これまで、地方税財政をめぐって国と東京都は長く平行線をたどってきた。東京都は、都内で生み出された税財源が地方に再配分される現行制度について、「何に使われ、どんな効果があったのか見えにくい」と問題提起し、国側は「偏在是正」の必要性を訴えてきた。対立の軸は一貫して“カネの移し替え”だった。
異例…財務大臣が都庁を訪問
ところが、東京都と国の関係に、これまでとは少し違う空気が流れ始めている。
4月20日、片山財務大臣が自ら都庁に足を運び小池知事と面会。財務大臣が都庁を訪問するのは、異例のことだ。
「限られたパイを取り合うというような、内向きな議論の先には我が国の未来はありませんね」
面会では、まず小池知事が改めて問題意識を示した。
そして、東京都から他道府県に配分される資金について、「地方の財源が真に増えているのかどうかよくわからない」「資金が何に使われているのか、その実態がよく見えない」「どのような効果が出ているのか分からない」と3点を指摘した。
さらに、東京から年間1.6兆円、累計12.6兆円超が地方に配分されたことに触れ、「都民や事業者、タックスペイヤーの皆さんに説明がつかない」と率直に語った。
単に“東京の取り分を返せ”という話ではなく、今の制度が地方の自立や成長につながっているのかを、政策効果の面から問い直したのである。
とはいえ、取材では記者から「わざわざ大臣がいらっしゃるということの意味」を問われ、「都とそして国、なかでも財務省の皆さんと連携ができるということは非常に大きいことです」と歓迎の意を表した。
その一方で片山氏も、国と東京都の協議会に触れたうえで、「東京都が日本の成長を牽引していただくように、ぜひ取り組みを進めてまいりたい」「(東京都の政策課題は)我々の成長戦略と地域未来戦略と、軌を一にしてこそ、爆発的な力がある」と応じた。
高市総理・片山大臣・小池都知事 3人共通の危機感とは
面会後、小池知事は報道陣に対し、「これまで通りの方式を取っていてよろしいんでしょうか」と問いかけたうえで、「このまま、ズルズルとさらに力が弱くなって、世界の中でその存在が薄れ、忘れかけられているということを皆さんお望みでしょうか。『どこかで大きく変えていきたい』と高市さんもそう思っておられる。片山さんもそうです。私もそう思っています。是非こういう形で、今の日本の危機的な様々な状況は一つひとつきっちりと、そして大胆に前へ進めるべきだと、このように強く思っております。」と述べた。
実は「初めて」 総理と都知事の協議会
また、“新たな空気感”は、国と東京都の協議会でも感じられる。
4月10日の初会合には、高市総理と小池知事、両トップが出席。
「日本経済の中心地であるグローバル都市東京が、更なる発展を遂げることは、『強い経済』の実現に向けて、必要不可欠でございます。」高市総理がこう切り出すと、小池知事も「強く豊かな日本、東京へ、しっかりと歩みを一にしながら進めていただければと思います」と応じた。
都の幹部らも、「これまで事務方での協議はあったが、(総理と都知事という)政治家同士が日本の成長を一緒に考える協議会は初めてだ」と話し、国との関係性の“変化”を感じている様子だった。
「うらやましい」を全国実装に
官邸での会議から7日後、小池知事の姿は、国会議員会館にあった。
「出生数でございますが、10年ぶりで出生数が通年でプラスに転じていく、日本人の出生数でございます」
小池知事は超党派の「産前産後の母体に対するケアを通じて包括的に女性支援を考える議員連盟」に講師として招かれ、都の少子化対策を説明していた。
東京都は、「シームレス(=切れ目なく)」を合言葉に、出会い・結婚支援から不妊治療、卵子凍結、無痛分娩、伴走型相談支援、家事育児サポーター派遣、産後ケアまで、妊娠前から産後まで支援を縦につなげる政策を進めてきており、東京都内の2025年の日本人出生数は11月までの累計で前年同期比0.7%増となり、10年ぶりに増加へ転じることが確実とみられている。
産後ケア議連は設立時から、産前産後ケアを起点に女性の健康を生涯にわたり支える基盤づくりを目指すとしてきた。産前産後の女性の9割超が腰痛などの身体トラブルを抱えながら、受診は15%にとどまるという実態や、助産師や理学療法士を含む多職種連携の重要性を指摘、中間報告案では、産後の休息や回復を「自己責任」にしない制度設計を訴えている。
東京都のシームレス実現と近い動きといえるだろう。
会場内からは「東京都がうらやましい」との声が上がったが、東京都の施策を“東京だけができる”で終わらせず、国が制度化し、地方で実装しやすい形にできるかが問われている。
対立ではなくシームレスで日本を強く豊かに
これまでの「偏在是正」は、東京から地方へお金を回すことで成り立ってきた。しかし、それだけで地方が強くなったのか、住民の納得が得られているのかという問いは残ったままだ。
いま必要なのは、東京と地方を対立させる発想ではなく、東京で芽吹いた政策を国が受け取り、全国にシームレスにつないでいくことではないか。
片山財務大臣の都庁訪問、国と東京都の協議体、そして小池知事自ら国会議員らと重ねる意見交換は、その入り口だ。
国と東京都の連携を、形式的なものではなく、実質的なものへ変えていけるのか。その結果、日本全体を“強く豊かに”できるのか、今、政治に問われているのは、まさにそこではないか。
