鹿児島県錦江町で、地方の人手不足と働き手のニーズをマッチングする画期的な取り組みが注目されている。愛知県から移住した画家がピーマンハウスで汗を流し、その傍らでアート活動に励む。そんな一見不思議な光景が、過疎と高齢化に悩む地域に新しい風を吹き込んでいる。
「ちょっと人手が欲しい」に応える新システム
2023年4月に設立された「錦江町MIRAIサポート協同組合」は、町の商工会やシルバー人材センターと同じ建物内に事務所を構える。この組合が提供するのは、従来の人材派遣とは一線を画すサービスだ。
「事業者も1年を通じて雇用できる環境じゃないと。『忙しい時は決まっています』『冬の間、3カ月だけ人が欲しい』という時にこちらの方で雇用する」と語るのは、久保秀作事務局長だ。組合の特徴は、派遣される職員が終身雇用の月給制で働くことにある。事前に組合に加盟した事業者は、1時間1200円で必要な時に必要な期間だけ人材を派遣してもらえる。
雇用関係は組合が担い、福利厚生も充実している。職員の収入は事業者の利用料に加えて国と自治体の補助金で安定的に支えられており、働く側にとっても安心できる制度となっている。

国の制度を活用した全国展開モデル
この組合は国の「特定地域づくり事業協同組合制度」を活用して設立されたもので、同様の組合は全国138カ所に存在する。背景にあるのは、過疎や高齢化による深刻な人材不足だ。
建設会社大山組の大山卓郎社長は、「我々の地域も結構人出が不足しております。今、年度末で忙しい繁忙期にお願いして組合に聞いて派遣してもらっている」と制度の有効性を語る。
組合職員の本釜拓弥さんは、「最初の方は考えていなかった。話をもらって、いろいろな働き方ができると。自分も決まっていなかったので、色々なことを経験して勉強していきたい」と新しい働き方への期待を表現している。

移住者にとっての魅力的な選択肢
特に注目すべきは、この制度が移住者の働き先としても機能していることだ。愛知県から錦江町に移住した画家の越山由唯さんは、収穫最盛期を迎えたピーマンハウスで作業をしながら、町での創作活動や絵画教室も行っている。
「とても充実している。アーティスト活動もしつつ、仕事も皆さん親切。働きやすい環境にあるので両方の活動がしやすい」と越山さんは語る。派遣先での人との出会いも、この制度の大きな魅力の一つとなっている。

現在、錦江町では14の事業者に6人の職員が交代で派遣されており、そのうち3人が移住者だ。鳥越農園の鳥越秀一さんは、「新しい風というか、良い感じで若い人たちと話ができて、特技を持つ方も魅力がある」と移住者との交流を歓迎している。
地域活性化への好循環
この制度は単なる人材マッチングを超えて、地域全体の活性化につながっている。画家の越山さんは今度アメリカで展示会を開く予定で、そこに自分が栽培に携わった錦江町産のお茶を持参してPRするという。芸術と農業、そして地域プロモーションが一体となった取り組みは、まさに地域が元気になる好循環を生み出している。

働きたいけれど働く場所がないという地方の悩みと、人手が欲しいけれど年間を通した雇用は困難という事業者の課題。これら双方の悩みをマッチングさせた新しい働き方が、過疎の町で着実に広がりをみせている。錦江町の取り組みは、全国の過疎地域にとって希望の光となりそうだ。
(動画で見る▶運営者・利用者が語る「終身雇用で派遣する」地方モデル 鹿児島・錦江町の人材協同組合が示す過疎対策の新潮流)
