』ともいえる事態

この事件では、盗まれた金庫の発見現場まで、弘さんが案内できたとすることが有罪の決め手の一つでした。

裁判所に提出された「金庫まで案内する様子」を示す証拠写真について、不信に感じた弁護士の要請を受けて裁判所が検察にネガフィルムの開示を要請。

すると、帰り道の写真が混ぜられていて、『証拠のねつ造』ともいえる事態が判明したのです。

【阪原弘さん(2000年・当時65歳・支援者撮影)】「一日も早く認めていただき、家族のところに帰ってきます。頑張っていきます。皆さんどうぞ、私を信じてください」

■大津地裁が2018年に再審決定も…「開始決定」は今年2月

弘さんは、無実を訴える中、服役中に病死しました。2012年に遺族は再審請求をして、2018年に大津地裁は再審を決定。

検察は不服の申し立てを繰り返し、ようやく最高裁が再審を決めたのは今年2月のことでした。

弘さんが亡くなって15年が経った先月18日、長男の弘次(65)さんと妻のつや子さん(88)が墓前を訪れました。

【阪原弘さんの長男・弘次さん】「父ちゃん、長い間かかってすまんな。38年もかかってしまった」

88歳になった妻のつや子さんに、息子の弘次さんが問いかけました。

【阪原弘さんの長男・弘次さん】「無罪が決定するまで頑張りたいか?」
【阪原弘さんの妻・つや子さん】「頑張りたい、頑張ろう」

■再審法の課題「検察の不服申し立てで長期化・証拠開示の規定なし」

阪原さんのように一度罪が確定してしまうと、再審の開始が最終的に決まるまで検察が高裁、最高裁へと不服申し立てを繰り返すことで長期化してしまいます。

また検察側が持つ証拠の開示を命じる規定がないことが問題視されています。

去年10月、高市総理は所信表明演説で、「確定した刑事裁判をやり直す再審制度の見直しについて検討を進めます」と述べ、改正に向けた覚悟を示していて、現在、国会に再審法の改正案が提出されるのか、正念場を迎えています。

しかし鈴木元法務大臣の諮問で、専門家らの会議を経て作られた法務省の改正案は、検察の不服申し立てを引き続き認め、証拠の開示は「再審請求の理由に関連した証拠」のみとして、今よりも証拠開示が認められなくなる恐れすらあります。

一方、法務省案では、えん罪被害者の救済につながらないとして、反発する自民党議員もいます。

【「法務省案に反対」稲田朋美元防衛大臣】「検察の信頼、刑事司法の信頼を回復するためにも、抗告(不服申し立て)は禁止すべきだし、証拠(開示が)今より狭められることはあってはならない」

(Q.今これが法務省と自民党との対立なのか、はたまた自民党内で割れているのか見えなくて、これはどっちなんですか?)
【「法務省案に反対」柴山昌彦元文科大臣】「むしろ法務省が、大変申し訳ないんですけれども、自らの失態について十分反省していない。ただ、法務省案を一部一割程度の人が『一歩前進じゃないか』という形で支持している」

■元検察官「検察官は一度裁判を経て有罪になったものは有罪という揺るぎない確信ある」

法務省が“検察寄り”と呼ばれる法案を作成するのには、理由があります。

およそ30年間、検察官だった壬生隆明弁護士は、その背景について次のように説明します。

【元検察官・壬生隆明弁護士】「検察官は(人事異動で)法務省と検察庁とを行ったり来たりしていくわけでしょう。法務省でずっと重い役割をいた人たちが、また検察庁に戻ると重要な地位を占める」

法務省の主要な幹部は検察官で、再審法の改正案は、検察官主導で作られているとされます。そこで出来上がる法案の思惑とは…

【元検察官・壬生隆明弁護士】「検察官の論理というのは、一度裁判を経て有罪になったものは有罪だという揺るぎない確信があるんだ。それが揺るがされてしまう、ぐらついてしまうということは何としても避けなければいけない」
(Q.それはなぜ?)
【元検察官・壬生隆明弁護士】「それは体制側(権力側)の官僚だからですよ。彼らが目指すのは法的な安定性だとか信頼、裁判の信頼だとか、それは国家の論理だよね」

