宮城県岩沼市の海岸で保育士の女性が殺害された事件の裁判員裁判。
殺人などの罪に問われているのは、岩沼市の無職、佐藤蓮真被告(22)。
起訴状などによると、佐藤被告は2025年4月、岩沼市内の海岸の防潮堤の上で、仙台市太白区に住む保育士、行仕由佳さん(当時35)の胸などをペティナイフで複数回刺して殺害し、遺体を波消しブロックの隙間に遺棄した罪などに問われている。
後編では、遺族の意見陳述、突然最愛の母を失った幼い一人息子が記した手紙、そして、被告に下された判決を伝える。
※前後編の後編 裁判記録に基づく犯行の経緯は前編
遺族が語る無念と被告への憎悪
3月9日の法廷では、行仕さんの遺族による意見陳述が行われた。
父、兄、母、姉が、行仕さんの命を奪った被告に対する憎しみ、そして愛する家族を失った深い悲しみを、涙ながらに話した。
「もっといろいろなところへ行きたかった。ごはんも食べたかった。一緒に笑いたかった。抱きしめてやりたい。会いたい。」
「許されるなら俺が犯人に対して同じように、誰もいない真っ暗な場所で心臓まで達する深さまでナイフで何回も刺してやりたい。しかしそれはできないので、1番思い裁きを受けてほしい。」
「さみしがり屋の由佳を一人で逝かせるのは忍びなくて、後を追いたい気持ちでいた。ごめんね、守ってあげられなくて。由佳の代わりにお母さんで良かったのに。」
「由佳のまだまだこれからの人生を一瞬で奪った犯人が憎くて憎くて、こんなに人を憎むことなんてなかったし、人生でこんな気持ちになりたくなかった。」
4人の意見陳述では、最愛の母を突然失った幼い息子の様子も、詳細に語られた。
犯行があった4月12日の夜、息子が泣きながら「怖い、早く帰ってきて」とボイスメッセージを送っていたこと。
遺体が見つかったことを伝えたとき「ママと8年しかいられなかった、もっと一緒にいたかった」と泣きじゃくっていたこと。
行仕さんの無言の帰宅となった4月15日が、9歳の誕生日だったこと。
「ぼくのことわすれないでね。大、大、大好きだよ。みまもっていてね。」と書いた手紙を、行仕さんの棺に入れたこと。
事件の後、母親が帰ってこなかったあの日を思い出すのか、一人になることを極端に嫌がること。
幼い一人息子にとって、最愛の母を奪ったこの事件が、いかに深い傷を残しているのかが伝わる陳述が続いた。
そんな息子の心境は、すすり泣く声が響く法廷で、手紙として読み上げられた。
遺された息子が被告に宛てた手紙
行仕さんの息子が被告に宛てて書いた手紙は、遺族からの意見陳述の最後に、行仕さんの姉によって代読された。
こわい。こわかった。
ママのことユーチューブを見て待ってた。
ママが帰ってこなかったから電話もした。何回もした。でなかった。
その間もずっとこわかった。
ママが帰ってくるのをずっとまってた。
ママにあえなくて悲みしかった。
さみしかった会いたかった
今もさみしい。会たくなるママのこと今も大すき
ママをきずつけた人へ
ママのことお返してほしい
ママに会わせてほしい
どうしてママのこときずつけたの?
どうしてママだったの?
勉強とかしてないときにママを思い出す。
キャンドルとか作るときもママにおみあげ渡そうって思い出す。
今ママに会えたらぎゅーうしてほしい、だっこしてほしい大好きって
つたえたい
(原文のまま)
この手紙を、息子は40分ほどの時間をかけ、こみ上げる涙をこらえながら書き上げたという。読むと1分ほどの短い手紙のなかで、13回書かれた「ママ」という言葉。もう会えない、最愛の母への思いがあふれていた。
傍聴席から聞こえていたすすり泣く声は、もはや嗚咽となり法廷に響いた。冷静に審判を下す立場の裁判長も、目に涙をためながら聞いていた。
手紙が読み上げられている間、被告は顔を上げることなく、うつむきながら静かに涙をぬぐっていた。
検察が示した「身勝手な殺意」と、弁護側が主張した「未熟さと葛藤」
意見陳述のあと、むせび泣く声が残る法廷で求刑が行われた。
検察側は、無抵抗の行仕さんをナイフで何度も刺すという強い殺意や、スマートフォンに残された検索履歴やメモからうかがえる事件の計画性から「被害者から受けてきた恩を全く意に関することなく邪魔に感じて排除することにしたもので、極めて身勝手で自己中心的」と断じ、懲役25年を求刑した。
一方で弁護側は、人生経験の乏しさ、適切な判断ができなかった未熟さから、妊娠という現実に直面し、被告は強い不安と混乱の中にあったと述べ、計画はあったとしても、冷酷に準備された殺人とは性質が異なると位置づけ、懲役20年が妥当と主張した。
「自分自身に対して公開と憎悪しかない」被告の最終陳述

弁論の後、最終陳述を促された被告は、つけていたマスクを外して証言台に立った。
しばらくの間うつむいて黙っていたが、やがて、静かに語り始めた。
佐藤蓮真被告:
私が犯した過ち、行仕さんにしたことは許されるものではない。
35歳という若さにして、娘を失った由佳さんの遺族の気持ちは計り知れない。自分自身に対して後悔と憎悪しかない。由佳さんの遺族には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
「そして何より息子さんへ」と口にした後、涙をこらえているのか、言葉が止まった。
法廷にわずかな沈黙が流れた後、被告は再び口を開いた。
「世界でたった一人の大切な、大切な、かけがえのないお母さんの命を奪い、本当に申し訳ございませんでした。」
最後に被告は行仕さんの遺族に向き直り、「娘さんの命を奪い、本当に申し訳ございませんでした。」と頭を下げた。
この日、被告が見せた涙は犯した罪への後悔か、遺族・息子の心情に触れての反省か、それとも…
判決の瞬間
3月17日、判決の言い渡しを前にした法廷には、張りつめた空気が漂っていた。
被告席の佐藤蓮真被告は、白いワイシャツに黒のスーツ。これまでの公判と変わらない姿だった。
やがて、裁判長が入廷すると、被告は顔を上げた。そのまま、まっすぐ前を見つめる。
裁判長が主文を読み上げる。
「被告人を懲役21年に処する」
傍聴席から小さく「えっ」と声が漏れ、法廷の空気がわずかに揺れた。しかし、それ以上のざわめきは起きなかった。
検察側の求刑、25年よりも4年短い。
被告の表情は、前を見つめたまま変わらなかった。
判決理由で裁判長は、被告の行為を強く非難した。
被害者の好意を利用し、関係を継続したこと。妊娠後も態度を曖昧にし、結論を先延ばしにしたこと。そして最終的に、自らの利害のために殺人という最悪の手段を選択したことなどを、「身勝手極まる意思決定」と断じた。
一方で、被告が心理的に追い込まれていた側面や、計画のずさんさ、被告の帰りを待つ母親の存在など、考慮すべき点に触れた。
「短すぎる」友人が流した涙
厳罰を求め、約1万4000人分の署名を集めた行仕さんの友人、國井梓さんは、閉廷後に報道陣の取材に応じた。この判決に「あまりに短い」と涙した。
國井梓さん:
短すぎるしかないですね。何年になっても、行仕が帰ってくるわけではない…
遺族の悲しみと憎しみ、残された息子の絶望。そして友人の涙は、遺された者たちの思いと判決の間に、深く暗い溝があることを示していた。
