NHKと民放各社はこの春、国際女性デーに合わせて、女性の生き方や健康について考える情報を放送やインターネットで発信する取り組み「#私らしく」を展開した。
これを機に、国連人口基金(UNFPA)駐日事務所の成田詠子所長、フジテレビ新美有加アナ、TBSテレビ篠原梨菜アナによる座談会が行われた。
「人権」をどう自分事として捉えるか、そしてメディアに何ができるのかを深く問い直す場となった。
ジェンダー、子どもを持つ選択、バングラデシュにおける児童婚の実情など、話題は多岐にわたったが、議論の根底にあったのは「知識の力」と「選択の自由」の重要性だった。
選択肢が奪われたとき人は尊厳を失う
対談の冒頭、UNFPA駐日事務所の成田所長は、国連人口基金の役割について「すべての妊娠が望まれ、すべての出産が安全であり、すべての若者が尊厳をもって生きられる社会を支える機関」だと説明した。
成田所長:
人権とは、結局は一人ひとりが自分らしく生きられるかどうかに尽きます。結婚するか、子どもを持つか、持たないか。どの選択が正しいかではなく、「正しい知識のもとで選べること―informed decision making」そのものが守られているかが重要。選択肢が奪われたとき、人は尊厳を失い、社会には歪みが生まれます。
児童婚は単なる有害な慣習ではない
その最たる例として語られたのが、バングラデシュにおける児童婚の現状だった。
成田所長によれば、バングラデシュでは、50%の少女が18歳未満で結婚し、ほぼ100%の人が結婚するというユニバーサル・マリッジ社会であり、背景には、貧困があると指摘する。
法律で禁止されていても、食べていけない現実の中で「娘の幸せのため」として未成年での結婚を選ばざるを得ない家族がいる。
とはいえ、児童婚は人権侵害であり、存在してはならない。児童婚への取り組みには、この実態を単なる有害な慣習として見るだけではなく、その根底にある貧困と人権侵害が絡み合った構造的な問題として対応することが必要なのだ。
さらに、強制的な結婚は女性だけでなく、男性にも深刻な影響を及ぼす。
自分の意思や性的指向を抑え込まれた結果、家庭内暴力へとつながるケースもあるという。「人権が守られない社会では、暴力が連鎖する」。その言葉は、日本に暮らす私たちにとっても決して無関係ではない。
女性アナウンサーが考えるメディアの役割
フジテレビ社内で誰もが安心して働ける職場作りなどを推進するサステナビリティ推進部を兼務している新美アナは、担当している人権プロジェクトの中での気づきについて語った。
新美アナ:
会社で女性に対する人権侵害があり、この1年かなりの知識を蓄えたことで、人権について考えるスタートラインにようやく立てるようになったと感じています。「知識」がなければ、そうしたバングラデシュの現状の問題点や改善への想像力が働かないということを感じています。知識と意識を高めていく必要があると感じています。
例えばですが、30歳で子供がいないと「不妊治療しているの?」と聞かれる違和感に気づいたり、言語化したりするためにも、「日本には一定の年齢になると結婚や出産を前提に見られるバイアスが存在する」という「知識」が必要だと思うんですよね。
企画に携わるTBS のYouTubeチャンネルで昨年も国際女性デーに関する番組を配信した篠原アナからは、日々の発信の中で悩んでいることが率直に共有され、「当事者意識」について3人で意見を交わした。
篠原アナ:
単刀直入に言うと、国際女性デーやジェンダーをテーマにした動画の再生数が回らないんですよ。当事者意識を持ってもらいにくいのかなと感じています。
新美アナ:
私が今まで受けてきた日本の教育では、人権問題はどこか遠い国の話のように感じてきました。逆に今の子どもたちの方が詳しいのかもしれない。大人になってからも学ばなければいけないと感じています。
篠原アナ:
人権は「自分を大事にして他人も大事にする」という本当にそれだけのことなんですけど、なかなか響かなくて悩んでいます。
ちゃんと一人一人の生きやすさや人生の選択に大事に向き合うということや、自己決定権に対する「見えない圧力」に対してどう向き合っていくのかは、メディアとしてすごく大切だなと思っています。
成田所長:
お二人の言うことに非常に共感します。今日最初にお会いしたとき、私が自己紹介で「結婚してない、子どもがいない」と言ったのはいいんですが、なぜ「パートナーがいる」と言ったのかなと考えると、日本の社会においてひとりぼっちっていうのがいけないような社会的圧力を、自分も感じていたのかなと。私も「見えない圧力」を受けている当事者だと思いました。
新美アナ:
メディアとして、当事者の声を置いて行かないことが大切だと思っています。
いかに人権が大切だということを報じても、一人一人に向き合わないと虚空に響いているだけになると思います。性的マイノリティ当事者への「アライ」のように、女性問題についても、男性にも輪が広がることで社会や政治が舵を切ろう、となってくると思います。
テレビはすぐにアクセスできる媒体なので責任を持って、当事者を置いていかない議論を進めていく必要があるんだと思います。
成田所長からは、メディアに向けたリクエストもあった。
海外ニュースではなく人権問題として
成田所長:
海外での児童婚、強制婚、売春といったことを報じるときに、外の世界の問題ではなく人権侵害で「私たちの問題でもある」としていただけると、私とニュースの先の相手との距離が埋まるんじゃないかなと思います。

今回の座談会は、国際女性デーのメディア連携に国連人口基金が賛同したことをきっかけに実現した。
日本国内でもジェンダー格差の課題は山積しているが、一見遠く思える国外の子どもや女性の尊厳を脅かす人権侵害の中にも、「自己決定権」や「見えない圧力」といった、私たちと地続きの課題があり、他人事ではないということに気づかされた。
自分らしく選択できる社会――それこそが、平和の礎なのだ。私たちにできるこを考え続けていきたい。
