1日におよそ2軒のペースで失われ続けているとも言われる、京都の伝統的な木造建築「京町家」。
この「京町家」を守るため、京都市議会が可決した新年度予算案の中に、前年度比5倍以上にあたる約4億6000万円という異例の予算が。
観光客を魅了するその街並みは、なぜここまで追い詰められてしまったのでしょうか。
関西テレビ「newsランナー」が現場を徹底取材しました。
■「町家の暮らしは、日本人の原点」
緑あふれる坪庭。障子越しにやわらかな光が差し込む室内。
京都に根ざした伝統文化の体験施設として人気を集める冨田屋では、訪れた観光客が茶道や華道を楽しんでいました。
13代目当主の田中峰子さんは、京町家の意味をこう語ります。
【冨田屋13代目当主・田中峰子さん】「町家の暮らしは、日本人の原点ですよね。神様とともに暮らし、願って、祈って、感謝をする。これが町家の暮らしです」
訪れた外国人観光客も「全てにおいて行き届いている。すごく伝統を感じる」と感嘆の声を上げていました。
■「1日2軒ずつはなくなっている」
京都市によると、「京町家」とは1950年より前に建築された木造建築のこと。
国指定の文化財級のものから、市民が日常的に暮らす一般住居まで幅広く含まれます。
この日、建築士や、文化財の専門家が訪れたのは、1930年代に建てられた京町家です。一級建築士の岡田良子さんが建物の構造を解説しました。
【岡田良子さん】「今皆さんが立っているところが”走り庭”とか”通り庭”という、土間みたいな空間。吹き抜けになっているのが”火袋”といって、ここで煮炊きをした空気が窓から換気できるというもの」
京町家ならではの合理的な設計が、今もはっきりと確認できます。
しかし、窓を開けようとしても「枠がゆがんじゃっているので」と岡田さんが苦笑いするように、老朽化は深刻で、数年前からは空き家になっていました。
■建物を”新しく建て直す”ことが、法律上きわめて難しい「京町家」
さらに問題なのは、こうした建物を”新しく建て直す”ことが、法律上きわめて難しいという点です。岡田さんはこう説明します。
【岡田良子さん】「防火設備にしなくてはいけなくて、アルミの窓にしなくてはいけない。木製で建具を作ること自体がなかなか難しい」
伝統の工法で建て直すことが難しく、老朽化した建物はそのまま放置されるか、取り壊されるかという選択を迫られます。
京都市景観・まちづくりセンターなどの調査では、京町家は1日約2軒がなくなっているという状況に至っています。
■相続、コスト、地価高騰 所有者が直面する”3つの壁”
市内で開催された「京町家相談会」には、悩みを抱えた所有者が多く集まっていました。
取材を通じて浮かび上がってきたのは、所有者それぞれが異なる”壁”に直面しているという現実です。
・相続の問題
【相談会参加者】「もうおやじとおふくろが亡くなってるから、僕らの誰かが相続しないとハンコ押す人がいなくなる」
・活用方法がわからない
【相談会参加者】「どこかに相談すると、『潰して建物を建てたらどうや』とか言うんですよ。それはちょっと困るというかしたくない」
相談会を運営する京都市景観・まちづくりセンターの北川洋一専務理事は、近年の地価上昇が問題に追い打ちをかけていると話します。
【京都市景観・まちづくりセンターの北川洋一専務理事】「地代が高いですから、固定資産税がかかってしまうということで負担感は大きいですよね」。
同じ税金を払うなら、平屋や2階建ての町家より、高層ビルやマンションを建てたほうが収益を得やすく、その経済的な論理が、京町家の取り壊しを加速させています。
北川専務理事も「多くなってきてるんじゃないかなと思いますね」と認めました。
■「一体、京都って何なんだっていうことになってしまう」
文化財研究を専門とする京都美術工芸大学の井上年和教授は、歴史ある街並みが失われつつあることへの危機感を露わにします。
