富山空港のビルと滑走路の一体的な運営が、今月から民間事業者の手に渡った。北陸新幹線の開業やコロナ禍、国際線の運休が重なり、2024年度の運営収支は5億8000万円のマイナス。「成り行きに任せていたら富山空港の将来はない」——そう語る新田知事のもと、県が民間活力の導入に踏み切った背景には、深刻な需要縮小という現実がある。再生を託された新たな運営会社のトップが掲げるのは、「ボトルキープができる空港」という、ユニークなビジョンだ。

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一日8往復から「東京と札幌のみ」に——縮小が続く空港の現状

富山市秋ケ島に位置する富山きときと空港は、全国で唯一、河川敷に立地する空港だ。神通川沿いに滑走路が広がり、晴れた日には反対側に立山連峰を望む、独特のロケーションを持つ。

しかし、利用者数の減少という課題に直面している。ピーク時の2004年には東京便が最大1日8往復運航され、年間139万人が利用した。ところが2015年の北陸新幹線開業を機に利用者は激減し、さらにコロナ禍が追い打ちをかけた。現在、定期便は国内線の東京便と札幌便のみ。ソウル、台北、大連、上海への国際定期便はいずれも運休中で、再開の見通しは立っていない。

2024年度の利用者数は39万5682人。国際定期便の運休による着陸料の減少や物価高騰も重なり、空港運営の収支は5億8000万円の赤字に膨らんでいる。

新田知事はこの状況を厳しく見据えている。「成り行きに任せていたら富山空港の将来はないと思っている。民間活力を導入することによって厳しい競争下の中でも需要をつくりだしていく。それが必要」と語る。

県が選んだ「民営化」という選択肢

こうした危機的状況を受け、空港を管理する富山県が3年前に打ち出したのが民間活力の導入だ。空港施設は県が引き続き保持しながら、その運営を民間に託す方式を選んだ。県は10年間で33億円の運営費用負担金を拠出する。

県航空政策課の山崎秀之課長は、その狙いをこう説明する。「このまま県で運営していくよりも費用負担が小さくなる形でシミュレーションをした上で運営費用負担金を計算している。まずは富山への用事をつくる所から始まり、取り組みを進めることで航空需要も自ずと増えていく」。空港の運営にとどまらず、地域活性化の視点を持った取り組みへの期待も込められている。

「南紀白浜を1.5倍にした男」が富山に来た

この再生プロジェクトに白羽の矢が立ったのが、富山エアポートの岡田信一郎社長だ。岡田社長は2019年、和歌山・南紀白浜空港の民営化に携わり、ワーケーション誘致や企業誘致といった地域活性化策を推進。わずか6年で空港利用者数を1.5倍に伸ばした、空港経営のエキスパートである。

岡田社長がまず目を向けたのは「景色」だった。「きょうはあいにくの雨だが神通川が見えて反対側には立山連峰が見える非常に見晴らしがいい。フェンスが低いという特徴があってこの見晴らしのよさをうまく生かしていきたい」と話す。河川敷という制約を、逆に強みへと転換する発想だ。

「ボトルキープができる空港」——ラウンジと駐車場改革

岡田社長がまず着手するのは、2階の土産スペースと喫茶店エリアのリノベーションだ。「土産物屋が広いということもあって、ラウンジにして富山らしさを出す」という構想で、地酒やますずしなど富山の物産を提供するラウンジを1年後の完成を目指して整備する。

そこで岡田社長が描くユニークなアイデアが「ボトルキープ」だ。「できたら常連がボトルキープできるような仕組みができたら、『自分の空港』というような感覚で友人や同僚と行った時にそのボトルを開けて飲むとか。そうすると愛着も増えるだろう」と語る。空港を単なる「通過点」ではなく、利用者が愛着を持つ「場所」にする——その哲学が、このアイデアに凝縮されている。

駐車場の見直しにも取り組む方針だ。現在、大部分が無料で提供されている駐車場は、空港利用者以外の車両が多く停まっている状態だという。岡田社長は、空港利用者以外への有料化も含めた検討を進め、「手前側の近いところをVIP専用駐車場のように差別化することで頻繁に使う方に優越感を醸成するような仕掛けをつくっていきたい」と話す。飛行機に乗る人がストレスなく空港を利用できる環境を整え、リピーターを育てる狙いがある。

ビジネス需要の取り込みで「季節に左右されない空港」へ

10年後の目標として岡田社長が掲げる利用者数は、年間53万7000人。現状の約1.3倍以上にあたる数字だ。その鍵を握るのが、ワーケーションや研修の誘致によるビジネス需要の取り込みである。

「ビジネスの方の特徴は平日にもいらっしゃる。観光シーズンに関係なく冬でもお越しいただける。エアラインにとってもビジネスの方は出張費などでチケット単価が高い、それで路線の収支にも寄与する」と岡田社長は分析する。観光客は季節に左右されるが、ビジネス客は通年で安定した需要をもたらす。南紀白浜での経験を生かし、富山でも同様のモデルを展開しようとしている。

また岡田社長は、現在すべて運休中の国際定期便についても、県と連携しながら運航再開や新規路線の就航に取り組む姿勢を示している。

全国唯一の河川敷空港という個性を武器に、「自分の空港」と呼んでもらえる存在へ——富山きときと空港の新たな挑戦が始まった。

(富山テレビ放送)

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