■高校生「えん罪本当にあるんだって感じ」

今月18日、東京・渋谷でえん罪被害者と支援者たちが、クラウドファンディングでお金を集めて、イベントを開催しました。

【阪原弘さんの長男・弘次さん】「我々も父を救い出して、元の昔の幸せな生活を送りたい。父も家に帰ってお前らと一緒にお前らと一緒に幸せな生活をしたいと言って亡くなっていきました」

(Q.いろいろな人が犯してもない罪で刑務所に入ったり、知ってましたか?)
【イベントに参加した高校生】「知らなかった。えん罪本当にあるんだって感じ」

高校生のこうした声を阪原さんに伝えました。

【阪原弘さんの長男・弘次さん】「確かにそうやと思う。我々もこの事件にかかわるまでは、えん罪なんて起こるはずはないと思った。えん罪は、起こるというより、作られるって分かって来たときにそれを皆さんに知っていただきたい」

えん罪被害者を隠すかのうように、70年以上、整備されなかった法律。その重たい扉を開くときが来ています。

■元AERA編集長「えん罪被害者救済という原点に立ち返って」

再審法改正の問題点について元AERA編集長でジャーナリストの浜田敬子氏は「えん罪被害者を救済するという原点に立ち返った改正法にすべき」と訴えました。

【ジャーナリスト・浜田氏】「なぜ今、再審制度を見直しているのか、『冤罪被害者の方の救済のため』という原点に立ち返るべきだと思います。

再審開始が一度決定されても、検察が何度も何度も不服申し立てをするので、(死刑が確定しながら逮捕から58年後に無罪が確定した)袴田さんは、最初の再審決定から再審開始まで9年かかっています。

今の法務省案に反対してる人たちは、『検察も言い分があるのなら、再審の裁判の中で戦えばいい』と主張しています。

今政府の法務省案と自民党の一部の議員が対立しているかのように見えますが、反対する人たちはもっとたくさんいて、去年の法務省の議論の最中から、裁判官とか法学者の人たちも『このままだと“改悪”になります。より悪くなってしまう』ということは、声明も出しています。

原点に、何のための見直しなのかという議論に私は立ち返る必要があるとに思います」

■青山和弘氏 割れる議論に「『高市総理の責任だ』と言ってもいい」

これまで規定がなかった証拠の開示の部分に関して、法務省の改正案は「再審請求の理由に関連したものに限定する」と規定しています。

この規定があると、裁判官の裁量でこれまで開示できたものが限定されてしまうのではないかという恐れも指摘されています。

こうした中で、自民党の中でも激しい議論が起き、法案提出の見通しが不透明になっていることについて、政治ジャーナリストの青山和弘氏は「議論が歩み寄るためには、政治決断が必要であり、所信表明で掲げた高市総理の責任だと言っていい」と指摘しました。

【政治ジャーナリスト・青山氏】「検察官の論理と、冤罪の被害者の人を目の当たりにしている弁護士さんたちの論理は天と地ほど違います。

歩み寄るためには、最後は政治決断しかありません。誤りがあるから、実際に起きているから法律を改正しようとしているわけで、ここは政治決断が必要です。

高市総理は所信表明で『法案をこの国会で通す。それが高市政権の姿勢だ』と言っているので、最後は高市総理が出てこないといけません。

しかし取材していると、高市総理はこの問題に対しての関心が他の問題と比べて低いようです。ほかの安全保障など、いろいろ大事なことがあるにせよ、これに対してどういう姿勢を見せるか。私は『高市総理の責任だ』と言ってもいいと思います」

(関西テレビ「newsランナー」2026年4月21日放送)

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