【京都美術工芸大学 井上年和教授】「この辺りは五条新地、五条楽園と呼ばれていたんですけど、18世紀頭ぐらいに開発が始まって、夜はご飯食べたり、女性を呼んで遊んだりというような町家が立ち並んでいた。それがなくなってしまうと、一体、京都って何なんだっていうことになってしまう」
歴史の積み重ねが刻まれた街並みが失われるということは、単なる古い建物の消滅ではありません。
京都という都市のアイデンティティそのものが問われる問題なのです。
■そば屋に宿る”昭和の記憶”
では、どうすれば京町家を残すことができるのでしょうか。井上教授と街を歩いていると、そのヒントが目に飛び込んできました。
京都・下京区にある「蕎麦手打ちたか橋」。
昭和初期に建てられたお茶屋を改修し、今年5月で創業から5年を迎えるそば店です。
女将の江原のり恵さんは「建物を生かしながら、こんな感じで経営している」と説明します。
改修はしていますが、できる限り当時のものを残しているのがこだわりです。
■床下には防空壕も現存
なんと、床下には防空壕まで現存しています。
「戦時中につくられたものですね。京都の町家、結構防空壕あるところ多いんですよ」と井上教授も驚きの表情を見せました。希望があればお客さんも入ることができるそうです。
江原女将は現状についてこう話します。
【蕎麦手打ちたか橋 江原のり恵女将】「古いまま使っている建物もだいぶ少なくなってきて、見せかけの町家に変化していってるのが現実。昔の風情を味わっていただくのに、身近な存在のお店としてやっていけたら」
新しく建てることが難しい以上、今ある建物の”良さを生かす改修”が鍵となります。
京都市が今回増額した約4億6000万円の予算は、まさにこの改修への補助に使われます。
■『8980万円』の京町家 内覧者の「半分以上は海外の方」
一方で、京町家を守るもう一つの選択肢が、そのブランド力を”お金”に換えることです。
京町家不動産の中積一代表が案内してくれた物件は、2階建ての2LDK。
町家らしい伝統の雰囲気と、アーチ型の水栓が目を引く最新キッチンなど現代の機能を兼ね備えた住宅に仕上がっています。
その価格は…『8980万円』。
1億円に迫るこの物件、内覧に来るのは「海外の方が半分以上」だといいます。いわゆるインバウンド需要がメインです。
中積代表はこうした状況を「海外の方が購入するのはやむを得ないと思っている。日本人の方以上に、その家の背景や伝統を大事にされる方もいらっしゃいますので」と話します。
ただし、中積代表はインバウンド頼みだけでは限界があるとも指摘します。
【京町家不動産 中積一代表】「町家を残すより新築にしたほうが快適で安心。我々は町家を残すメリット、経済的な価値もアドバイスして残すようにしている。先代の所有者の思いがあると(町家が)残っていく場合がある」
■「“稼い”で守るということは重要」橋下徹さん
番組に出演した橋下徹さんは、こう語りました。
【橋下徹さん】「歴史、伝統文化を単純に守るという思想だけではなく、“稼い”で守るということは重要。お金と言うと、またいやらしいって言われるかも分からないけど、稼ぐのは重要」
さらに、個々の所有者が稼ぐことと同時に、国全体として動く必要性も訴えます。
【橋下徹さん】「京都の街並みや雰囲気で、インバウンドを呼んで税収がものすごく増えてる。だから今回の京都市の予算増額と同時に、国がもっとお金をつけてあげないと。法人税から何から上がってるんだから」
宿泊税などの使い道について、元テレビ朝日アナウンサーで弁護士の西脇亨輔さんは、「街並みを味わわせてもらって癒されているため、そのためにお金を使うとなればみんな納得すると思う」と提案しました。
そして最後に力を込めて言い切ります。
【西脇亨輔さん】「1回消えちゃったらもう取り戻すのは大変。失われたら戻ってこない」
(関西テレビ「newsランナー」2026年3月25日放送)