大好きな「紅茶」をきっかけに観光ツアーを企画した広島の女子大学生がいる。
舞台に選んだのは東広島市の白市地区。歴史ある町並みが残る一方、観光地としてはまだ広く知られていない。そこで目を向けたのが、特産の「白市紅茶」だった。
アルバイト先も紅茶のお店
新しくなったJR広島駅の通路を足早に歩く女性がいた。
県立広島大学3年の深井美沙樹さん。
この日はアルバイト。向かった先は駅ビルの中にある「アフタヌーンティー・ティールーム」だった。
「昔から紅茶が好きで、紅茶を専門に扱っているここに決めました」
店内には、ふわりと紅茶の香りが漂う。深井さんの“紅茶好き”は子どものころからだという。
「幼い時、母がミルクティーを飲ませたら反応が良かったみたいで。それから毎朝飲むようになりました」

自宅にはさまざまな紅茶のコレクションが並ぶ。就職活動など、緊張する場面でも紅茶は欠かせない。
「面接前とかすごく緊張している時に飲むと、落ち着いていつも通りの気持ちになれます」
アルバイトを通して、紅茶の種類や淹れ方を学ぶ楽しさも知った。その魅力を「誰かに伝えたい」。そんな思いが芽生えていった。
地元の町と紅茶を結ぶアイデア
深井さんは、県立広島大学の地域創生学部で地域の課題解決や活性化を学んでいる。
2025年、ゼミの3年生8人でチームを組み、内閣府主催の「地方創生 政策アイデアコンテスト」に応募。大好きな紅茶と地域を結びつける観光ツアーを考案した。
舞台に選んだのは、深井さんの地元・東広島市の白市地区。国指定重要文化財を含む歴史的な町並みが残る一方、観光地としてはまだ広く知られていない地域だ。
「地域課題を解決するなら、育ってきた地元を活性化させたいという思いがありました。東広島市の中で探していくと白市にたどりついて、そこにたまたま紅茶という資源があった。私が紅茶好きなので、ツアーに生かしてみたいと思いました」
「白市紅茶」は、農薬や化学肥料を使わずに栽培される。茶葉は新芽と若葉だけを摘み取り、手作業で加工した100%国産の紅茶だ。
深井さんとゼミのメンバーは何度も白市に足を運び、生産者や地域の人に話を聞きながらツアーの内容を練り上げていった。人口減少が続く町にとって、若い世代の関心は大きな励みになっている。白市の町家保存活動に取り組む伊原聡子さんはこう話す。
「町に興味を持って研究対象にしてくれるのは本当にありがたい。私たちも若者と一緒に白市を盛り上げていきたいと思っていました」
このアイデアはコンテストで「優秀賞」を受賞。
さらに旅行会社の目に留まり、“日帰りバスツアー”として商品化されることになった。
学生の企画が本物の観光ツアーに
2月中旬、ゼミのメンバーは旅行会社を訪れ、当日の計画などを打ち合わせしていた。
学生たちもバスに同乗し、深井さんが冒頭のあいさつを担当することになった。
「みんなで作り上げてきたので、その思いをお客さんにちゃんと伝えられるように準備して挑みたいです」
担当した「たびまちゲート広島」の西山大介さんも学生との取り組みにメリットを感じている。
「正直、すごくニッチなところを見つけてきたなと。僕らはどうしても頭が固いので、新しい発想が欲しい。大学生とコラボして新たな視点を見つけていきたい」
そして迎えた2月27日、ツアー当日。
「緊張というよりは、商品化してうれしい気持ちが勝っています。楽しみでわくわくしています」
バスの中で、準備してきたあいさつ文を見返す深井さん。
そしてマイクをにぎった。
「本日はご参加いただきありがとうございます。このツアーを通して、データだけではわからない地域の魅力やストーリーを体験しながら感じていただければと思います」
白市の町家で味わう“特別な一杯”
ツアーではまず東広島市の仙石庭園を散策し、白市地区の町家でこの時期ならではのひな人形を鑑賞。その後、オリジナルのひな人形づくりを体験した。
20人の参加者全員が楽しめるよう、学生たちは散策コースの案内やひな人形づくりをサポートしていた。
そしていよいよ、今回の主役でもある「白市紅茶」のティータイム。
「御屋敷紅茶工房」代表の山本陽子さんを手伝い、カップに紅茶を注いでいく。
「上手です。何も言わなくてもちゃっちゃっと」
そう言われ、深井さんの表情がほころぶ。
使われた茶葉は、夏に摘み取る「白市紅茶 セカンドフラッシュ」。コクのあるしっかりとした味わいが特徴で、苦みが少なく紅茶本来の香りを楽しめるという。
温かい紅茶が参加者の元に運ばれた。
ひな人形に囲まれて味わう特別な一杯。参加者から思わず声が上がる。
「もっと飲みたい」
紅茶は大人気。おかわりを頼む人たちの姿も見られた。
「好き」が地域を元気づける
紅茶農家の山本さんも、学生たちの取り組みを喜んでいる。
「少しでも地域活性化につながればいい」
参加者がティータイムを楽しむ中、深井さんは山本さんにこう切り出した。
「お願いがありまして、卒業研究で白市紅茶を扱わせていただきたいんです。ぜひ今後もよろしくお願いします」
若者からの突然の申し出に驚きながらも、山本さんは深く頭を下げた。
「こちらこそ、お願いします」
ツアーは無事終了。
参加者からは「予想以上にとっても良かった」「大学生がすごく寄り添ってくれて町歩きも安心だった」といった声が寄せられた。
深井さんも手応えを感じていた。
「白市の名前は知っていても、こんな魅力があるとは知らなかったという反応が多かった。普段、紅茶を飲まない人の反応も知ることができたので、卒業論文に取り入れていきたい」
紅茶が好き。その気持ちから生まれたアイデアが、地域をめぐる観光ツアーになった。
深井さんの紅茶の物語は、まだまだ続きそうだ。
(テレビ新広島)
