東日本大震災と原発事故後、人のいなくなった街で野生動物が増加した。農作物を守るため、コメ農家から猟師に転身した男性がいる。「やりたくない」と葛藤しながらも、故郷のために引き金を引く。彼が顔と名前を明かせない理由とは。

農作物を守るため廃農し猟師へ

東日本大震災後、福島県では野生動物が増え続けている。本来、人の手で個体数が管理される野生動物だが、東京電力・福島第一原発での事故で約16万5000人が避難を余儀なくされた福島県では、それが難しくなった。
数が増えすぎると農作物への被害や生態系の変化、人への攻撃など様々な問題を引き起こす。福島県はイノシシだけで年間2万5000頭以上の捕獲を目標に掲げており、その役割を担うのが猟師である。

東日本大震災後の福島県・避難区域
東日本大震災後の福島県・避難区域
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取材に応じた一人の男性は「名前も顔も出すことは出来ない」ことを条件とした。彼は元々コメ農家だったが、福島第一原発事故で田んぼがあった場所が避難区域に設定された。
人がいなくなった街で野生動物の生息域は広がり、営農を再開した田畑は食い荒らされ、収穫の喜びも奪われた。男性は「農家はいつごろ収穫できるか楽しみにしている。だから、それがもうできないというのは、やっぱり心えぐられる状態」と語る。
彼はふるさとの農業を守るため、自らの農業を辞め、猟師になる道を選んだ。

「やりたくない」命を奪う葛藤

男性が仕掛ける罠には、年間150頭の野生動物が捕獲される。「可哀想に、でもしょうがないな。土地の形変わっちゃうから、やむを得ない」と語る。
命を奪う行為には、常に葛藤がつきまとう。
「どうしたものかなって考えるのは毎回ですよ。やりたくないですよ、本音としては。だって結局とどめさす相手も生き物なので」

奪った命に手を合わせる
奪った命に手を合わせる

駆除したイノシシに向かって手を合わせ「ごめんな」とつぶやく。男性は「人間が檻の中で生活するわけにはいかない。だから究極の選択でやむを得ず駆除しているだけの話」と、その行為の重さを口にする。

放射能の影響…弔いもできず

葛藤は、命を奪った後も終わらない。
福島県内では、一部地域を除き、野生動物は放射能の影響で出荷制限や接種制限がかけられ、食材として活用することができない。
「命を奪っているわけなので、本来は家畜と同じく食料にしてもらった方がまだマシだけど、残念ながらここの地区はそうはいかない」と男性は語る。

駆除された野生動物は焼却される
駆除された野生動物は焼却される

駆除した動物は、震災後に増加した野生動物を適正に処分するために設立された「有害鳥獣焼却施設」へと運ばれる。「獣でもおいしく食べられるのであれば、弔いにもなるのではないか」と、活用できない命への無念さをにじませた。

理解されない現実と匿名の理由

猟師の役割は、必ずしも社会から理解されるものではない。行政には、野生動物を駆除しないことを求める声も寄せられているという。
「全然仕事にならないくらいクレームの電話がいっていたわけで、あえて顔や名前をおおっぴらにしないのは、そういうこと」と、男性は匿名を条件とした理由を明かした。

「理解してもらえないのはとても残念だよ」

誰かがやらなければ…葛藤が続く
誰かがやらなければ…葛藤が続く

それでも男性は、かつて命を育んできたその手で、引き金を引く。
「故郷を捨てる気はない。元に戻れなくなってしまったけども、でも勇気を出して戻ってきて生活している人もいる。その人たちのために、助け舟ではないけども、少しためになることやれればいいなって。でもやっぱり、誰かはやらないといけない」
猟師たちの静かな祈りの先に、この土地の暮らしが続いている。

(福島テレビ)

福島テレビ
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