中東情勢が緊迫する中、4月以降、大手メーカーからは、塩化ビニール樹脂を1キロ当たり30円以上、断熱材を40%、エラストマー製品やラテックス製品を1キロ当たり160円以上など、値上げの動きが相次いでいる。
その中でも、石油由来製品の原料となるナフサの供給不安が、東京の町工場をじわじわと追い詰めている。
東京都産業労働局の最新の「東京の中小企業の現状(製造業編)」によると、都内の製造業事業所数は約3万9000事業所にのぼり全国2位。東京のものづくりは、網の目のように張り巡らされた原材料や部品の調達網に支えられており、そのどこかで目詰まりが起きれば、広い現場に影響が出る構造だ。
速すぎる材料費値上げと先回り発注
その現場の一つが、東京・品川区に本社を置く株式会社ケンモチだ。
ケンモチは、アクリル等の曲げ、接着、溶接加工を得意とし、カバーやケースの製作に強みを持つ、プラスチックを中心とした総合加工会社だ。
中東情勢の影響をケンモチの剣持一豊社長に聞くと、「材料費はメーカーによっては4割値上げというところもあり、トータルでは2割くらい上がっていると思います」と話す。
ただ、その上昇分をすぐに価格へ転嫁できるかというと「今回の(材料費の)値上がりはスピードが速すぎて、正直まだ追い切れていない」。現場の感覚は切実だ。
そこに、取引先による“先回り発注”も増えているという。
剣持社長は「ここ1週間ほどで発注が一気に増えた。件数ベースでは3割くらい増えている感覚だ」との見方を示し、その背景を、「商品があるうちに頼んでおこう、買い置きしておこうという動きがあるのではないか。本当の実需というより、見込みで動いている面もあると思う」とみる。
不安が需要を押し上げているかたちだ。
次回注文のタイムリミットは6月
さらなる問題は、この先の生産計画だ。
ケンモチでは、秋以降に納める製品の材料を、通常であれば初夏までに発注しておく必要があるという。
「本来なら材料を6月に発注し、8月に受け取って、そこから加工に入る流れなので、6月までに、メーカーがある程度『受注を再開します』という状態になってくれればいいが…」と不安をにじませた。
一番辛いのはナフサの目詰まり
政府は国家備蓄石油の放出を始め、代替調達も進めている。だが、備蓄の放出で直ちにナフサ不足が解消するわけではない。
石油化学向け原料は、精製や流通の段階で時間差が生じるうえ、現場では依然として発注停止や在庫不透明感が続いている。
実際、国は、塗料メーカーや卸・小売事業者が、出荷を半減していたことから、目詰まりが起きていたと特定している。
剣持社長も「一番辛いのはナフサだ」と言い切る。そのうえで、「材料メーカー側も、ナフサからどの材料を優先して作るか、いま線引きをしている最中で、その整理がまだついていないようだ」と供給側の混乱を説明する。
材料の仕入先を分散させようとしても、大手3社のうち2社はすでに発注を受け付けないなど、いわゆる“お手上げ”状態。「2缶発注しても1つしか売ってもらえない材料もある」。剣持社長がいま最も求めるのは、まず流通の正常化だ。
そして、視察に訪れた都議らに対し「在庫がある材料は、できるだけ市場に開放してほしい」と訴えた。その一言に、現場の危機感が凝縮されている。
東京都は中小企業向けの制度融資や相談窓口を設けているが、現場で起きているのは、仕入れ環境の急激な変化、注文は増えているのに先の生産が読めない、という時間との勝負だ。
東京のものづくりをどう守るのか、情報の集約、業界への要請、流通調整、代替調達の後押しなど、町工場の実態に合った伴走型支援が求められている。
